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【手足口病の季節到来】気温・湿度・風速が発症リスクに与える影響とは?

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【手足口病と気象条件の関係 - 最新のメタアナリシスが示唆する重要な知見】

手足口病は、コクサッキーウイルスやエンテロウイルス71型による感染症で、主に乳幼児に発症します。手や足、口の中に水疱ができるのが特徴で、春から夏にかけて流行します。近年、気象条件と手足口病の関係性を調べた研究が数多く発表されていますが、その結果は必ずしも一致していません。

そこで中国の研究チームは、2020年10月までに発表された28の研究を対象に、メタアナリシス(複数の研究結果を統合して解析する手法)を行いました。その結果、以下のような興味深い知見が得られました。

【気温・湿度・風速の上昇が手足口病の発症リスクを高める】

メタアナリシスの結果、気温が1度上昇すると手足口病のリスクが10.5%高まることが分かりました。また、湿度が1%上昇するとリスクが1.4%、風速が1m/s上がると3.6%リスクが上昇しました。一方、降水量や日照時間とリスクの間に有意な関連は見られませんでした。

特に注目すべきは、極端に高い気温や湿度が手足口病のリスクを大きく高めるという点です。亜熱帯や熱帯の国々に比べ、日本のような温帯の地域でリスク上昇が顕著でした。温帯の国では、夏場の気温・湿度の上昇がウイルスの活動を活発にしているのかもしれません。

【子どもは手足口病の高リスク群、予防対策が肝心】

サブグループ解析から、5歳未満の子どもは5歳以上の子どもに比べ、手足口病のリスクが高いことが明らかになりました。幼い子どもは免疫機能が未発達なため、ウイルスに感染しやすいのです。また、気象条件による影響も大きく受けやすい傾向にあります。

子どもを手足口病から守るには、外出時のマスク着用や手洗いの徹底が欠かせません。施設などで集団生活をする際は、特に注意が必要です。流行シーズンには天気予報もこまめにチェックし、危険度が高まったら屋内で過ごすなどの工夫も有効でしょう。

【皮膚疾患との関連性 - 手足口病による皮膚症状にも要注意】

手足口病に感染すると、手のひらや足の裏、口の中などに水疱ができるのが特徴です。こうした皮膚症状は、通常1週間ほどで自然治癒します。ただ稀に、爪の変形や脱落を伴うことがあります。爪の変化は数ヶ月続くこともあり、患者さんの不安は大きいようです。

また、重症例では脳炎などの合併症を引き起こし、皮膚の広範囲に紅斑が現れることもあります。感染力が強く、接触感染でも広がりやすいため、病院での適切な対処が求められます。手足口病による皮膚トラブルが疑われたら、早めに専門医を受診するのがよいでしょう。

本研究のメタアナリシスにより、気象条件と手足口病の関係性が明らかになりつつあります。特に温帯の国では、夏場の気温・湿度の上昇に伴い患者数が増える傾向が見られます。子どもは免疫が弱く、手足口病の影響を受けやすいため、大人が率先して予防対策に取り組む必要があります。手足口病は時に重篤な皮膚症状を引き起こすこともあるため、異変を感じたらすぐに小児科や皮膚科を受診しましょう。

参考文献:

Liu, Z., Meng, Y., Xiang, H., Lu, Y., & Liu, S. (2020). Association of Short-Term Exposure to Meteorological Factors and Risk of Hand, Foot, and Mouth Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis. International Journal of Environmental Research and Public Health, 17(21), 8017. https://doi.org/10.3390/ijerph17218017

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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