イスラエル「次世代にホロコーストを伝えるリーダー養成講座」開設へ 正しい歴史を世界に発信できる人材を
第2次世界大戦時にナチスドイツによって約600万人のユダヤ人が殺害された、いわゆるホロコースト。イスラエルにはホロコースト犠牲者を追悼したヤド・ヴァシェムという博物館がある。イスラエルを訪問する世界中の首脳やリーダーたちも訪問してホロコースト犠牲者に哀悼の意を捧げている。
ヤド・ヴァシェムでは約480万人のホロコースト犠牲者のデータベースがあり、それらは世界中からネット経由で閲覧することもできる。約600万人のユダヤ人が殺害されたが、残りの120万人は名前が判明していない。第2次世界大戦が終結して70年以上が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進んできた。生存者が心身ともに健康なうちにホロコースト時代の経験や記憶を証言として動画で録画してネットで世界中から視聴してもらう「記憶のデジタル化」が進められている。
またヤド・ヴァシェムではホロコーストに関する歴史や教育に関する様々な授業、講義をリアル、オンラインで提供している。そして2022年1月から「次世代にホロコーストを伝えるためのリーダー養成講座」を開設する。
戦後75年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。
現在、世界中の多くのホロコースト博物館、大学、ユダヤ機関がホロコースト生存者らの証言をデジタル化して後世に伝えようとしている。ホロコーストの当時の記憶と経験を自ら証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義だ。そのようなことをホロコースト博物館やユダヤ機関は懸念して、ホロコースト生存者が元気なうちに1つでも多くの経験や記憶を語ってもらいデジタル化している。だがホロコーストを経験した生存者は当時の悲惨な体験を子供たちや世間の人に語りたがらない人の方が多い。
SNSでの大量の反ユダヤ主義投稿への対抗も
欧米やイスラエルではホロコースト教育が行われているが、教える先生方もホロコーストの専門ではない。ホロコーストは欧州全体にわたって起きたことであるため、例えばオランダの学校ではオランダでのホロコーストの歴史やユダヤ人への対応などが教えられていて、他の国のことや全体像を把握して教えられることはほとんどない。アメリカではホロコーストに全く馴染みのない先生方も多く、動画や証言を聞いたり博物館を見学するということも多い。またホロコーストと言っても歴史学や文学、社会学、ユダヤ学など様々な分野にまたがっていて包括的に教えることができる人は皆無である。例えば筆者の専門はホロコーストの記憶と歴史のデジタル化だが、その狭い分野についてはかなり研究をしているが、欧州におけるユダヤやホロコーストの歴史や当時の社会などはとても難しくて全ては理解できていない。
ヤド・ヴァシェムなどユダヤ機関がホロコースト生存者からたくさんの証言を集めてデジタル化して世界中からアクセスできるようになっても、それらの証言を活用してホロコースト教育をできる先生が多くない。当時の歴史的背景など詳細がわからないと、ホロコースト生存者の語っていることを正確に理解できないのだ。
ホロコースト生存者がいなくなってからもホロコースト教育は継続していく必要があるためヤド・ヴァシェムとしてはホロコースト教育のリーダー的な存在になれる人、地元だけでなく世界中に向けてホロコーストの正しい歴史的事実の情報発信していける人を育成していきたいと考えている。
そして現在でも反ユダヤ主義が欧米や中東諸国では多い。特にソーシャルメディアには大量の反ユダヤ主義やホロコースト礼賛のコメントが投稿されており、ヤド・ヴァシェムではそのような事態を危惧している。今回の講座開設の目的の1つに「サイバースペースでのホロコーストの歴史的事実を正確に伝えていくこと」をあげている。