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12年ぶりに低調なFA市場で気になる涌井秀章の去就

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
近年稀に見る低調なFA市場の影響を受けている涌井秀章投手(写真:アフロスポーツ)

 2017年のストーブリーグは近年稀に見る低調ぶりだ。

 MLBの移籍動向を専門に扱っている有名サイト『MLB TRADE RUMORS』では、オフ入り直後に今年のFAランキングのトップ50をまとめているのだが、そのトップ10の動向を見てみると、5位に入った田中将大投手が契約解除せずにチーム残留を決めたためFA選手になっておらず、残り9人は1位ダルビッシュ有投手をはじめ誰1人新しい所属先が決まっていない状況だ。同サイトの分析では、2005年以来12年ぶりの低調ぶりだという。

 以前にもFA選手の契約事情について説明しているが、チーム格差はあれども各チームともに年俸総額予算が決まっており、当然のごとくFA市場は高額年俸が必要な主力級選手の契約が最優先される。しかし現時点で年俸2000万ドル(約22億6000万円)を超える大型契約を結んだ選手は、ジャスティン・アップトン選手(エンゼルス)とカルロス・サンタナ選手(フィリーズ)の2人だけ。それほど大物FA選手たちの契約が遅れているのだから、他の選手たちの契約も必然的に後回しにされてしまっている状況だ。

 日本人選手はダルビッシュ投手以外にもイチロー選手、上原浩治投手、青木宣親選手、岩隈久志投手がFAになっているが、シーズン中に右肩の手術をしていた岩隈投手が予想通りマリナーズと再契約した以外、所属先が決まっていない。現在のFA動向を考えると、中にはスプリング・トレーニング開幕前後まで処遇が決まらない選手も出てくる可能性もありそうだ。

 ただ彼らはMLBでの実績は十分にあり、契約が遅れたとしても所属先さえ決まれば問題はない。獲得したチームも彼らの評価もほぼ固まっているので、基本的にスプリング・トレーニング中は開幕に合わせて調整していけばいいし、自主トレ中も通常通りの調整を続けていけばいい。しかし来シーズンからMLB挑戦を目指す日本人選手の場合は事情が違ってくる。スプリング・トレーニングからある程度チームにアピールしていかねばならないからだ。

 このオフにメジャー移籍を決めたのは平野佳寿投手、牧田和久投手、涌井秀章投手、大谷翔平選手の4人だ。大谷選手は「25歳ルール」の関係で他の3選手とは扱いが違うが、無事にエンゼルスと契約することに成功した。また平野投手もダイヤモンドバックスと2年間のメジャー契約を結ぶことができ、すでに開幕メジャー入りがほぼ保証された状況なのでまずは一安心といったところだ。

 牧田投手と涌井投手はまだ所属先が決まっていないが、牧田投手はポスティング制度による移籍を目指しているので、入札するチームがある限りメジャー契約を提示してくることになる。また契約交渉が不調に終わっても西武に戻ればいいので大きな不安はないだろう。しかしFA移籍を目指す涌井投手に関しては、契約が遅れれば遅れるほど、その去就が難しくなってくる。

 このままFA市場が低調に進めば、NPBのキャンプインである2月1日以降になっても契約が決まらない可能性もある。これまでの同僚選手たちがキャンプ地で汗を流している中、所属先も決まらぬまま単独で調整を続けるのは精神的な不安を強いられることになる。またMLB移籍が100%保証されているわけではないので、NPB復帰を考えると決断を遅らせギリギリまで契約提示を待つリスクも大きい。

 さらに契約提示を受けたとしてもメジャー契約とは限らないのだ。あくまで一部米国メディアの意見ではあるが、涌井投手の評価は決して高くなく「マイナー契約+メジャーキャンプ招待以上の契約(つまりメジャー契約)を獲得できればラッキーだ」と予測しているほどだ。もしマイナー契約になってしまえば、MLBでの実績がない分、開幕メジャー入りを争うためオープン戦から勝負できるコンディションを整えなければならないので、自主トレの調整も変わってきてしまう。つまりマイナー契約なら尚更のこと、早く契約が決まらなければ調整が難しくなってくるのだ。

 またイチロー選手、上原投手(青木選手は未確認)はすでに米国永住権を保有しているので、契約が遅れたとしてもいつでもチームに合流できるが、涌井投手の場合は契約が決まってからまずビザを取得しなければならず、下手をするとスプリング・トレーニングに最初から参加できない可能性もある。マイナー契約から開幕メジャー入りを争う立場になった場合、スプリング・トレーニング参加が遅れるのは大きな痛手だ。

 いずれにせよ契約がメジャー、マイナーのいずれになるにしても、万全の状態でスプリング・トレーニングに初日から参加するには、遅くとも1月中旬までに所属先を見つけるしかないだろう。残念ながらこれまでオフの交渉関連で米国メディアから涌井投手の名が登場した形跡はない。果たして涌井投手は低調が続くFA市場で、期限内に所属先を探すことができるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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