届かない手紙 本人不在のノーベル平和賞授与式
ノーベル平和センターでは、毎年の受賞者をテーマにした特別展示が開催される。
2022年はウクライナの人権団体「市民自由センター」、ロシアの人権団体「メモリアル」、ベラルーシの人権活動家のアレシ・ビャリャツキ氏の同時受賞となった。
同センターでは3組が受賞した背景や活動を伝える写真を中心とした展示を準備ししており、12日に一般開放される。
同時受賞者のなかで、本人不在となったのがベラルーシの人権活動家のアレシ・ビャリャツキ氏だ。現在はベラルーシの刑務所に収監されており、ノーベル委員会は受賞者の発表時に同氏の解放を求めていた。
代理で賞を受け取ることとなった妻のナタリヤ・ピンチュク氏は、9日に首都オスロで開催された同時受賞者たちの記者会見に出席した。
報道陣から本人の容態を聞かれ、連絡がとれない状態
「収監中の夫はノーベル平和賞授与式のためのスピーチ原稿も私に送ることができませんでした。彼からの私宛の手紙も届きません。私からの手紙も彼は受け取ることができません。外国からの手紙も一切手渡されていないと私は確認しています」
「彼は国際社会でのサポートと連帯を理解しています。しかし、刑務所では彼をできる限り孤立化させるためのあらゆる手段が講じられており、彼が外の世界とコミュニケーションをとることが阻止されています」
「コミュニケーションはほぼされていない状態です」
手紙が一切手渡されていない。
そう妻のナタリヤ・ピンチュク氏は話した。
ノーベル平和センターでは展示の一部として、とあるテーブルを用意していた。その上にはたくさんのポストカードが置かれている。
入場者は自由にポストカードにメッセージを書くことができ、テーブルの隅にある箱に入れると、ノーベル平和センターが収監中のアレシ・ビャリャツキ氏に届ける計画だという。
ノルウェーで若者新聞を発行する中学生記者たちは、英語で同氏に手紙を書き、きっと届くのだろうと期待していた。
だが、妻のナタリヤ・ピンチュク氏の話を聞くと、ポストカードが本人に届くのは難しそうだ。
2010年のノーベル平和賞授与式でも受賞者は不在だった。中国の民主活動家・劉暁波氏は当時は中国で服役中で、ノルウェーに渡航することは叶わなかった。当時の受取人がいない「空席」は、ショッキングな光景として全世界で報じられた。
劉暁波氏は2017年に中国当局の監視下で死亡した。同じような悲劇の繰り返しを人々は望んではいない。
ノーベル平和賞がきっかけで受賞者が解放されるという望みが、現実的には難しいとノーベル委員会も理解している。
それでも国際社会の世論を動かす波紋を投じることはできると、同時受賞者たちは記者会見でそれぞれの思いを語り、国際社会にサポートを呼び掛けた。