史上初外国人によるリーディング騎手となったルメールが、授賞式で演じたある人へのサプライズ演出とは……
JRA史上初の外国人リーディングジョッキー誕生
1月29日、都内の某ホテルでJRA賞の授賞式が行われた。
年度代表馬のキタサンブラックなど各馬の関係者の他、調教師、騎手といった個人部門の表彰も行われた。
騎手部門の最多勝利、最高賞金獲得など、3部門で表彰されたのがクリストフ・ルメール(38歳)だ。
受賞者にはマイクが向けられ、各人1~2問の質疑応答を行うのだが、ルメールの時に思わぬハプニングが起きた。
フランスでデビューしたルメール。競馬学校には行かず、アマチュアライダーを経てプロデビューし、成功した数少ない騎手だった。
フランスでは凱旋門賞に次いで人気があると言われるディアヌ賞(フランス版オークス)を勝ち、ダービーにあたるジョケクラブ賞も優勝。大オーナーであるアガ・カーン殿下との間に専属騎乗契約を結び、2007年には自身初の年間100勝を突破。リーディングも5位に食い込み、将来のリーディングトップを期待される存在になった。
しかし、必ずしも右肩上がりの騎手人生を歩むことはできなかった。そのアガ・カーン殿下から一方的に契約を破棄されてしまったのだ。
そんな時、何か変化を求めた彼が、矛先を向けたのが日本の競馬だった。
2015年にJRAの騎手試験を受験するとイタリア人のミルコ・デムーロと共に合格。フランスの家を売却し、日本をベースに騎乗することを決めた。
移籍2年目で初めて1年を通してJRAで騎乗した2016年は戸崎圭太に1勝及ばぬリーディング2位。
そして、昨年はレイデオロによる日本ダービー制覇など199回も先頭でゴールを駆け抜けた。JRAでは武豊以来となる年間200勝には1つ足りなかったものの、ついに同史上初となる外国人のリーディングジョッキーの座を射止めてみせた。
「フランス時代を通じても僕自身、初めてのリーディングジョッキーになれました。すごく嬉しいです」
JRA賞でルメールが用意したサプライズ
冒頭に記したように、ハプニングが起きたのはJRA賞の授賞式でマイクを向けられた時だ。
ルメールは「スピーチを用意してきました」と言うと、おもむろに左の内ポケットから手紙を出し、それを読み始めたのである。
その内容はリーディングジョッキーになれたことの喜びよりも、各関係者や日本に対する感謝の言葉が綴られていた。曰く「競馬に乗る喜びを日本が再び呼び覚ましてくれました」。
さらに「私と家族を迎え入れてくれた日本に感謝します」と続けた。
ちなみにルメールには妻バーバラとの間に2人の子供がいる。彼が日本へ行きたいという想いを妻に告げると、彼女は次のように答えたと言う。
「あなたが競馬のために行きたいというなら、子供を連れてどこへでもついていきます」
JRA賞授賞式が終わった夜、私はルメール夫妻からお祝いの食事に誘っていただいた。
その席で「スピーチを読むことは妻にも内緒にしていました。ちょっとサプライズです」と語るルメールに、手紙をみせてもらうと、話したことがローマ字で記されていた。
「1番のファンで、毎日、私を支えてくれる“妻さん”にJRA賞のトロフィーを捧げます」
ルメールがそう言った時、会場は和やかな笑いに包まれた。私もその時はクスリと笑ってしまった。しかし、手紙をみせてもらい、目にみえるものや聞こえるものではない物事の本質をしっかりとらえなくてはいけないな、と反省するに至った。そう、“その部分”こそ、彼が自分自身で文面を考えて書いた証なのだから……。
年頭から騎乗停止処分を受けてしまったルメールだが、3日間開催となる12日の月曜日から戦列に復帰する。今年は青い目の笑顔が200回以上、見られるかもしれない。期待したい。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)
なお、クリストフ・ルメール騎手が昨年のエピソードなどをもれなく話すトークライヴが2月12日、新宿ロフトプラスワンで行われます。残席はわずか。御覧になりたい方はローソンチケットにてお求めください。