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パット・トラヴァース/必殺ギター・ヒーローの過去と現在を繋ぐタイム・トラベル【前編】

山崎智之音楽ライター
Pat Travers(写真:REX/アフロ)

パット・トラヴァースのニュー・アルバム『The Art Of Time Travel』は、1970年代からのベテラン・ファンから若い世代のリスナーまでが熱狂出来る必殺ギター・アルバムだ。1954年生まれ、68歳となるパットだが、火を噴くギターは健在。ハードに弾きまくるプレイは、まるで20世紀からタイム・トラベルしてきたように若々しく新鮮だ。

全2回となるインタビュー記事で、彼は自らの現在と過去、そして未来について語ってくれた。まず前編では『The Art Of Time Travel』について訊いてみた。

Pat Travers『The Art Of Time Travel』ジャケット(Cleopatra Records 現在発売中)
Pat Travers『The Art Of Time Travel』ジャケット(Cleopatra Records 現在発売中)

●『The Art Of Time Travel』はどんなアルバムだと説明しますか?

これぞパット・トラヴァースだ!というアルバムだよ。1970年代のロックのエネルギーを現代に復活させて、さらに前進させていく。アルバムそのものがタイム・トラベルなんだ。コロナ禍でツアーに出られなかったことでじっくり腰を落ち着けてアルバムの曲作りをしながら、ライヴの熱気と両立させたかった。パンデミック初期は世界の状況に困惑していたけど、考える時間が出来たせいもあって次から次へと曲のアイディアが浮かんできた。リフやコーラスを足したり削ったりして、結局15曲を完成させて、10曲をアルバムに収録したんだ。俺がギター、アレックス・ペトロスキーがドラムス、デヴィッド・パストリアスがベース、俺の嫁さんのモニカ・トラヴァースがバック・ヴォーカルを取っているよ。アルバムの出来映えにはハッピーだし、世界中の音楽ファンに聴いてもらえることにエキサイトしている。

●新作について訊く前に、前作『Swing!』(2019)について少し教えて下さい。ブライアン・セッツァーのようにスウィングとリード・ギターをクロスオーヴァーさせたアーティストは過去にいても、ハード・ロッキンなギターとスウィングを融合させたのはあなたが初めてではないでしょうか?

そうだね、たぶん史上初だと思うよ。うちの嫁さんがネットラジオで1940年代の音楽をかけるチャンネルを聴いていたんだ。そのとき気付いた。大音量のアンプやPAがない時代は、ビッグ・バンドこそがハード・ロックに相当するものだったってね。速くてハードでエネルギーがあって、花形のサックス奏者やトランペット奏者がリードを取ったり...その後しばらくして“クレオパトラ・レコーズ”からオファーがあったとき、そんな音楽を現代に生まれ変わらせたアルバムを作ろうと考えたんだ。それが『Swing!』だった。「イン・ザ・ムード」「A列車で行こう」「テンダリー」など、スタンダードを生かしながら俺らしくプレイするのは決して簡単ではなかった。でも自分で弾いてみることで原曲の今まで気付かなかったツボを発見出来たり、いくつも新しい発見があったよ。コード進行やフレージングなどは『The Art Of Time Travel』にも受け継がれていると思う。シングル曲「Push Yourself」や「Full Spectrum」は、言ってみれば『Swing!』の二日酔いの産物だよ(笑)。ホール&オーツで知られるチャーリー・デシャントがテナー・サックスを吹いてくれたんだ。それ以外の曲の端々でもビッグ・バンドの曲展開などからインスピレーションを得ているよ。

●アルバムを作る前からスウィングのファンだったのですか?

『Swing!』でプレイした曲は知っていたし、好きだった。スウィングを毎日何時間も聴くようなマニアではなかったけど、アルバムを作るにあたっていろんな楽団やアーティストを聴き込んで、さらに好きになったよ。「Apple Honey」はアップテンポで、ギターで弾くのにひと苦労した。もしまたスウィング・アルバムを作る機会があったら、さらにいろんなチャレンジをしてみたいね。

『The Art Of Time Travel』の1曲目「The Art Of Time Travel」はガツンとインパクトのあるロック・ナンバーですが、“タイム・トラベルの芸術”というタイトルも一度耳にしたら忘れることが出来ません。

この歌詞は“不安”を描いているんだ。社会に対する不安、未来に対する不安、さらに過去に犯した過ちに対する不安などをね。でも、そんな不安に悩まされるのでなく、現在をフルに生きることを歌っている。そんなことを考えているうちに、まるで量子跳躍のように“タイム・トラベルの芸術”というフレーズが頭に浮かんだんだ。この曲ではトミー・クレイグがドラムスを叩いている。

●ロニー・モントローズに捧げる「Ronnie」では彼を“別々の母親から生まれた兄弟”と呼んでいますが、彼とはいつ、どのように会って、どのような関係でしたか?

初めてロニーがギターを弾くのを見たのは1972年、カナダのオタワでのライヴだったと思う。まだ俺は17歳で、彼はエドガー・ウィンターのバンドのメンバーだったけど、ガツンとハードなのに繊細で味のあるギターに目と耳が釘付けになったよ。会って話すことが出来たのはそれから10年ぐらい経って、俺はもうフロリダ州オーランドに住んでいた。やはり彼のショーを見に行って、バックステージで会ったんだ。ロニーはとてもクールな人で、すぐに友達になった。何回か対バンもしたし、同じ都市にいるときは食事をしたり、電話で話したりもしたよ。YouTubeに俺たちが「バッド・モーター・スクーター」をライヴ共演している映像があって、見ていて感情がこみ上げてしまった。晩年の彼が体調を崩していたのは知っていたけど、亡くなったと聞いたときはショックだった(2012年)。「Ronnie」は彼への敬意と友情のありったけを込めたんだ。今でも彼がいないのは寂しいけど、この曲を書いてプレイして、ライヴのお客さんと彼への想いを共有出来るのは嬉しいね。

●「Push Yourself」はアルバムから先行リーダー・トラックとして発表され、ミュージック・ビデオも作られましたが、レーナード・スキナードのバイオピック映画『Street Survivors: The True Story Of The Lynyrd Skynyrd Plane Crash』(2020)からのフッテージが使われていたことが興味深かったです。

「Push Yourself」ビデオはレーベルの“クレオパトラ・レコーズ”が制作したんだ。レーナード・スキナードの映画には彼らが関わっていたから、映像を使い回ししやすかったんじゃないかな。まあ、俺たちのライヴ映像とうまくブレンドして、効果的に曲を盛り上げているから、スーパー低予算だけど良いビデオだと思う。レーナード・スキナードの音楽はずっと好きだったけど、俺が1976年にデビューして、イギリスで活動していた頃に飛行機事故に遭ったから(1977年)、知り合う機会がなかったんだ。でも事故で生き残ったドラマーのアーティマス・パイルとは友達になったよ。

●アルバムを締め括るインストゥルメンタル曲「Natalie」について教えて下さい。

「Natalie」はベーシストのデヴィッド・パストリアスが書いたんだ。彼の奥さんのナタリーに捧げた曲だそうだ。ギターを弾いていて、夢の中に引き込まれるような美しい曲だよ。デヴィッドはジャコ・パストリアスの甥なんだ。ジャコが奥さんに捧げた「トレイシーの肖像」への、彼からのオマージュでもあるんだよ。

●「Natalie」の雰囲気がちょっとフリートウッド・マックの「アルバトロス」っぽかったりしますね。

ハハハ、言われてみればそうだね。他の誰かと比較されるのはあまり好きではないけど、ピーター・グリーンは史上最も味わい深いエレクトリック・ギタリストだったし、彼と較べられるなら光栄だよ(笑)。ピーターは弾き過ぎることがなかった。最小限の音数で、最も表現力豊かなギターを弾いていたんだ。俺も「Natalie」ではそんなプレイを志していた。

●アルバムではどんなギターを弾きましたか?

フェンダーのカスタム・ショップにいたジョン・クルーズが作ってくれたPTスーパー・ストラトを全面的に弾いているよ。もう2年半ぐらい弾いているけど、最高のサウンドで手触りも良いんだ。あと「Push Yourself」ではフェンダー・エスクワイア、それから数箇所でPRS custom 22を弾いている。いずれもここ数年で入手したものだよ。ヴィンテージ・ギターは買えないからね(笑)。でも今弾いているギターはどれも素晴らしいし、何十年も弾いてヴィンテージになるまで使い続けるつもりだ。

●『The Art Of Time Travel』は“クレオパトラ・レコーズ”からリリースされますが、彼らとの関係はどのようなものですか?

“クレオパトラ”は俺にすごく良くしてくれているよ。社長のブライアン・ペレラはクールな人で、常に新しいアイディアを生んでいる。直接会ったのは今年(2022年)に入ってからだけど、いろんなセッションに参加してきたよ。カーマイン・アピスとのコラボレーション・アルバム『Bazooka』(2005)もやったし、ウィリアム・シャトナーのブルース・アルバムでは「I Put A Spell On You」を弾いたんだ。ミュージック・ビデオも作られたけど、最高だから見て欲しいね。俺は大爆笑したよ!ブライアンは『The Art Of Time Travel』の出来映えにエキサイトしていたし、良い仕事をしてくれると信じている。『パット・トラヴァース・ファースト』を出した頃に戻ったような新鮮な気分だよ。

●“クレオパトラ”はバッドフィンガーvsリック・ウェイクマン、ディ・クルップスvsロス・ザ・ボス、ロバート・カルヴァートvsア・フロック・オブ・シーガルズなど、意外なアーティスト同士のコラボレーション企画をやっていますが、あなたも誰かと共演していますか?

いや、去年(2021年)の『The Art Of Time Travel』を作ることに集中していたし、声もかかってきていないよ。今後話があれば、相手や曲によってはやってみたいね。

●『The Art Of Time Travel』に伴うライヴは行っていますか?

うん、一時はコロナ禍ですべてのライヴが中止になったけど、ようやく俺が本来いるべき場所、ライヴのステージに戻ることが出来た。こないだフォガットとのダブル・ヘッドライナー・ライヴをやったんだ。アルバムと同じベーシックなトリオ編成で、最高にホットな状態だよ。2022年内はアメリカとカナダで幾つかショーをやることが決まっている。2023年にはヨーロッパにも行きたいけど、新しい変異株などのせいで中止になるリスクを考えると、慎重にならざるを得ないんだ。

●あなたが日本に戻ってくるのを待っています!

うん、1980年に日本でツアーをやる筈だったけど、実現しなかったんだ。当時のマネージャーの頭がおかしかったせいでね。その後、グレン・ヒューズやジョー・リン・ターナーと一緒に企画ライヴで行って(2002年、“Voices Of Classic Rock”)、日本の文化に興味を抱いたことで、一心流空手に入門したんだよ。もう18年間やってきて、三段なんだ。日本語でイチ、ニ、サン...10まで数えられる。自分のキャリアにおいて後悔があるとしたら、もっと頻繁に日本に行かなかったことだ。これからでも遅くない。日本で『The Art Of Time Travel』からの曲やオール・タイム・ベストをプレイしたいね。

後編記事ではパットの半世紀に及ぶキャリア、名盤『ライヴ! Go For What You Know』(1979)にまつわる秘話、そしてシン・リジィ、ゲイリー・ムーア、グレン・ヒューズ、パット・スロールなど数々のミュージシャンとのエピソードを明かしてもらおう。

【アーティスト公式サイト】

http://www.pattravers.com/

【レーベル公式サイト】

Cleopatra Records

http://cleorecs.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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