メキシコ戦、先発・森下が見せた“ひと味違った”国際大会向け投球術~侍ジャパン観戦記~
安定感ではリーグ随一ともいえる森下暢仁だけに、5回を投げ被安打は散発5、無四球、2失点は驚くほどのものではないかも知れない。とはいえ自身にとっては初の五輪での登板。勝てば予選1位通過という大事な試合だ。
案の定というか、初回は手探りの中で失点した。
まず先頭のロドリゲスにストレートを続けた2球目をライト前に弾かれ、自身の暴投で無死二塁に。2番のエリサルデはレフトフライで1死取るが、3番のメネセスに6球投じた挙げ句にセンター前タイムリーを許し、先取点を奪われる。国際大会では最も気をつけなければいけない先制点だ。
しかしその後は散発のヒット3と粘った投球を披露した。
印象的だったのは、持ち球の使い方だった。森下のシーズン中のそれは、ストレートが全投球の約半数で、次にカットボール、カーブ、チェンジアップと続き、わずかにスプリットも使う。この持ち球をどう駆使するのか。それが見どころとも思っていた。
メキシコは初対戦の相手。ただ前夜の30日にはドミニカと戦っていた。先発投手としてその試合を見ていたかどうかはわからないが、メキシコ打線の傾向としては、
①イメージほど一発長打のある打者は少ない。ただし雑な打線ではない。
②ラテン系らしく積極的に振っては来るが、案外と待球も心得ている。
③ストレートとタテ系に落ちる変化球の組み立てにはもろい。
そんな感じが見て取れたはずだ。またドミニカの先発は巨人のサンチェス。彼の投球への反応からも、実力や傾向は計れたはずだった。サンチェスは強いストレートと低めに制球されたチェンジアップでメキシコ打線をほぼ抑え込んだ。
ならば森下も持ち味のストレートと、普段は少ないチェンジアップを多投してくるかどうか。
結果は外れた(苦笑)。球速は、リーグ戦では最高球速が150キロ台半ばまで出る森下だが、この日の登板では147、148キロ程度。やや抑え気味だった。変化球もスプリットは見た限り、1、2球あっただろうか。考え過ぎとは思うが、使用球に多少の違和感でもあったのかも知れない。
今回、五輪での使用球はSSK。日本製のものだ。なので多くの投手は違和感なしと述べていたが、それでもリーグ戦のMIZUNOに比べると滑りやすいなど若干の違いがあるという(まあ考え過ぎだろう)。
カーブの使い方という味付け
それでも違いが見て取れたのは、カーブの使い方だった。全投球68球のうち、ストレートは41、カーブが13、カット、チェンジアップがそれどれ7球と、ストレート中心は変わらないものの、カットよりカーブの方を使っていた。68球のうちの13球。必ずしも多い数ではないが、ストレート主体に時折110キロ台のカーブを混ぜることで、相手打者に的を絞らせない流れを作ることが出来た。そのカーブも13球のうち8球がストライク。つまりストレート系を待っているところでポンと曲がり落ちる緩い球でストライクを取る。1回の先制点を奪われた後、その教訓としてか、効果的なカーブの使い方で2回以降は落ち着いた投球を見せるようになった。
日本では“邪魔な球”という表現がある。狙いとはまったく違う球種を投げられることで、打者は頭の中での組み立てが混乱してしまう。それを森下は国際大会の場で実践して見せたわけだ。
国内のリーグ戦なら、ひとつの攻め方として決して珍しいものではない。ただ国際大会は違う。おそらくどの国の打者でも、このカーブを狙って打ちにいく打者はいない。なにより北中米の野球では、大きく曲がり落ちるカーブという球種自体、投げる投手はそうはいないのだ。
また好投の要因のひとつには、積極的なストライク先行もあった。68球のうちストライクは35。ただあえてボール球にしたりという場面もあったので、印象的にはつねにストライク先行と打者には映ったはずだ。言い換えれば誘い球などを使う日本的な投球ではなく、ホームベース上で勝負する投球パターン。これは海外の野球のセオリーではあるが、いわば相手の土俵に乗った上で、カーブという彼らには特殊な球を効果的に配し、攻めた。結果、奪三振は3つと少ないが、ゴロ7つなど手堅く打ち取る投球が奏功した。横浜スタジアムには相性がいいという森下だが、国際大会にも向く投球で、その実力を証明したメキシコ戦だった。
次の登板はどの国相手か。今回の規定では、直前にならないと相手がわからないが、あるいは今度はまた違った投球パターンを見せてくれるかも知れない。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】