金価格が約1ヶ月ぶりの高値圏へ ~そのロジックと今後の展望~
内外の金価格が再び地合を引き締めている。COMEX金先物相場は、10月15日安値の1オンス=1,251.00ドルをボトムに、25日終値では1,352.50ドルまで、2週間で累計100ドルを超える反発となっている。東京商品取引所(TOCOM)の円建て金先物価格も、1グラム=4,250円前後と約1ヶ月ぶりの高値を更新しており、9月から10月上旬にかけての全面安の流れが巻き戻されている。
金価格反発の原動力となっているのは、米連邦準備制度理事会(FRB)による金融緩和が長期化するとの期待感・警戒感である。
従来、バーナンキFRB議長は「年内の債券購入縮小」、「来年半ばの債券購入停止」というスケジュールをマーケットに提示し、金価格もこうした見通しを織り込む形で価格水準を切り下げてきた。米金融政策が正常化に向かうのであれば、ペーパー通貨に対する代替性が評価されてきた金価格が高値を維持する必要性は乏しくなるためだ。少なくとも、他資産価格を上回るようなパフォーマンスは要求されないことになり、逆に今年のコモディティ市況安を先導する役割を果たしてきた。
しかし、米連邦債務上限を巡る一連の混乱を受けて、この見通しが修整を迫られていることが、金価格の反発を促している。現在の市場コンセンサスは、少なくとも来年3月までは量的緩和政策の規模縮小(=テーパリング)は困難との見方に傾いており、12月米連邦公開市場委員会(FOMC)での政策変更を見込んで金相場を売り込んできた投機筋が、損益確定のための買い戻しを迫られている。
■基本的な相場構造は何も変わっていない
問題はこれによって金価格が再び上昇トレンドに回帰するか否かであるが、一時的な修整高との理解で十分だろう。
少なくとも今後5ヶ月程度は毎月850億ドル(約8兆3,000億)のペースでドル紙幣が増刷されることになり、ドルの通貨価値を毀損する動きは継続されることになる。ただ、これのみでは再び投機マネーが金市場に本格流入するのは困難な状況にあるためだ。
確かに金融政策見通しは修正を迫られているが、そこで問われているのは「緩和縮小の開始時期が数ヶ月先送りされるか否か」といったレベルの議論であり、金価格のトレンドにとっては些細な問題に過ぎない。従来想定されていたよりもドル紙幣の最終的な供給量は上振れすることになるが、テーパリングに向けての流れそのものが修整されない限り、再び金相場を買い進むことは難しい。
実際、米株式相場は改めて過去最高値更新を窺う展開になっているが、コモディティ市況は寧ろ軟化しており、単純なリスクオン投資の動きは見られない。米国債が再び買われているものの、こちらも5月から9月にかけての強力な売り圧力の記憶が新しく、改めて米国債の保有を拡大することには慎重ムードが目立つ。
結局の所は、資産価格のトレンドに修整を迫るような材料とは評価されていないと言うことである。目先は米金融政策見通しに関する市場コンセンサス修整という一時的なショックを吸収する必要があるため、金価格は乱高下を繰り返すことになるだろう。金融政策見通しの不確実性が高まる中、短期筋の売買が乱高下することは許容せざるを得ない。
ただ、米経済環境、及び、金融政策環境の正常化というメガトレンドが維持される限りにおいては、金価格が本格的な上昇トレンドを形成する可能性は低い。ここから原油価格が8月同様に急騰するような事態にならない限りは、ダウントレンドにおける一時的な修整高との理解で十分と考えている。