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ウクライナ軍「ロシア軍に占拠された原子力発電所に神風ドローンで攻撃」国際法の観点から

佐藤仁学術研究員・著述家
ザポリージャ原子力発電所(写真:ロイター/アフロ)

ロシア兵3人死亡12人負傷

2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民生用ドローンも監視・偵察のために両軍によって多く使用されている。

両軍の攻撃ドローンによる地上への攻撃は多く行われているが、2022年7月20日にはウクライナ軍の攻撃ドローンがロシア軍によって占拠されたエネルホダルにあるザポリージャ原子力発電所に攻撃をしたとウクライナ軍が発表した。英国メディアのザ・サンは映像も公開している。ウクライナ軍によると攻撃ドローンによる攻撃で3人のロシア兵が殺害され、12人のロシア兵が負傷した。攻撃をうけて爆発したシーン、逃げ惑うロシア兵の様子も上空から撮影されて公開されている。

攻撃ドローンは「Kamikaze drone(神風ドローン)」、「Suicide drone(自爆型ドローン)」、「Kamikaze strike(神風ストライク)」とも呼ばれており、標的を認識すると標的にドローンが突っ込んでいき、標的を爆破し殺傷力もある。日本人にとってはこのような攻撃型ドローンの名前に「神風」が使用されるのに嫌悪感を覚える人もいるだろうが「神風ドローン(Kamikaze Drone)」は欧米や中東では一般名詞としてメディアでも軍事企業でも一般的によく使われている。今回のウクライナ紛争で「神風ドローン」は一般名詞となり定着している。

ウクライナ語では「Дрони-камікадзе」(神風ドローン)と表記されるが、ウクライナ紛争を報じる地元のニュースで耳にしたり目にしたりしない日はないくらいだ。英国メディアのザ・サンでも「Ukrainian 'Kamikaze Drone' strikes Russian troops at nuclear plant」というタイトルで動画を公開している。

原子力発電所への攻撃は本来は禁止だが

今回の原子力発電所の攻撃に使用された攻撃ドローンの機種は明らかにされていないが、多くの攻撃ドローンが欧米からも提供されているし、ウクライナで開発されたものもある。米国バイデン政権は2022年3月に、米国エアロバイロンメント社が開発している攻撃ドローン「スイッチブレード」を提供し、すでにウクライナ軍によって利用されているが、これも神風ドローンのタイプだ。またポーランド製の「WARMATE」も神風ドローンだ。ロシア軍も「KUB-BLA」や「ZALA KYB」といった神風ドローンでウクライナ軍に攻撃を行っている。

武力紛争法(国際人道法)では「軍事目標主義」を掲げており、攻撃の標的は軍事に関わる施設や軍人が対象で、文民や民用物への不当な攻撃を防止している。ウクライナ紛争では両軍によって攻撃ドローンによる攻撃が行われているが、標的は戦車や基地などの軍事施設である。

ジュネーブ諸条約第1追加議定書では保護されるべき民用物を明示しており、文化財、礼拝所、平和的住民の生存に不可欠なもの(農業作物、家畜、飲料水等)、危険な威力を内蔵する施設(原子力発電所、ダム、堤防)に対する攻撃を禁止している。但し「一般住民に重大な損失を引き起こす場合には」原子力発電所を攻撃対象としてはならないが「無力化が明確な軍事的利益をもたらす」場合は除いている。

ウクライナ軍は軍隊であるから武力紛争法(国際人道法)については熟知しているはずである。神風ドローンは標的にピンポイントで突っ込んでいき爆破するので、損傷範囲も限られる。ウクライナ軍は原子力発電所の施設を神風ドローンで攻撃しても、放射能の放出のような一般住民に重大な損失を引き起こさないし、かつ攻撃をすることでロシア軍を無力化してウクライナ軍にとって軍事的利益をもたらすことができると判断して攻撃したのだろう。

1949年ジュネーブ条約第1追加議定書

第56条(危険な力を内蔵する工作物及び施設の保護)

1.危険な力を内蔵する工作物及び施設、すなわちダム、堤防及び原子力発電所は、これらの物が軍事目標である場合であっても、これらを攻撃することが危険な力の放出を引き起こし、その結果文民たる住民の間に重大な損失をもたらす時は、攻撃の対象としてはならない。これらの工作物または施設の場所または近傍に位置する他の軍事目標は、当該他の軍事目標に対する攻撃がこれらの工作物または施設からの危険な力の放出を引き起こし、その結果文民たる住民の間に重大な損失をもらす場合には、攻撃の対象としてはならない。

2.1項に規定する攻撃からの特別の保護は、次の場合にのみ消滅する。

(b)原子力発電所については、これが軍事行動に対し常時の、重要なかつ直接の支援を行うために電力を供給しており、これに対する攻撃がそのような支援を終了させるための唯一の実行可能な方法である場合

(c)1項に規定する工作物または施設の場所または近傍に位置する他の軍事目標については、これらが軍事行動に対し常時の、重要なかつ直接の支援を行うために利用されており、これらに対する攻撃がそのような支援を終了させるための唯一実行可能な方法である場合

(「国際条約集 2020年版」有斐閣、2020年 P784)

2項(a)は原子力発電所と関係ないので割愛しています。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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