メジャー最低クラスの成績に終わったイチローは、来季契約を獲得できるか?
イチローの2015年シーズンが終わった。とても話題が多かった。
4月には王貞治のNPB通算得点記録を日米通算で更新、8月には通算安打MLB歴代2位のタイ・カッブを日米通算で追い抜いた、9月にはこれまた王のNPB通算出塁記録を日米通算で抜いた。そして、最後は登板で締めた。さらに日本メディアは、第4の外野手でスタートしながら、チーム最多の153試合に出場したことを激賞した。
しかし、冷静に今季を振り返ると、相当深刻なシーズンだったと言える。イチローは今季438打席だったが、今季400打席以上は両リーグで210人だった。その中で、打率.229は193位で、OPS(出塁率+長打率).561は最下位の210位だ。近年脚光を浴びている指標であるWAR(メジャー最低レベルの選手に比較し、それだけ多くの勝利に貢献できたかを示す)は、fangraphs版では-0.7で202位だ。
元気に153試合に出場したことは評価したいが、逆に言えばどこにも故障を抱えていない状態でもこの程度の成績しか残せなかったというのは、とても厳しい現実だ。
日本のメディアを通じてぼくたちが接するイチロー情報は、残念ながらやや歪曲されている。マーリンズのフロントや監督、同僚が「激賞」という記事を良く目にするが、NPBとは異なり、あちらではメディアから特定の選手についてのコメントを求められると、決してけなしたりはしない。それどころか、褒めちぎるのが普通だ。
来季の契約に関しても、聞かれれば「大いに可能性はある」と答えるのは当たり前だ。おそらく日本メディアもそれを承知で聞いている。それでも記事になると、「球団は来季も契約を熱望」となる。
率直に言って、このレベルの成績の選手の獲得を早々と宣言する球団があるとは思えない。故障が少ないことと、守備力が平均以上であることは事実だが、それを当てにして契約するとしても、マイナー契約で囲い込んでおき、故障者が出た段階で昇格させるという腹積もりであるのが順当だろう。
したがって、マーリンズが今の段階から早々と契約を正式に表明するとは思えない。もし、それでも報道が事実とすれば、彼の背後にあるジャパンマネーを期待してのことだろう。
ぼくは、8月にマイアミでマーリンズの試合を観戦したが、たまたまその日はイチローTシャツデ-だった。なぜか、先着10,000名とケチケチの設定だったそのTシャツは、日本の製薬メーカーがスポンサーとなって作られたものだった。
では、イチローを正当に選手として評価し来季の契約をオファーする球団はないのか?必ずしもそうではない。今季のマーリンズのように、彼を若手選手の規範として迎え入れたいというケースも皆無とは言えないだろう。歴史的に見ても、過去には事例がある。1983年のオフ、モントリオール・エクスポズは開幕時には43歳になるピート・ローズを獲得したが、彼の83年の打率は.245だった。当時、エクスポズにはゲーリー・カーターやアンドレ・ドーソンといった後の殿堂入り選手や、ティム・レインズ(通算808盗塁)やジェフ・リアードン(一時、通算セーブ記録保持者だった)などのスターを抱えていたが、そんな個性派をまとめ上げるクラブハウス・リーダーが必要だったのだ。イチローは、当時のローズのように声高らかにリーダーシップを発揮するタイプではないが、野球に対する真摯な姿勢はロールモデルとも言える。
イチローは、先日『ニューヨーク・タイムズ』紙のインタビューで「50歳までプレーしたい」と答えている。本音は、あと65本の通算3000本安打の達成や、日米通算であと43本で並ぶピート・ローズの記録更新が現役続行のモチベーションかも知れない。しかし、記録への執着を露わにするのははばかれるため、それをカムフラージュするための「50歳まで」宣言の可能性もあると、ぼくは思っている。
しかし、それでも良いと思う。まだ一流のヒットメーカーとして、記録を達成するのは理想だが、彼がボロボロの状態でメジャー3000本や日米4256本を達成したとしても、それがあるのは10年連続で200本安打を達成した全盛期の蓄積があってのことなのだから。このオフの就活にはそれなりに苦労するだろうが、なんとか来季の働き場を見つけて欲しい。