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サンウルブズからジャパンへ! リーチも復帰した、日本代表メンバー決定!

永田洋光スポーツライター
チーターズ戦の雪辱をジャパンで果たせるか? 松島幸太朗も代表入り!(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

リーチ、マフィ、ツイがジャパンに復帰!

6月のテストマッチ3試合=10日ルーマニア戦(熊本・えがお健康スタジアム 14時40分キックオフ)、17日アイルランド戦(静岡・エコパスタジアム 14時)、24日アイルランド戦(東京・味の素スタジアム 14時40分)=に臨む日本代表メンバー33名が、29日、日本ラグビー協会から発表された。

メンバーは以下の通り。

PR1石原慎太郎、稲垣啓太、山本幸輝、HO庭井祐輔、日野剛志、堀江翔太、PR3浅原拓真、伊藤平一郎、知念雄、LO梶川喬介、ヘル・ウヴェ、真壁伸弥、谷田部洸太郎、FLツイ・ヘンドリック、徳永祥尭、松橋周平、NO8アマナキ・レレイ・マフィ、リーチ・マイケル

SH内田啓介、田中史朗、流大、SO小倉順平、田村優、松田力也、WTB江見翔太、福岡堅樹、山田章仁、CTBデレック・カーペンター、立川理道、ウィリアム・トゥポウ、ティモシー・ラファエレ、FB野口竜司、松島幸太朗

現在、海外のクラブでプレーしている、ツイ、マフィ、リーチを除けば、全員がサンウルブズや、ナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)からアジアラグビーチャンピオンシップ(ARC)と続く今春の強化プロセスを踏んでいる。

ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)は、長距離の移動と連戦が続くスーパーラグビーを「ラグビーマラソン」にたとえ、6月のテストマッチは「ホームで腰を据えて戦うスプリント」と位置づけて、性質が違うことを強調。その上で「日本代表を背負うのにベストな選手たちを選んだ」と胸を張った。

スーパーラグビー参戦中のサンウルブズでは、FWの後ろ5人に負傷者が相次ぎ、大ベテランの大野均も、日本代表史上初となる100キャップまであと2つと迫りながら、「負傷でセレクションを勝ち抜けるだけの試合をこなせなかった」(同)という理由で代表から外れた。

ジョセフHCが、「小澤直輝、アニセ・サムエラ、布巻峻介の3人は、負傷で選べなかった」とわざわざ会見で触れたように満身創痍の状態たが、15年W杯で日本代表キャプテンとしてチームを引っ張ったリーチをはじめ、ツイ、マフィと強力なメンバーが彼らの不在をカバーする。

今春のARCやサンウルブズの試合を見たファンにとっても、「納得」の人選だろう。

チーターズ戦からジャパンの課題を探る

問題は、テストマッチに臨む戦い方だ。

発表に先立つ27日、サンウルブズは秩父宮ラグビー場にチーターズを迎え撃った。共同キャプテンの立川が復帰し、夏を思わせる気候に勝利の予感が漂ったが、結果は7―47。前節のシャークス戦に続いて、終盤にトライをたたみかけられて力尽きた。

今季のサンウルブズは、ジャパンと連動しながら強化を進めている。だから、この試合での戦い方が、6月のテストマッチの“ひな形”と見られていたのだが、メンバーに負傷者が相次いだとはいえ、2試合続けて60分以上を接戦に持ち込みながら勝負所でミスから失点を重ねる負け方は、テストマッチもそうなるのではないか……という不安をかき立てる。

原因は明確だ。

キックの使い方がまだ整備されていないから。

それに尽きる。

チーターズ戦の前半、風下に回ったサンウルブズは、それでも田村を起点にキックを使い、風上のチーターズに蹴り返させて、そこからカウンターアタックや、相手の陣形を見たキックでエリアを進めるゲームプランでいた。

しかし、チーターズは、“自爆”覚悟で勝負に出た。ほとんどキックを使わずにカウンターアタックを仕掛け、キックのあとのディフェンスに課題があるサンウルブズを攻め立てた。

チーターズのフランコ・スミスHCは、意図をこう話す。

「サンウルブズにボールを与えてアタックさせるのは危険なので、それを避けるために、少しでも多くボールをキープしたかった。ディフェンスでも上手くプレッシャーをかけることができて、サンウルブズが蹴らざるを得ないような状況に追い込めた。これも、勝因だと思う」

おかげでサンウルブズは、前半40分間のほとんどを自陣に釘付けにされ、サイズと肉体的な強さを誇るチーターズのアタックに長時間の防御を強いられた。

奪われたトライこそ、前半16分にラインアウトから許した1トライに抑えていたが、チーターズ陣内の22メートルラインを越えて攻め込んだのは26分を過ぎてから。

稲垣は、「前半は防御の時間が長くて、いざアタックに出たときに足が動かなかった」と振り返る。豊富な運動量と献身的なタックルを誇るW杯代表でさえ、そういう苦境に追い込まれていたのだ。

原因は、チーターズが前半立ち上がりからボールを手放さずにアタックし続けているのに、サンウルブズは、そんな相手にキックでボールを次々と渡したからだ。

これでは、嫌な流れを断ち切れないのも無理はない。

おまけに、要所要所でターンオーバーを連発しながら、そこからアタックに転じたときにハンドリングエラーやペナルティを犯して、攻撃を継続できなかった。

それでも前半を7失点に抑えていればまだ後半に希望を持てたが、終了直前にもう1トライを追加され、差を14点に広げられた。しかも、ハーフタイムを挟んだ後半の立ち上がりには、松島のキックをカウンターアタックで切り返されてノーホイッスルトライを奪われている。

このトライが「勝負の綾」と立川は振り返ったが、それも「スコアできるところでなかなかスコアできなかった」(同)のが原因だった。

立川が言う。

「全体的にアタックする時間帯が少ないなかで、どうスコアするか。それがこれからの課題。前半はなかなかエリアを取れなくて、しんどい時間が続いた。風の影響もあったし、相手のバックスリーが走ってきたので、蹴り合いからアタックを仕掛ける自分たちのストラクチャー(戦略)に持ち込めなかった。いい状態でキックを蹴って相手にプレッシャーをかけてエリアをとるのが、今のサンウルブズのストラクチャーの1つなのに、今日はいいキックが数本しかなかった。自分たちが勢いのある状況で、上手くキックを使えるようにしたい」

かくしてラスト20分間にアタックをたたみかけて勝つシナリオは崩壊し、逆に、後半からキックを織り交ぜ始めたチーターズが、その時間帯にトライをたたみかけたのである。

対戦相手がもっとも恐れるのはジャパンの連続攻撃だ!

今季のサンウルブズを見ていて非常に興味深いのは、キックをあまり使わずにボールを動かし、フェイズを重ねて分厚いアタックを仕掛けた試合の方が内容が良く、しかも、そういうときに要所でキックを使うと有効なアタックに結びついていることだ。

これが立川の言う「勢いのある状況」である。相手防御がサンウルブズのアタックに警戒心を募らせるところまでボールを動かし続けて、初めてキックが生きるのだ。

6月に対戦するルーマニアも、アイルランドも、スーパーラグビーのチームほど個人技に秀でているわけではないが、それでも防御が崩れていない状況で相手の背後を狙って単純にグラバーキックを転がせば、手痛いカウンターアタックを食らう危険性は大いにある。たとえパスが下手でも、個人のランニングスキルは意外と高い――というのが、ヨーロッパのラグビーなのだ。

一方で、彼らが一番嫌がるのが、ジャパンがW杯で見せたような、フェイズを重ねる分厚いアタックだ。

ジョセフHCは、29日のメンバー発表会見で、ほとんど「キック」という単語を使わずに、「ハイテンポのラグビーでジャパンの強みを生かす」ことをテストマッチの戦い方として挙げた。

それが、おそらく正解だろう。

チーターズ戦でサンウルブズが唯一挙げたトライは、田中が背後のスペースに蹴り込んだ絶妙なキックが生み出したもの。ラグビーは相手防御の意図を読み、その裏をかいてこそ得点のチャンスに結びつく――まさに、そんな鉄則通りのキックだった。

ルーマニア戦に向けた強化は6月2日から始まるが、短い準備期間で、どこまでボールを動かすときと蹴るときの判断を磨き上げることができるか。

テストマッチ勝利は、その一点にかかっている。

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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