「状況認識ができない」金正恩の“退化”で国内危機が深刻
北朝鮮の食糧事情は年々、厳しくなっている。もともと、春から初夏にかけては「ポリッコゲ(春窮期)」と呼ばれ、前年の食糧の蓄えが底をつき、飢えに苦しむ季節だ。さらには毎年のように襲う自然災害と、ゼロコロナ政策の貿易停止がもたらした営農資材の不足で、収穫量はさらに減少。ポリッコゲの始まる時期も早まっている。
当局は、中国やロシアからコメや小麦粉を輸入して緊急放出したものの、食糧不足を解決するには役不足だった。
そんなポリッコゲがようやく終わりを告げた。国営の朝鮮中央通信は先月29日、「農業委員会全体の日程計画遂行率は150%以上に及び、一部の地域では小麦と大麦の取り入れが成功裏に終わった」と報じた。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
小麦、大麦は収穫後2〜3週間ほどで、各地に供給された。しかしそれでも、食糧難の解決には至っていないという。咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
北朝鮮第2の都市、咸興(ハムン)市内の市場には今月第2週になって、小麦と大麦が出回るようになった。それに伴い、価格が一斉に下落している。
今月9日の時点で小麦は3800北朝鮮ウォン(約65円)、大麦は4000北朝鮮ウォン(約68円)で販売されている。前週に比べ15%から20%の下落だ。また、小麦粉も同程度価格が下落し、7000北朝鮮ウォン台で販売されている。(いずれも1キロの価格)
しかし、多くの庶民にとっては「絵に描いた餅」だ。
市民の多くは、1キロ2000北朝鮮ウォン(約34円)台のトウモロコシを食べて食糧難に耐えている。その倍の値段の小麦や大麦に手を出す経済的余力がないのだ。また、麦はトウモロコシに比べて腹持ちが悪いため、贅沢品に属し、主にお菓子やパンを製造販売する商人が主に買い求めている。少しでも安く腹を満たしたい庶民にとっては、何の役にも立たないのだ。
金正恩総書記は、救荒植物であるトウモロコシの栽培を減らし、麦の栽培を増やして食生活を改善しようと訴えたが、「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」的な浮世離れした政策であり、「状況認識ができていない」と国民からも批判の声が上がっている。
小麦、大麦の価格下落の影響で、トウモロコシの価格も下落していることはポジティブに受け止めているが、同様に収穫されたばかりのジャガイモの価格にはあまり影響を与えていないと情報筋は伝えている。
9日の時点で、ジャガイモ価格は1000北朝鮮ウォン(約12円)から1200北朝鮮ウォン(約20円)で、ほぼ変わりがない。
「野良仕事をしてきた農民の食糧難緩和には助けになるかもしれないが、すべてを現金で買わなければならない都市住民は依然として深刻な食糧難から抜け出せずにいる」(情報筋)
コロナ前の北朝鮮では、全量を国内生産分で賄えなかったとは言え、食糧供給には大きな問題がなく、量よりも味や質を重要視する傾向すら現れていた。
それがゼロコロナ政策による貿易の停止や、国主導の計画経済を復活させようとする政策の影響で、各地で餓死者が出るほどの食糧難となった。
金正恩氏は執権当初、市場を自由放任し、その点では庶民からも支持されていた。しかし今、市場への締め付け強化で現金収入を得られなくなった人々は、市場に物があっても買えなくなり、市場より安く販売するとの触れ込みでオープンした国営米屋こと糧穀販売所も、正常に機能していない。
市場への干渉をやめ、皆が自由に商売できるようにすること。それが食糧難解決の近道だろう。