【体操】1年のブランクを経て優勝した杉原愛子が示す“自然体の二刀流”
■演技構成の難度も出来映えも素晴らしかった
6月10、11日に東京・代々木体育館で開催された体操の全日本種目別選手権。今秋の世界選手権代表選考会を兼ねて行われたこの大会で女子のゆかを制したのは、昨年6月に競技の第一線から退いていた杉原愛子(武庫川女子大)だった。
今大会で杉原は6月10日の予選を12.966点、3位で通過。11日の決勝は13.400点をマークした。出来栄えや美しさを示すEスコアが出場8人でただ1人8点台となる8.200点だったことの素晴らしさはもちろん、演技の難度を示すDスコア5.2は1年のブランクがあった選手とは思えないほどレベルの高いものだった。
「予選を3位で通過できていたので、メダル(3位以内)を狙えたら良いと思っていました。自分でもめっちゃ驚いています」というコメントは率直な感想だろう。ただ、「自信を持ってやれた」と振り返った通り、相応の練習を積んできたことへの手応えがあったのも間違いないはず。「全然緊張しなかったので楽しかった」と語る笑顔は輝いていた。
■昨年6月に一線を退いたとき「引退ではなく一区切り」と語っていた
杉原は大阪出身。高校1年生だった2015年4月の全日本体操個人総合選手権で3位に入って頭角を現すと、すぐに翌5月のNHK杯で初優勝を飾り、この年の世界選手権の日本代表入りを果たした。
今回の全日本種目別選手権で優勝したのはゆかだが、元々は4種目とも高いレベルの実力を持つオールラウンダー。16歳で出場した2016年リオデジャネイロ五輪では村上茉愛、寺本明日香らとともに日本の48年ぶり団体総合4位に貢献した。
そして、自身にとって2度目の五輪となった東京五輪では、3位とわずか0.816点差の団体総合5位だった。
リオ五輪があった2016年から2021年の東京五輪までの間、一度も欠かすことなく世界選手権や五輪に出場し続けたように、ケガに悩まされながらも代表選考会の勝負どころでコンスタントに実力を発揮してきた選手でもあった。
昨年6月、全日本種目別選手権のゆかで2位になったのを最後に競技生活の第一線を退くことを表明したが、その時から一貫して「引退ではなく一区切り」という表現をしていた。大学では学生コーチとして後輩の指導に当たりながら、それとは別の時間に練習。今年の全日本種目別選手権はビデオ審査を通過しての出場となった。
■会場は曲に合わせた手拍子で盛り上がった
6月11日の種目別選手権決勝では冒頭部分に「007」のテーマ曲、後半部分は昔からの大ファンである『AAA』のNissy(西島隆弘さん)の曲「NA」を使用した音楽に合わせて演技。会場中に手拍子が起き、大いに盛り上がった。
杉原は、「目標としていた一つのエンターテインメントの作品で、手拍子もいただきながら演技できました。ファンの皆さんには本当に感謝しかありません」と満面に笑みを浮かべていた。
自身の演技後は他の選手を絶賛応援した。それは、「若手の選手もみんな凄く良い演技をしているので、(多くの人に)見てほしいという思いがあったし、頑張ってほしいという思いもあった」から。
「今はコーチ業もしていますし、審判やエキシビションなど、いろいろなことをさせてもらっている中で、今回は選手として大会に出て、“二刀流”に近づいたのではないかと思います。アピールはできたと思います」と胸を張った。
次は9月の全日本シニア選手権に出る予定だ。
「次は4種目になるので、個人総合にまた戻れるように、指導もしながらも自分の練習もしっかり怪我のないようにやっていけたらいいかなとは思っています」
杉原の口調は充実感に溢れている。