Yahoo!ニュース

『来世ではちゃんとします2』で覚醒 内田理央が止まらない

中村裕一エンターテイメントジャーナリスト
(C)「来世ではちゃんとします2」製作委員会

日本のテレビドラマ史上、電動マッサージ器をバット代わりに構えて堂々とキービジュアルに登場した俳優がいただろうか? 

ここにいる。現在放送中のドラマ『来世ではちゃんとします2』(テレビ東京系にて毎週水曜0時40分~)で主演を務める内田理央である。

(C)「来世ではちゃんとします2」製作委員会
(C)「来世ではちゃんとします2」製作委員会

昨年放送され好評を博したシーズン1の続編となる本作では、前作同様、CG制作会社「スタジオデルタ」を舞台に、そこで働く男女(内田理央、太田莉菜、小関裕太、後藤剛範、飛永翼)のこじらせた“性”態が赤裸々に描かれていく。中でも内田演じる主人公・大森桃江は性依存系女子。彼女はセフレを5人も抱えており、激務の合間をぬって日替わりで彼らと体を重ねている。

桃江の5人のセフレは本命とされるSM好きのイケメンサラリーマン・Aくん(塩野瑛久)をはじめ、広告代理店勤務のBくん(平田雄也)、体力と性欲が強いメーカー勤務・Cくん(野村尚平)、元ヤンのフリーター・Dくん(富田健太郎)、投資家のEくん(おばたのお兄さん)と実にバリエーションに富んだラインナップ。

そんなに体力がもつのかと余計な心配をしそうになるが、桃江にとっては現世で「自分」を維持するために必要な行為なのだ。そう考えると、不確かだが時に心癒やされるSNSでの「つながり」に少なからず依存している私たちもまた同じようなものではないだろうか。

ドラマとしては、センシティブなテーマだけに取り扱いを少しでも間違うと炎上・破綻しかねない。演じ手だけでなく、作り手にも高度なテクニックとセンスが要求される中、ベッドインのシーンでは『特命係長 只野仁』を彷彿させるようなコミカルで小粋な演出、次回予告では某国民的アニメを大胆にオマージュした「さ~て、来週の来世ちゃんは?」というコメントなど、キャスト・スタッフが心から楽しんで作っている雰囲気が伝わってくる。

■現代社会の空気感を絶妙にすくい取った傑作

「来世」ではちゃんとします、という言葉には、せめて「現世」では楽しく過ごさせて欲しい、という切実な願いが込められている。

「○○なオレ/△△な私が転生したら××だった」など、今、Webマンガの世界では“異世界転生モノ”が隆盛だ。少しでもいいから次の人生に夢や希望を託さなければ日々の生活など到底やってられない、というのが現代人の本音なのだろう。もちろん「来世」がやって来ないことはみんな知っている。けれども、こんなしんどい毎日の中でほんの少し、そのくらい口にしてもバチは当たるまい。

それでも人は生きていかなければいけないのだ。過度な期待も悲観もしていない、絶妙なバランスで成立している桃江の生きざまは清々しく健気で、ある意味、悟りの境地にさえ見える。もしかするとそこにこの不確実な時代や社会を生き抜くヒントが隠されているのかもしれない。

桃江が持つたくましさと切なさを内田が見事に表現することで、多くの女性の共感を呼び支持を集めている本作。実は、いつまちゃんの原作漫画で最初にキャラクター紹介されているのは同僚の高杉梅であり、桃江ではない。ドラマ化にあたり桃江をフィーチャーすることで時代に漂う空気感を見事にすくい取り、現代社会の未来図と女性の一つの生き方を示した、まさにドラマ史に残る傑作と言える。

■疲れ切った現代人を優しく励ましてくれる内田理央

近年、内田理央の俳優としての成長が著しい。

『海月姫』(2018年)では主人公・倉下月海(芳根京子)を支える「尼〜ず」の一員として、両目が隠れるまで前髪を下ろしたジャージ姿の三国志マニア“まやや”を怪演。天水館のファッションショーでランウェイを歩くシーンでは目を見張るようなイメチェンとウォーキングを披露し、強烈なインパクトを残した。余談だが映画版『海月姫』でまややを演じたのは『来世~』で梅役を演じている太田莉菜である。

また、大ヒットした『おっさんずラブ』(2018年)でも、田中圭演じる主人公・春田創一の幼なじみ・荒井ちずを演じ、物語において大事なキャラクターとして活躍した。さらに12月放送予定の『岸辺露伴は動かない』第6話にゲスト出演が予定されている。

まだまだ演技については大いに可能性を秘めていると思うが、まさにハマり役とも言えるこの『来世〜』で覚醒したと言っても良いのではないだろうか。いずれにせよ今後の動向が気になる俳優の一人であることは間違いない。

身も蓋もない言い方だが、人生は思い通りにいかない。自分の描いた通りに1日が進んだことなど、ほとんどないはずだ。そうして人は1日の終わりに「明日はちゃんとしよう」と自分に言い聞かせ、眠りにつく。『来世ではちゃんとします2』は、そんな私たちの背中と心にそっと手をあててくれるようなドラマである。桃江にはどうか現世でちゃんと幸せになって欲しい。きっと誰もがそう思っているはずだ。

エンターテイメントジャーナリスト

テレビドラマをはじめ俳優などエンタメ関連のインタビューや記事を手がける。主な執筆媒体はマイナビニュース、週刊SPA!、日刊SPA!、AERA dot.など。

中村裕一の最近の記事