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12月1日は田畑政治の誕生日 俺のオリンピックは実現できるか 「いだてん」佳境へ

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
大河ドラマ「いだてん」44回より 写真提供:NHK

日本ではじめてオリンピックに参加した金栗四三(中村勘九郎)とオリンピックを東京に呼んだ田畑政治(阿部サダヲ)を主人公に、明治、大正、昭和とオリンピックの歴史とそれに関わった人々を描く群像劇。最終章。東京オリンピックを目前に、オリンピック担当大臣・川島(浅野忠信)の陰謀に巻き込まれた田畑は事務総長を辞任することに……。

===第四十三回「ヘルプ!」 演出: 津田温子 11月17日(日)放送/第四十四回「ぼくたちの失敗」演出:大根 仁 11月24日(日)放送 ・11月30日 (土)再放送

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「盛り上がってないじゃんねー オリンピック」

(43回の田畑のセリフ)

明治以降、たくさんの人達が関わってきた東京オリンピックの夢。だが、いよいよ初めての東京オリンピックが開催される1964年を2年後に控えても、国民の盛り上がりは一向になく、たとえ開催年になっても盛り上がらないであろうと田畑は落胆気味。

「いだてん」で書かれていることは、2020年のオリンピックを控えた今にも当てはまりそうなことばかり。だって実際、今、オリンピックに関する楽しくない話ばかり出てきて、あんまり盛り上がってないじゃんねー。

綿密な取材に基づき歴史の復元に腐心することで未来が見える。これこそが歴史の検証の重要性であり、時間がつながっていることの証明である。たとえ、一部創作を盛り込んでいたとしてもその創作すらありえたかもしれない歴史の再現かもしれないし、ありえたかもしれない未来かもしれない。それはまるで尾を噛んで円になっているウロボロスのようで、「いだてん」は過去と未来と事実と創作がぐるぐると連なって見える。

盛り上がっていない東京オリンピックの広告塔(宣伝部長)に選ばれた五りん(神木隆之介)が事務局に恭しく飾られた数々の肖像画をしげしげ見ることによって、過去に尽力した嘉納治五郎(役所広司)、岸清一(岩松了)、永井道明(杉本哲太)、まだ亡くなってはいない可児徳(古舘寛治)等を振り返ることになる。彼らの夢も1964オリンピックにつながっている。

外野は盛り上がっていないが、事務局内はいろんな意味で熱い。五りんのほかに、田畑は女子円盤投げの表彰のとき台湾の国旗を逆に掲揚してしまったようなことがないように、国旗のスペシャリスト吹浦忠正(須藤蓮)を採用。女子バレーが正式種目に選ばれ、開催時期は“暑さを避けた10月”に決まる。着々と進んでいるかと思われたとき、オリンピック前にジャカルタで行われた第四回アジア競技大会が台湾とイスラエルに入国ビザを出さなかったことから国際問題に発展(43回)、日本は一時は不参加も考えながらぎりぎりで参加を決め155個のメダルを獲得し総合第一位となり、「顔の二週間だよ」と田畑を喜ばせた「東京五輪音頭」の歌詞も決まって、これから……というとき大問題が生じる(44回)。

「オリンピックVS政治」

大河ドラマ「いだてん」も残すところあと3回。その前の2回(43,44回)では話がいよいよ佳境に入ってきたことを感じさせた。

「オリンピックVS政治」 そして「どこで間違えたか」問題。

「いだてん」が金栗編の頃からずっと描いてきたことが色濃くなっていく。

政治(田畑のことではない)が好きな川島と、オリンピックが好きな田畑。このふたりが「政治」と「オリンピック」の象徴となり、闘いがはじまる。

社会を変えるため新聞記者から政治家になった河野(桐谷健太)に、川島は政治が好きなだけだと

言われた田畑は、自分だって政治部記者で政界の大物と渡り合ってきたと張り合う気分になる。

一見、川島が悪役のように見えるが、「政治が好き」なだけという視点を提示することで、単なるヒールにならない。やがて、田畑は川島に、ありえたかもしれない自分を見ることになる。

43回。ジャカルタの大会に参加を独断で決めたとき、川島が責任回避し、日本中が田畑を責め、組織委員の地位が危うくなる。「おれのオリンピック」が遠ざかっていく気配を感じながら、田畑が、「どこで間違えた?」と逡巡する。

川島が、オリンピックに「金を出すけど口も出す」と言ったとき、田畑は過去、政治記者だったとき、オリンピックをやりたいがために、高橋是清(萩原健一)に「金も出す代わりに口も出したらいかがですか」と囁いていた。

思えば、あの頃の田畑は、このレビューで「メフィストフェレスみたい」と書いたほどで、ちょっと悪魔的だった。それが、ロサンゼルスオリンピックのまばゆい太陽の下、選手村の楽しさに触れて考えを変えていったのだが、ここへ来て過去の自分に復讐されるとは……。昨今の言葉でいうと「呪い」。あのとき、田畑は高橋是清に魔法をかけたつもりが、自分に魔法をかけてしまったのかもしれない。いま、田畑の前に立ちふさがる川島は、あのときそのまま進んでいたら、ありえたかもしれない田畑の姿とも言えるだろう。

スタート地点から間違っていたと思うと衝撃的ではないか。あのとき、田畑は軽い気持ちだったろう。そして、自分の頭脳におぼれていただろう。

面白いのは、田畑の名前が「政治」であることだ。「せいじ」ではなく「まさじ」だから「まーちゃん」。

それをマリー(薬師丸ひろ子)が勘違いしまくっていたエピソードを描くことで、「政治(せいじ)と共に行く道を選んでしまったのかもしれない、政治(せいじ)VS政治(まさじ)の岐路に立つ田畑の悲哀(「森田童子の「ぼくたちの失敗」を流したい」)を感じてしまう。そこまで考えて書いてたらすごいと思うのだが、考えすぎ?

「どこで間違えたんだ」

「どこで間違った」というセリフから思い出すことがもうひとつある。金栗がはじめて参加したストックホルムオリンピックのY字路だ。金栗は、あのY字路で道を間違えた。彼の場合はそこで敗北したが、ラザロのように猛暑で命を落とすことなく生きながらえた。

選択した道がどこへ向かうかは最後までわからない。人間はこんなふうに、常にどっちに進むか、岐路に迷う。

それでも金栗も田畑も、自分で選んだ道をただ走っている。いや、44回の時点では田畑は走れなくなっている。追い込まれ、その場しのぎに、昨日と今日、正反対のことを言って、さらに追い込まれていく田畑は、国民から見たら信用ならない人物でしかない。

でも人は誰も間違う。「どこで間違えたんだ」と思い返して、そこに戻って、よりよい道を行き直すこともできるのではないか。そんな願いを感じてしまった44回。

Y字路の使い方、脳梗塞で倒れ、以前にように動けなくなった志ん生がリハビリした復活高座の演目の「替わり目」。「いだてん」はモチーフの散りばめ方がほんとうに巧い。

アレとナニも生きる

43回で驚いたのが、ジャカルタのアジア大会の場面に出てきたアレン。

田畑「なにかアレだ」

アレン「ナニ?」

田畑「アレンじゃなくてアレだ」

これまで田畑はナニとかアレずっと言っていて、落語の「粗忽長屋」などにも「アレ」「ナニ」がやたら出てくるからという遊びなのかと思ったり、ゆくゆくテレビで言いにくいような言葉をアレとかナニとかに置き換えるのかと想像したりしていたが、そこまで切実な伏せ字的なことは一向になく、あくまでにぎやかしかと思っていたら、前述の会話の数分後、アレンが鮮烈な見せ場の中心人物(「インドネシアの嘉納治五郎だよ」と言われるほどの)になる。柔道の技のような鮮やかな返しだった。

さらに、もう一度返しがある。

田畑がいいことを言っていると、アレンは寝ていて、「ナニ?」ととぼけ顔。

これらの流れといい、「ナニとナニとアレでしょう」とすっかり田畑のことを理解している菊枝(麻生久美子)と志ん生を見つめるりん(池波志乃)と、ふたりの女房のありがたさと、志ん生の落語への執念が田畑のエールのように聞こえる、それがすべて「替わり目」でつながるところといい、熟練の技だ。

「おれはやりたいんだよ」

政治とオリンピックに焦点を絞りながらも、「いだてん」はそれでも、“芸”の話を忘れない。

追い詰められた津島(井上順)は田畑を道連れに事務局を去ることを決断、ふたりがテレビで辞任会見をしているとき、志ん生の弟子・今松(荒川良々)は、

「間がいいんだよ〜 この人芸人やったほうがいいよ」とひとしきり楽しんでいる。

津島「後任は…」

田畑「いいかい おれはやりたいんだよ」

確かにこの間合もいい感じで、こういうところのためにコメディアンである井上順が選ばれているのだと思う。

噺家はテレビを政治問題を見ていても会話の間合いに敏感で、

志ん生も五りんもつねに稽古を続けていて、志ん生なんて復活高座のためにあれだけ好きだった酒を我慢する。

田畑はオリンピックを泣くほどやりたい。

金栗は白髪の老人になってもずっと走り続けている。

ドラマも終盤を迎え振り返れば、制作上、いろんなことが起こったことを視聴者もその断片を知っている。その事情によって、最初の予定といまの形とどういうふうに変わったのかあんまり変わってないのかわからないが、とにかく止まることなく最後まで黙々と作り続ける関係者たちを讃えたい。

道は、まだ終わらない。

第二部 第四十五回「火の鳥」 演出:一木正恵

12月1日(日)放送

あらすじ

事務総長を解任されてしまった田畑(阿部サダヲ)だったが、決してあきらめることはなく、自宅に岩田(松坂桃李)や松澤(皆川猿時)ら組織委員を集めて密かに開催準備を操り始める。田畑と袂を分かつ形となった東京都知事・東龍太郎(松重豊)は、日本橋を覆う高速道路や渋滞の悪化など、開発への批判を一身に浴びていた。元ボート選手としてスポーツへの熱い思いを秘め、1940年で叶わなかった悲願の五輪開催に向けて奮闘するが……

みどころ

役職から外れたことで権限は失ったものの、制約もなくなった田畑が再びオリンピックにまい進していく。国内もようやく盛り上がりはじめ、オリンピックが近づいてくる高揚感が画面に満ちていく。第1部から描いてきたひとつのテーマの到達点を描く回でもあるという45回。

宮藤官九郎がラジオで安藤サクラが演じる東洋の魔女・河西選手が活躍する「サクラを見る回」と言っていたから、安藤サクラも大活躍しそうだ。

そして、放送日12月1日は 田畑政治の誕生日

大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜」

NHK 総合 日曜よる8時〜

脚本:宮藤官九郎

音楽:大友良英

題字:横尾忠則

噺(はなし):ビートたけし

語り:森山未來

出演:阿部サダヲ 中村勘九郎 / 星野源 松坂桃李 麻生久美子 安藤サクラ / 

神木隆之介 荒川良々 川栄李奈 / 松重豊 薬師丸ひろ子 浅野忠信 ほか

演出:井上 剛、西村武五郎、一木正恵、大根 仁ほか

制作統括:訓覇 圭、清水拓哉

「いだてん」各話レビューは、講談社ミモレエンタメ番長揃い踏み「それ、気になってた!」で連載していましたが、

アレがナニして「いだてん」第一部の記事で終了となったため、こちらで第二部を継続してお届けします。

第一部の記事はコチラhttps://mi-mollet.com/search?mode=aa&keyword%5B%5D=%E3%81%84%E3%81%A0%E3%81%A6%E3%82%93%E3%80%9C%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%A0%E3%83%94%E3%83%83%E3%82%AF%E5%99%BA%EF%BC%88%E3%81%B0%E3%81%AA%E3%81%97%EF%BC%89%E3%80%9C

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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