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相続放棄が過去最多26万件~相続放棄とは?放棄するとどうなる?

竹内豊行政書士
相続放棄が過去最高に達しました。相続放棄をするとどうなるのでしょうか?(写真:イメージマート)

全国の家庭裁判所が受理した相続放棄の件数が2019年は22万5416件、20年が23万4732件、21年が25万1994件と増え続け、22年は過去最多の26万497件が受理されたことが9日、司法統計で判明したと報道されました(相続放棄、過去最多26万件 空き家増え、対策課題

記事によると、相続放棄が増え続けている背景の一つに、親が亡くなり、亡き親が残した不動産(実家)の維持費や固定資産税の負担の回避があるようです。

「相続放棄」という言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、その実体はあまり知られていないようです。そこで、今回は相続放棄について解説したいと思います。

死亡すると財産はどうなる?

人が死亡するとその人の財産は法律的にどのようになるのでしょうか。あの世まで財産を持って行くことはできません。そこで、法は死亡した人が残した財産の引き継ぎのルールを定めています。

相続財産の「共有」が始まる

遺言書を残さないで人が死亡すると、その瞬間に相続が開始して相続人による相続財産の共有が始まります。共有とは、数人が持分(共同所有の割合)を持って1つの物を共同で所有する場合であり、しかも、各自の持分がはっきりしている状態をいいます。

このように、法律上は被相続人(死亡した人)の相続人は有無を言わさず被相続人の相続財産を共有することになります。その理由は、人が死んだからといって死者の財産が「だれのものでもない」という状態が起きてしまったら社会的・経済的に大混乱に陥ってしまうからです。

財産を引き継ぎたくない場合どうしたよい?

しかし、相続人の中には何らかの理由で「死んだ親の財産はいらない」といったように、相続財産を引き継ぐことを拒否したい人もいるでしょう。また、相続財産はプラスの財産だけとは限りません。被相続人がプラスの財産を上回る借金等のマイナスの財産を残して亡くなってしまって、たまたま相続人だからという理由で自分の責任ではない負債を引き継がなくてはならない気の毒な人もいるでしょう。そこで、被相続人の相続財産を引き継ぎたくない人のために、法は相続放棄という制度を用意しています。

相続放棄の方法

相続放棄をしたい相続人は、被相続人が亡くなったことによって自分が法律上相続人となった事実を知ったときから3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申立てを行わなければなりません(民法915条)。

民法915条(相続の承認又は放棄をすべき期間)
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

ここで注意したいのは、相続放棄の申立期限は「被相続人が死亡したときから」ではなく「自分のために相続が開始したことを知ったときから」3か月以内ということです。

相続放棄をするとどうなる?

相続放棄をするとその相続に関しては初めから相続人にならなかったものとして扱われます(民法939条)。

民法939条(相続の放棄の効力)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす

「初めから相続人にならなかった」のですから、もし、被相続人が生前に借金をしていた相手(債権者)から「あなたの法定相続分だけ被相続人の借金を支払え」といった督促状が届いても支払う義務はありません。具体的には債権者に家庭裁判所から発行された相続放棄が受理された証明書(相続放棄受理証明書)を債権者に提示すれば足ります。

なお、前述のとおり、相続放棄をすれば「初めから相続人にならなかった」とみなされるため代襲相続は発生しません。したがって、親の相続を放棄した子に代わって、放棄した子の子(=被相続人の孫)は相続人になりません。

「形見分け」は慎重に!

相続財産の全部または一部を引き継いだ相続人は、単純承認をしたとみなされます。単純承認とは、相続財産を負債も含めて全面的に引き継ぐことをいいます(民法920条)。

民法920条(単純承認の効力)
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

その結果、単純承認をした相続人は、無限に被相続人の権利義務を承継します。つまり、単純承認をしたとみなされると相続放棄ができなくなるおそれがあります。

高額な遺品を形見分けとして譲り受けてしまうと「単純承認をした」とみなされることもあるので、被相続人がマイナスの財産を残している場合や相続財産の範囲と評価が確定していない段階では、高額な遺品の形見分けは行わないのが無難です。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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