ウクライナ情勢への期待と警戒 ~穀物市場の視点から~
内戦や戦争が起きると、食糧価格は上昇するものである。ウクライナの政変を受けて、世界の穀物市場もウクライナ情勢に不安に満ちたまなざしを向けている。黒海北部に位置するこの国は、黒土(Black earth)といわれる肥沃な土壌を有しており、世界の穀物輸出入市場でも大きな存在感を有しているためだ。
米農務省(USDA)の最新報告によると、2013/14年度は世界のトウモロコシ輸出入市場が1億1,442万トンに対して、ウクライナは1,850万トンと、16%もの世界シェアが見込まれている。これは、米国、ブラジルに次ぐ世界三番目の規模であり、同国産のトウモロコシ供給状況に異変が生じると、家畜向け飼料供給不足や飼料価格高騰を経由して、既に高止まりしている食肉価格に対しても大きなインパクトが生じる可能性がある。
特に、今年度は南米が異常な熱波に襲われていることで、南米産穀物供給に対する不信感・不透明感が蔓延する中、更に新たなリスクを抱えたことが、短期スパンで穀物価格の水準切り上げに寄与しているとの指摘もある。
もっとも中期的には、逆に穀物価格の安定化を促すとの期待感が強い。
ウクライナは穀物生産国として強力な潜在力を有しているものの、旧ソ連時代から続くコルホースと呼ばれる集団農場制度の名残から、生産性は良好とは言い難かった。ウクライナで土地の所有権が認められたのは1992年以降であり、農業企業に改組されたのは04年と、個人経営からの脱却は始まったばかりである。2000年代前半までのウクライナの穀物生産性は、米国の概ね50%前後というのが実態だった。
しかし、近年は欧州連合(EU)との接近で農業投資が飛躍的に拡大しており、国際穀物理事会(IGC)の推計だと、今年のウクライナの穀物輸出は昨年の2,200億トンから3,180億トンまでの拡大が見込まれている。今回の政変をきっかけにEUとの距離が一段と近づけば、ウクライナの農業分野への投資も拡大し、世界の食糧需給を安定化させる役割も期待できることになる。
南米と並ぶ、穀物供給のフロンティアとして、穀物市場がウクライナに向ける視線は熱い。