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99.1%の原案がそのまま通過、議員による政策的条例提案はわずか0.143%という地方議会の現実

高橋亮平日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

市川市議会では、切手大量購入が政務調査費の不正利用の可能性と大問題に

いよいよ年明け2015年4月には全国で統一地方選挙が行われる。

私が26歳から6年半市議会議員を務めた市川市議会では、会派に支給される政務活動費をめぐり、切手の大量購入が不正利用である可能性があると、議員の支出の適正を調査する「百条委員会」を設置するとして荒れているようだ。

監査請求の対象となった切手を大量購入した14人の議員についての調査を求める「百条委員会」の設置に加え、調査を求めている18人の議員の政務調査費の支出が適正かを調査する「百条委員会」も設置され、2つの「百条委員会」が設置されたと、NHKはじめ多くのメディア、マスコミに取り上げられている。

議長と副議長が議場に現れず流会になるなど議会を混乱させた責任を取り議長は辞職と、まさに泥沼状態になっている。

自分が議員だった頃とのあまりの違いに唖然とするが、市川市に住む有権者としては、こうした議員たちを選んでしまった事への大きな責任を感じる。

ご自身のお住まいの自治体の議会は大丈夫かと、

地方議会による政策的条例提案はわずか0.159%

全国には、議員や首長など、37,302人の地方政治家がおり(2011.4時点)、この内42.5%にあたる15,841人が、2011年4月に行われた前回の統一地方選挙で選ばれた。

来年2015年4月にはまた、この4年に1度の地方政治家を一斉に選ぶ統一地方選挙が行われる。

市川市議会の様な自治体ばかりではない事を祈りたいが、地方議会は本当に機能しているのか、そもそも議会の役割とは何かについて、最新の2013年のデータを元に考えていきたい。

まず、地方議会の役割についてだが、学生時代に「三権分立」と習った事を思い出すと、議会の役割は「立法府」であったはずだ。これは法律をつくる場所である事を示しているが、国会を地方議会に置き換えて考えれば、「条例をつくる場所」という事になるはずだ。

議会や議員の役割が「政策提言」などと言われてすでに久しいが、実際には、議会や議員からの議案提出など殆んどなく、実際には全体の89.3%は市長提案で、委員会提案を加えても議員提案は10.7%しかない。

図表1: 提出者別議案数の推移

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私自身、議員を経験した後、自治体の部長職も務め役所を中からも見てきた。市長提案についても、政治家である市長が議案を作っている事はほぼなく、実際には、ほとんどの議案を行政職員が作っているのが実態だ。

こうした構造は、決して地方議会だけの話ではなく、少なくとも一昔前までは国でも同じ様な構造になっており、政府提案と言いながら、そのほぼ全てが官僚によって作られている。

ただ、国政における議員立法は、少しずつ改善が見られてきた。野党がより改革を進めるための対案を出し、それを受けて政府与党案の修正が行われる事や、実際に政府がほぼ丸呑みするなどといった様なケースも少しずつで始めている。

事務局長を務めるNPO法人 万年野党(会長:田原総一朗)で行っている「国会議員三ツ星データブック」で、国会議員の議員立法についてのコラムを書いたのだが、例えば、2014年1月から6月まで行われた186通常国会の中で出された閣法が81件だったのに対して、議員立法が75件も出されている。

実際に成立した法案の数で見ると、閣法79件に対して、議員立法は21件とまだまだ少ないという現実だが、それでも地方議会の現状と比較すると、大きく異なる事が分かる。

こうした動きの背景には、野党や野党議員を政策面で支えるシンクタンクの存在などもあるのだが、こうして変わりつつある国会の状況を見れば、地方議会が学ぶべきところは多いのではないかと思う。

地方議会の中で実際に提案されている議員提案の中身について見ていくと、さらに残念な数字が並ぶ。

ただでさえ少ない議員提案のうち、55.5%は国などに対して要望を文章で出すだけの「意見書」であり、条例提案は18.2%しかない。

政策的条例提案はその議員提出の条例案の8.1%でしかなく、議案全体から見ると、この議員提案による政策的条例提案は、わずか0.159%しかないのだ。

自治体の数で全体の176件を割ると、1自治体あたり0.19件しかしていない。つまり、議員による政策的条例提案は、年間、5自治体の中で1件あるかないかぐらいというのが、現状の地方議会のレベルなのである。

図表2: 前議案に占める議員による政策的条例提案率の推移

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図表3: 議員提出議案の種別推移

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図表4: 議員提出議案中の条例案の種類別推移

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市長提案の99.1%が原案そのまま通過という現実

こうした指摘をすると、ベテランの地方議員などから必ず、「議会の役割は政策提案だけではない」という声を聞く。

総理が国会議員から選ばれる国政と異なり、市長も議員も選挙によって選ばれる地方自治現場では、「行政と議会は車の両輪である」とも言われる事も多く、議会側からの提案だけでなく、行政をチェックする事もまた議会の重要な役割だとされているからだ。

そこで、地方議会の「行政チェック」の実態を調べるため、市長提出による議案の議決態様について見てみると、議会によって修正されて可決した割合は、わずか0.3%しかなく、全体の99.1%は、市長提案を原案そのままで可決している。

何でも反対すればいいという事ではもちろんなく、市長提案の中で、良いものは、そのまま原案可決すればいい。しかし、99.1%もがそのまま原案可決している状況では、議会の「行政チェック機能」とは、どういうものかと考えざるをえない。

図表5: 地方議会における原案可決率の推移

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議会内での議員の質問回数さえ減少傾向

議員の活動で最も象徴的な議会活動である議会での質問ですら減少傾向にある。

2006年までは増加傾向にあった

1自治体あたりの議会での質問回数は、この2006年からは減少傾向に転じ、今回の最新2013年データでは、個人質問は2006年以来最少の50.0回、代表質問に至っては、データを調べ始めた2002年以来最低の8.8回となってしまった。

これらは、本会議だけの質問回数だが、議員全員の1年分を合わせた回数だと考える、どれだけ少ないかが分かる。

図表6: 自治体あたりの議会での年間質問回数の推移

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地方議会もまた有権者や市民が監視できる仕組みをつくる必要がある

先程も紹介した様に、事務局長を務めるNPO法人 万年野党では、国会議員の活動データを評価する「国会議員三ツ星評価」を行っている。今回提示した様な地方議会の現状なども踏まえ、地方自治体においても、行政や議会の監視的な仕組みの構築し、とくに地方議会や地方議員の質が高まる仕組みの構築の必要性を強く感じている。

自分自身、26歳で地方議員になり、400人の超党派組織、「全国若手市議会議員の会」の会長も務め、34歳で自治体の部長職として行政職員も経験した。現状は中央大学で特任准教授を務める傍、シンクタンクの研究員としても関わるなど、多様な立場から政治や行政を見てきた。行政や政治の組織の中にも、現状を何とか変えていかなければならないという想いや志を持った人たちもいる。しかし一方で、これまで長年続けてきた仕組みや組織は、なかなか簡単には変わらない。こうした地方自治のガバナンスの仕組みを変えるためには、「議会の常識」や「役所の常識」といったこれまでの限られた人たちの中での常識から、乖離してしまいつつある「市民の常識」で判断されるようになる様なパラダイムシフトが必要である。そのためにもまず、企業がマーケットの中で市場原理で淘汰されていくように、特定の人たちしか関わらないという力学から、多くの市民による監視の中で淘汰されていく仕組みを作っていく必要がある。

国政においては、総理を選ぶ投票ができるのは国会議員に限られるが、地方自治体では、国政と異なり、市長など首長と議員が共に選挙によって選出される二元代表制をとっている。法的には首長と議会それぞれにほぼ同等ともいえる権限が与えられてもいる。地方議員を含め、地方議会関係者さえ、「地方議会は、国会の地方版」などと思っている人が多いが、実際には国会と地方議会では、その役割は大きく異なる。

国会が「国権の唯一の立法機関」(憲法41条)である事は、多くの人に知られているが、地方議会は会合して相談する「議事機関」(憲法93条1項)としてしか定められていない。同様に、国会は「全国民を代表する選挙された議員」(憲法43条)で構成され、「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」「その権力は国民の代表者がこれを行使」(憲法前文)とされているが、地方議会は「住民が直接、これを選挙する」(憲法93条2項)と住民の権利しか明記されておらず、特別法の制定についてなどは、「住民の投票においてその過半数の同意を得なければ」(憲法95条)と住民が直接行使する事が位置づけられているほか、住民の直接請求に基づく住民投票で議員・首長のリコール、議会の解散(地方自治法76条等)なども住民の権利として認められている。

こうした事からも分かるように、地方自治体におけるガバナンスは、国政と異なり、議会・行政・市民との3者のバランスにより成り立つ事が、本来より想定されているのだ。

「地方自治は民主主義の学校」とも言われる。こうした事から考えても、自分たちの街や生活を役所や政治家に依存するのではなく、自らが主体的にどうしたいのかと関わっていく事が、本来想定されているとも言える。しかし、実際には、日々の生活や仕事に終われ、地域の問題に関わろうと思っても時間もなければ、方法も分からないという人も多いだろう。そんな中で、せめて自分たちが関わる事が求められている事を認識しながら、行政や議会、議員を監視する事で、健全なガバナンスを生み出す必要があるのではないかと思う。

繰り返しになるが、来年2015年4月には、統一地方選挙が行われる。

4年前の前回の統一地方選挙では、全国37,302人の地方政治家の内、15,841人が選ばれた。

4年に1度しかないこの機会を、国民の皆様には、真剣に考えてもらいたいと思う。

日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、神奈川県DX推進アドバイザー、事業創造大学院大学国際公共政策研究所研究員。26歳で市川市議、全国若手市議会議員の会会長、34歳で松戸市部長職、東京財団研究員、千葉市アドバイザー、内閣府事業の有識者委員、NPO法人万年野党事務局長、株式会社政策工房研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員等を歴任。AERA「日本を立て直す100人」に選ばれた他、テレビ朝日「朝まで生テレビ!」等多数メディアに出演。著書に『世代間格差ってなんだ』(PHP新書)、『20歳からの社会科』(日経プレミアシリーズ)、『18歳が政治を変える!』(現代人文社)ほか。

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