Yahoo!ニュース

人気ゲーム「ウマ娘」がスイッチやPS4に 本編スマホゲームの弱点をカバーする巧妙な戦略

河村鳴紘サブカル専門ライター
「ウマ娘 プリティーダービー 熱血ハチャメチャ大感謝祭!」のゲーム画面

 Cygames(サイゲームス)の人気スマホゲーム「ウマ娘」のキャラクターが登場する新作のカジュアルゲーム「ウマ娘 プリティーダービー 熱血ハチャメチャ大感謝祭!」が、ニンテンドースイッチ、PS4、Steam(PC向け)向けに来年(2024年)発売されることが発表されました。新作ですが、本編スマホゲームの弱点をカバーし、さらにファンのツボをついているのではないでしょうか。

◇本編ゲームと差別化

 新作「熱血ハチャメチャ大感謝祭!」ですが、スペシャルウィークやサイレンススズカなどのウマ娘たちがチームを組み、障害競走、バスケットボール、ドッジボール、大食い競争に挑むという内容です。本編では競馬さながらの本格的なレースを繰り広げるわけですが、新作では「ハチャメチャ」とある通り、お祭り色を前面に出していて、差別化がされています。

 さらにいうと、新作の世界観が見事です。本編のスマホゲームで、ウマ娘たちは学園生活を送るという設定ですが、新作もその延長線上にあります。学園生活であればドッジボールやバスケットボールをするのは自然です。さらにウマ娘たちが大食い競争をするという設定も見事。マンガ「ウマ娘 シンデレラグレイ」でも見た光景ですね。

「ウマ娘 プリティーダービー 熱血ハチャメチャ大感謝祭!」のゲーム画面
「ウマ娘 プリティーダービー 熱血ハチャメチャ大感謝祭!」のゲーム画面

 スマホゲームは、基本無料というハードルの低さを武器にファン層を広げ、ゲーム市場を大きく広げました。しかし、スマホゲームは万能ではなく、ビジネスの特性上ずっと遊び続ける「飽き」との戦いがあり、その結果ゲームをやめる時、マイナスの感情を抱く弱点があります。家庭用ゲーム機用ソフトであれば、エンディングを見て一区切りがつくわけで、その差は大きい……と指摘する声は昔からありました。

 どんな人気のスマホゲームでも永遠にサービスが続くことは考えづらく、熱烈なファンほど、いつかは来るであろう「サービス終了」におびえているとも言えます。

 しかし、そこで家庭用ゲーム機用ソフトがあれば、ファンは「ずっと手元に持っておける」という安心感を抱きます。コンテンツがリフレッシュされて寿命が延び、ブランド価値もアップさせることが期待できます。

 また、スマホゲームと家庭用ゲーム機用ソフトで、似たテイストのゲームを投入すれば、「食い合い」が起きますが、「ウマ娘」の場合、作品のテイストだけでなく、見た目の差もあります。

 スマホゲーム版はリッチなグラフィックの路線に対して、家庭用ゲーム機版はドットのCGになっています。ファミコン世代に刺さりそうですし、若い人たちはドットのCGに新味を感じる流れにあります。

【関連】FF、ドラクエの古き良き「思い出」を超えろ――絶滅危機を乗り越え、再注目されるドット絵

◇ローリスク・ハイリターン

 ちなみに“先輩”のスマホゲームが、家庭用ゲーム機用ソフトとして発売されて、ヒットした実績があるのも心強いところ。「CESAゲーム白書2022」によると、「パズル&ドラゴンズ」のニンテンドー3DS用ソフト「パズドラZ」(ガンホー・オンライン・エンターテイメント、2013年発売)の出荷数が150万本、「モンスターストライク」のニンテンドー3DS用ソフト(ミクシィ、2013年発売)が100万本を記録しています。世界出荷数と国内出荷数が同じなので、日本だけでこれだけの成果をあげたのです。

 そして「ウマ娘」の新作は、冒頭でも触れたように、ニンテンドースイッチとPS4、PCに対応します。対応言語も日本語だけでなく、英語、韓国語、繁体字中文、簡体字中文、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語に及びます。

 もちろん、ゲームは「水もの」なので出してみないと分からない面はあります。しかし、今回の新作は、さまざまな面から予想するに「ローリスク・ハイリターン」と言えるのではないでしょうか。繰り返しますが、ゲームは完成して実際に操作するまで評価は確定しないものの、新作のティザーPVを見れば、細かい動きもしっかりしており、ファンが喜ぶのも納得できます。

 ゲーム業界にはかつて、「シリーズもの」よりも「完全新作」を評価するような雰囲気、土壌がありました。もちろん、新しい試み、新規コンテンツの制作は大切ですが、同レベルで「シリーズもの」の育成・強化も大切です。

 今では、任天堂やソニーも「ゲーム頼み」ではなく、映像作品を展開することでファン層の拡大、掘り起こしを図っています。

 そもそも近年増えている「名作ゲームの復活」というのは、裏返せば「名作ゲームが放置され、コンテンツ資産が活用していなかった」とも解釈できます。ヒットさせる「創業」もかなり大変ですが、人気コンテンツを継続して飽きられずに展開する「守成」も大変です。だからこそ大ヒット作は人気シリーズとして拡大・展開し、長く愛されてほしいと願う次第です。

(C) Cygames, Inc.

※ゲーム画面は開発中のものです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

河村鳴紘の最近の記事