小笠原高校生徒の「センター試験24泊25日」はどうすればいい?
前回(センター試験で24泊25日!~離島高校生の受験格差を考える)のまとめ。
というわけで前回の続き。
いくら何でもセンター試験受験だけで24泊25日、というのはちょっとひどい。
では、他の離島の高校生はどうか、調べてみました。
便利な離島もあり
前回記事では、本土5島(本州、北海道、四国、九州、沖縄本島)以外の6847島が離島という国土交通省の定義から、「センター試験会場がない主な離島」を抽出しました。
ただ、考えてみれば、便利な「離島」というのもあるわけで。
※くどいようですが、国土交通省定義の「離島」は本土5島以外の島のことです(2回目)
兵庫県
淡路島…神戸淡路鳴門自動車道がすでに開通済み。神姫バスの高速バスの朝の便(6時発か6時45分)で十分間に合う
※淡路島についてはTwitterで以下の投稿をいただきました
香川県
小豆島…四国フェリーに乗れば高松まで1時間。当日、朝の便(土庄発6時36分か7時36分発)で十分間に合う
※小豆島については、Twitterで以下の投稿をいただきました
愛媛県
来島…しまなみ海道がすでに整備済み。というか、来島に高校は、なし。大三島に今治北高校大三島分校あり。バスか自動車で移動可能。
熊本県
天草下島・天草上島…天草パールライン(天草五橋)がすでに開通済み。九州産交バス「あまくさ号」の本渡バスセンター5時発か6時発の便で間に合う。
このように、センター試験当日でも移動可能な「離島」もあるわけです。
※記事公開後、小豆島などでも、当日のトラブルを避けるため前泊することもあり、とのご指摘をいただき、一部修正しました。
当日移動ができないと、やっぱり不便
一方、当日の移動可能な交通手段がない、本当の意味での離島の高校生は、やはり大変です。
南海日日新聞の写真、すごいですね。まあ、2泊3日としても、センター試験全教科の参考書やノート、着替えなどを持っていくなら、そりゃあスーツケースになるわけで。
種子島出身の鹿児島大生に聞いてみた
色々なつてをたどりまして、種子島出身の鹿児島大生に話を聞くことができました(正確にはメールでのやり取り)。
スケジュールとしては、前々日にフェリーで鹿児島入り。
交通費・宿泊費は各自負担で、おおよそ6万円程度。
経済面だけでなく、精神的にも苦痛のようです。
とのこと。
自治体などの動きとしては一応、あるようです。
別の鹿児島大生(種子島出身)からもコメントをもらいました。
徳之島出身の鹿児島大生にも話を聞いた
※記事公開後、徳之島出身の鹿児島大生にも話を聞くことができました
種子島出身の2人、徳之島出身の1人、合計3人の鹿児島大生に話を聞くことができました。
共通しているのは、経済的な負担、それから精神的なストレスですね。
親元から離れて、普段とは違う環境で受験しなければならないのは、やはりハンディが大きすぎます。
言わなければ離島は置き去りのまま
サミットの本会場ではなく大臣会議とか、ワールドカップ・オリンピックの練習合宿場とか、最近だと中央省庁の地方移転とか。
地方自治体が誘致先を争うことはそれなりにあります。
「手を挙げたもの勝ち」とでも言いますか。
その点、センター試験の受験会場は文部科学省か、大学入試センターあたりが受験者数や移動ハンディなどを検討のうえで決めている、私はそう思い込んでいました。
が、取材を進めると全くそうではないことが判明。
隠岐の島の例
総務省サイト(掲載時期は不明)にあった行政相談事例紹介として、隠岐の島のセンター試験受験会場設置が挙げられていました。
やっぱり、言わなきゃダメなんですね。
対馬・壱岐・五島でも県・県議の働きかけで実現
隠岐の島の隠岐高校がセンター試験受験会場となったのは2007年。
この年の、長崎県教育委員会資料には、やはりセンター試験受験会場が挙げられています。
全国の設置状況も調べるほど熱心。これによると、
隠岐の島は総務省資料にある通りでしたが、佐渡島・佐渡高校も平成に入ってから受験会場になったとは意外でした。
センター試験の前日か前々日に移動となると3泊4日か4泊5日は必要。費用も生徒(世帯)の個人負担で3万2千円から4万5千円。
お金もかかりますし、慣れないホテル暮らしでの受験はやはり大変です。
長崎県では2007年11月の県議会定例会でも、一般質問で取り上げられました。
質問者は五島出身の山田博司・県議。
こうした努力があって、2009年から対馬、壱岐、五島で受験できるようになりました。(その後、上五島でも実施)
で、小笠原の受験生をどうする?
長期的には、文部科学省や大学入試センター、東京都や総務省行政評価局などに、要望を出し続けることで受験会場設置を目指すしかありません。
では、短期的には?
考えられる方策は、以下の8案です。
※記事公開当初は7案でしたが、D案を加筆しました
A案…小笠原海運のフェリー利用(小笠原海運・おがさわら丸のドッグ入り時期変更)
→
一木村議らが散々働きかけて無理、と言われているので、これは現実味に乏しいところ。
小笠原海運としても、2月下旬あたりからの観光客輸送を考えれば1月ドック入りは、譲れないでしょうし。
B案…貨物船ないし飛行艇・民間機利用
その1:貨物船・共勝丸による搬送
→
こちらも、一木村議らが働きかけてNG。
ただ、貨物船・共勝丸はウイキペディアによればかつては、旅客輸送もしていたとのこと。
やかましく言い続ければ(あるいは大臣・文部科学省幹部あたりが動けば)、あっさり利用できそうな気がします。
が、これも、短期的な解決にはちょっと遠そうです。
その2:海上自衛隊父島基地からの海上自衛隊機(飛行艇)による搬送
→
そもそも要人視察などは、おがさわら丸でなく、海上自衛隊の飛行艇利用。
だったらセンター試験の受験生だって、飛行艇で運べばいいじゃないですか。
10人くらいなら、2往復すれば運べるわけだし。
お隣・韓国では、遅刻しそうになった受験生をパトカーで運ぶくらいやっているわけだし。
…。
……。
移動時間が短い、という点ではいい案と思うのですが、無理あるからなあ。
自衛隊機による受験生の搬送は、2008年、佐渡島・佐渡空港から新潟空港まで5人搬送した、などの例があります。
ただ、これ、あくまでも悪天候でフェリー・飛行機がすべて欠航。
代替手段がなかったため、新潟県が要請した、いわば、緊急手段。
数人から10人程度とはいえ、恒常的な輸送手段とみられることは海上自衛隊・防衛省も消極的でしょうし…。
その3:海上自衛隊父島基地からの民間機による搬送
→
海上自衛隊の飛行艇が使えないならもういい、民間機の離着陸だけ認めさせろ、というのがこの案。
これも使えれば速いのですけどねえ…。
自衛隊基地、それも民間併用ではない基地を一時利用とはいえ、民間機が使うのって、法律に引っかかりそうな気がします。
ゴリゴリの左巻きの方から、
「小笠原・父島基地の一時利用から全国の空港が軍事利用されてしまう!」
なんて批判も出そうですし。
これも、短期的解決ではない、と。
C案…24泊25日を前提としての支援策
その1:村予算による交通費・宿泊費の支援
→
24泊25日を前提としての対症療法ですが、短期でできることから考える、と。
まず、村予算での支援は私でなくても誰もが思いつくところ。
実際、対馬市では市内で宿泊が必要な受験生に宿泊費を補助しています。
ただし、小笠原村の予算は46億円。
かなり厳しい財政状況にあります。
旅費は2等船室で片道22870円。宿泊費1泊2食・1万円として5人でざっと140万円、10人で280万円。
厳しい財政状況にある小笠原村に出せ、というのはちょっと酷ではないでしょうか。
その2:代々木・オリンピック記念青少年総合センターの無料開放
→
宿泊費の節約、ということで。
これ、文部科学省がえいや、と決断すれば早そうな気がします。
その3:ふるさと納税の活用
→
多分、一番短期的に効果ありそうなのがこれ。
小笠原村は、ふるさと納税の「寄付金使途」に「センター試験受験の小笠原高校生徒の交通費・宿泊費補助」と出すだけです。
で、あとは寄付を募る、と。
小笠原村は、今のところ、返礼品は何もありません。
でも、いいじゃないですか。
1人1万円として280人、5000円でも560人が協力すれば、10人の受験生が救われます。
米も牛肉も果物ももらえないにしても、それで離島の高校生が救われることを考えれば。
というわけで、石渡も全然お金がないのですが、本来なら東京都S区に収めるべき税金のうち、1万円を小笠原村にふるさと納税をすることにします。
D案:東京都か文部科学省が援助
※この項目は記事公開後に加筆しました
一度、この記事を公開してから、Twitterで東京都の関与・援助についてのご意見をいただきました。
確かに。
これが20人、30人というレベルならともかく、いまだと数人から10人程度。
なら、知事公邸や幹部職員宅での民泊でも、そんな不平等だなんだ、と批判が出るものでしょうかね?
知事公邸・幹部職員宅の民泊がダメというなら、三宅島・八丈島など東京都の離島の高校生全部、オリンピックセンターに引き受ける(その費用は東京都か文部科学省が負担)くらい、いいんじゃないでしょうか?
1泊1600円、食費入れて2500円。
小笠原高校以外に離島の高校は、
大島町・大島高校
大島町・大島海洋国際高校
新島村・新島高校
神津島村・神津高校
三宅村・三宅高校
八丈町・八丈高校
の6校。
大島高校…3学年合計127人、大学進学率48.4%→推定20~21人(2015年度)
大島海洋国際高校…定員80人(在籍者数同じ?)、大学進学率54%→推定40~43人(2015年度)
神津高校…大学進学者3人(2014年度)
三宅高校…在籍者30人、大学進学11%→推定3~5人(2014年度)
八丈高校…進学者46人、うち大学進学者29人(2014年度)
※大島高校、大島海洋国際高校、三宅高校は学校経営シートからの推定
大学進学者イコールセンター試験受験者と考えると、小笠原高校も含めて、多くても110人というところ。
引率者1校2~3人としても130~140人程度。
小笠原高校以外は3泊4日でいいので、130人として、
130人×1泊2500円(食費込)×3泊=97万5000円
小笠原高校が24泊25日。引率者入れて10人として、
10人×1泊2500円(食費込)×24泊=60万円
宿泊費でざっと160万円。
フェリーは、小笠原高校以外は、既設の東海汽船を利用。
その分を補助するとして、
大島高校24人・大島海洋国際高校46人…東京~大島・2等片道4270円×往復×70人=59万7800円
神津高校6人…東京~神津島・2等片道6090円×往復×6人=7万3080円
三宅高校8人…東京~三宅島・2等片道6420円×往復×8人=10万2720円
八丈高校32人…東京~八丈島・2等片道8040円×往復×32人=51万4560円
※各高校とも引率者3人を含む
合計128万8160円。
小笠原高校のみ、フェリーをチャーターするとして。
桜島フェリーの貸し切り料金が1隻89万円(6時間)とあるので、25時間で200万円くらい?
宿泊費・食費に交通費を入れて、ざっと690万円。
690万円という金額、確かに安くはありません。
安くはありませんが、日本で一番お金を持っている自治体、東京都ならそれくらい予算化しても、と思うのですがどうでしょうか?
仮に、人数が増えたところで、1000万円程度。将来の教育投資と考えれば安いもの、と思います。
小笠原の問題だけではない
ふるさと納税や東京都(または文部科学省)による支援策は、あくまでも短期的な解決策です。
しかも、それでどうにかなるのは、あくまでも小笠原高校の生徒のみ。屋久島、種子島、徳之島など他の離島の高校生が救われるわけではありません。
それに、この記事を公開後、Twitterでこんなご意見もいただきました。
長期的には、全国の離島やへき地の高校生が大学受験をスムーズにできる方策は何か、考えていくべきでしょう。
そのための第一歩として、小笠原高校の24泊25日をどう解決すべきか、考えていけばいいのではないでしょうか。