柳楽優弥主演『二月の勝者』は、小学生版『ドラゴン桜』ではない!
『二月の勝者―絶対合格の教室―』(日本テレビ系、土曜よる10時)の第1話。
その冒頭を見て、「やるなあ」と思いました。
なぜなら、ファーストシーンが「入塾説明会」だったからです。
「桜花ゼミナール」吉祥寺校の校長に抜擢された黒木蔵人(柳楽優弥)が、親たちに向って言いました。
「中学受験は甘くありません!」
そして、
「覚悟は出来ていますか?」
これは親の「覚悟」を指しています。
何しろ中学受験は、高校受験や大学受験とは大きく異なるものです。
本人がまだ小学生ということもあり、いろんな意味で、親が深く関わっていく。
もっと言えば、親の価値観や考え方が大きく影響するのが中学受験です。まさに、親の「覚悟」が必要になる。
中学受験を成功させるのに不可欠なものは、
「父親の経済力と母親の狂気」
であると黒木。なかなか強烈です。
このドラマは、大学受験を扱っていた『ドラゴン桜』(TBS系)のように、生徒たちを軸に展開されるだけではありません。
複数の「家庭」、そして「親と子の関係」に踏み込んだ物語にならざるを得ない。いや、だからこそ面白いドラマになりそうなのです。
ポイントは、「静かな狂気」といった雰囲気の主人公、黒木のキャラクターにあります。発想と言葉が刺激的なのです。
受験塾と学校との違いを指して、
「(塾は)子どもの将来を売る場所です!」
そのうえで、
「凡人こそ中学受験をすべきでなんです!」
という言葉も説得力がありました。
息子をサッカー選手にしたいと夢見る父親に対して、小学生のサッカー人口とプロの新人選手の人数を示し、その実現の確率と志望校に入れる確率を比較していったのです。
ちなみに、この「凡人こそ中学受験」では、『ドラゴン桜』(TBS系)で桜木(阿部寛)が言っていた、「バカとブスこそ東大に行け!」を思い出しました。
また黒木は、「不可能を可能にする、それが中学受験」とも言っています。
実際の中学受験では、子どもたちが「予想を超える飛躍」を見せることがあるのも事実です。
おそらくドラマでは、その「きっかけ」も描かれたりするはずで、特に高学年の小学生を持つ親は見逃せないかもしれません。
黒木のちょっと露悪的でシビアな「もの言い」は、さらに続きます。
「親は金脈(スポンサー)」
「父親はATM(現金自動支払機)」
元中学教師で新任塾講師の佐倉麻衣(井上真央)に向って、
「(塾講師は)教育者ではなく、サービス業です!」
予告では、「塾は営利目的の企業」とも言い放っていました。
黒木はなぜ、そこまで断言するのか。逆に、心の中とは裏腹の、何か目的があっての自己演出なのか。そのあたりも興味深いところです。
中学受験をする小学6年生は、関東全体で約2割。そのうち第1志望の中学校に合格できるのは、約3割。確かに、甘くない競争です。
このドラマ、「中学受験」や「受験産業」の是非や功罪を論じる作品ではありません。
しかし、物語の進展とともに、その「見えざる実相(リアル)」も徐々に明かされていくのではないでしょうか。
柳楽優弥さん、井上真央さんはもちろん、塾の社長を演じる岸部一徳さんも役柄にピタッとはまっており、この稀有な「中学受験ドラマ」を駆動させています。
原作は高瀬志帆さんの同名漫画。柳楽さん、漫画の黒木に激似です。
脚本は日曜劇場『小さな巨人』(TBS系)などの成瀬活雄さん。前述の「入塾説明会」の見せ方も含め、見事な構成です。
『二月の勝者』は、単なる小学生版『ドラゴン桜』ではありません。
この秋、話題の大作やヒットシリーズが並ぶ中で、大化けするかもしれない1本です。