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「セサミ・ストリート」に黒人キャラクターが新登場。子供たちに「人種」を語る

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(Sesame Street/ YouTube)

 人種差別問題にあらためて脚光が当たるアメリカで、この事柄を子供たちにどう教えればいいのか、大人たちは頭を悩ませている。そんな中で、ありがたい助っ人が現れた。昔からおなじみの子供向け番組「セサミ・ストリート」だ。

「セサミ・ストリート」を制作する非営利団体セサミ・ワークショップは、人種、そして人種問題について、年齢にふさわしい形で語るべく、「ABCs of Racial Literacy」(初歩の人種リタラシー)というプログラムをスタート。その一環として、新しく黒人のキャラクターがふたりデビューすることになった。ひとりは男の子のウェス、もうひとりはウェスの父親イライジャだ。

 彼らが初登場するのは、今週リリースされた「人種について説明する」と題された約3分のストーリー。物語の初めで、イライジャとウェス父子は、外のベンチに座り、紅葉を楽しんでいる。そこへエルモがやってきて、葉っぱを手に取り、「この葉っぱは、僕の毛みたいに赤いね。そして、こっちは君の肌みたいに茶色いよ」と言う。それを聞いてイライジャは「なかなか良い観察だね」と言い、そこからどうしてこの父子の肌は茶色なのかという話になる。

 イライジャは、人間はみんなメラニンというものをもっていて、その量が肌や髪、目の色に関係するのだと、エルモに説明。「違うふうに見えるのは良いことなんだよ」「その違いを人種と呼ぶ人も多い。でも、見た目は違っても、僕らはみんな人間という人種なんだ」とイライジャは語り、ウェスとエルモは、笑顔で「それってクールだよね」と答える。そして3人はあらためて空を見上げ、違う色の葉っぱがあるからこそ、紅葉はより美しいのだと発見。イライジャが、「違う色の人たちが一緒になる時、僕たちは、この木のように力強くなるんだ」と言ったところへ、ウェスが半分赤く、半分が茶色い葉っぱを拾い、「見て、エルモ。これは僕らみたいだよ。一緒にいるのは美しいよね」とエルモに語りかけて終わる。

 子供のうちから人種についても正しい形で語ろうという動きが見られたのは、これが初めてではない。今月初めにも、長年愛されてきた児童書「ドクター・スース」から人種差別的な描写のある6冊が出版停止になると発表され、話題を呼んだばかりだ。その決定をしたのは、故人である著者セオドア・スース・ガイゼルの作品を管理する、ドクター・スース・エンタープライズ。ガイゼルの誕生日である3月2日に出された声明で、彼らは、「私たちの使命はすべての子供たちと家族に希望とインスピレーション、インクルージョンと友情を与えること」だとし、専門家と話し合い、人を傷つけるような描写のある本の販売をやめることにしたと述べた。この発表に「キャンセルカルチャーだ」と反感を示した保守的な人も少なくなく、この直後には本の売り上げが急増している。それでも、多くの人は、これを正しい判断だと受け止めたようだ。

 人種の話題は微妙で、大人同士でも神経を使うものである。しかし、これだけニュースにトピックとして上がる今、子供に対する説明は避けて通れない。今月放映されたメーガン妃とハリー王子のインタビューでも、クローズアップされたのは人種差別の部分だった。また、ジョージア州アトランタで起きた銃撃事件は、まぎれもなくアジア系を狙ったヘイトクライムだ。今の子供たちが大人になった時、同じようなことを再び目撃しなくていいようにするためにも、このような努力は歓迎すべきことである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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