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メラノーマ治療の最前線:ワクチンと免疫チェックポイント阻害剤の相乗効果に注目

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

皮膚がんの一種である悪性黒色腫(メラノーマ)は、早期発見・早期治療が非常に重要な病気です。そんなメラノーマに対する先進的な免疫療法の研究が、今大きな注目を集めています。

今回は、メラノーマに対するワクチン療法と免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせによる治療効果について、最新の研究成果をご紹介します。

【VACCIMELワクチンがメラノーマ患者の免疫応答を強化】

アルゼンチンの研究チームは、VACCIMEL(バキメル)と呼ばれるメラノーマに対するワクチンを開発しました。このワクチンは、患者の免疫系を活性化し、がん細胞を攻撃する能力を高めることができます。

VACCIMELは、4種類のメラノーマ細胞株を放射線照射し、BCGとGM-CSFというアジュバント(免疫賦活剤)と共に投与します。この方法により、メラノーマ関連抗原やネオアンチゲン(がん特異的な新しい抗原)に対する細胞性免疫応答が増強されることが明らかになりました。

VACCIMELは、メラノーマ患者の免疫応答を高める有望なワクチンであり、今後の臨床応用が大いに期待されます。

【PD-1阻害剤との組み合わせでさらなる効果】

免疫チェックポイント阻害剤、特にPD-1阻害剤は、すでにがん治療に使用されています。PD-1阻害剤は、がんに対する既存の腫瘍反応性リンパ球を活性化することで効果を発揮します。しかし、単独では奏功率が限られているのが現状です。

そこで、VACCIMELとPD-1阻害剤を組み合わせることで、より高い治療効果が期待できるのではないかと考えられています。

今回の研究では、VACCIMELを投与後に進行したメラノーマ患者5名に対し、PD-1阻害剤による治療を行いました。驚くべきことに、全員が完全奏功(CR)を達成し、その期間は3~65ヶ月以上にわたりました。

この結果は、VACCIMELによって誘導されたがん反応性リンパ球が、PD-1阻害剤の効果を高める可能性を示唆しています。

【メラノーマ治療の新たな可能性】

メラノーマは、他の皮膚がんと比べて転移リスクが高く、進行が速いことが知られています。そのため、早期発見と効果的な治療法の確立が求められてきました。

VACCIMELとPD-1阻害剤の組み合わせは、メラノーマ治療の新たな選択肢となり得ます。今回の研究では、少数の患者を対象としていますが、より大規模な臨床試験によって有効性と安全性を確認する必要があるでしょう。

また、日本においてもメラノーマは増加傾向にあり、国内での免疫療法の開発や普及が望まれます。

参考文献:

Mordoh J, et al. Front Immunol. 2024;15:1354710. doi: 10.3389/fimmu.2024.1354710.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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