「貧乏子沢山」どころか「裕福じゃなければ産めない」経済的少子化と「裕福でも産まない」選択的少子化
かつて1割しかいなかった一人っ子
みなさんには兄弟姉妹は何人いるだろうか?
現在40代以上の世代はほぼ2人以上の兄弟姉妹で育ったことだろうと思われる。事実、1970年代から2002年ごろまでは、日本における一人っ子の割合は少なく、1割程度で推移していた。つまり、9割の子どもには兄弟姉妹がいたことになる。
かつて夫婦と子ども2人の4人家族が「標準世帯」と呼ばれた時代があった。1970年代は世帯類型別ではこの「夫婦と子」世帯が圧倒的に多く、全体の45%を占めていた。しかし、もはや世帯類型別では2020年国勢調査においては25%までその比率を減らしている。かわって1位になったのは一人暮らしの単身世帯で、その割合はほぼ4割に到達しようとしている。
→家族が消滅する。ソロ社会が不可避な未来に必要な視点の多重化
社人研の出生動向基本調査の2015年までのデータを見ると、2005年以降徐々に「一人っ子」は増えており、2015年には20%に到達している(一人以上の子を出産した母親の子ども数による割合で無子割合は除いている)。
傾向からいえば、2人以上産む母親の割合はほぼ40年間通じて50%以上で変わってはいないが、一人っ子が増えた分は、3人以上の兄弟姉妹世帯が減った分といえる。
これは49歳までの実績であり、もちろん50歳以上でさらに出産するケースもあるとは思うが、合計特殊出生率の対象年齢が49歳までなのでそちらに準じている。
出生動向基本調査の最新のデータは2021年に調査実施しており、来年には公開される予定なので、この一人っ子の割合がどれくらい増えているかというのには注目したい。
一人っ子が増えた要因
さて、こうしてじわじわと一人っ子が増えるということは、将来の少子化をまさに予見するようではあるが、なぜ一人っ子が増えているのだろうか。
ひとつには、第一子の晩産化があげられる。
35歳以上で第一子を出産した母親の割合は、2000年時点では6.4%だったが、2020年には20.9%へと激増している。もちろん、安全な高齢出産という医療の発達もあるのだが、とはいえ、第一子が40歳前後だと第2子を産むのはなかなかきつくなってしまう。戦後まもなくのベビーブーム期でも1970年代の第二次ベビーブーム期でも40歳以降の出産は多かったが、それは3人目や4人目の出産であった。
そして、もうひとつは、やはり経済問題である。
よく「貧乏子沢山」などと言われるが、現代においてはもはや逆で、むしろ、貧しい世帯ほど子の数は少ないというのが事実である。
2017年の就業構造基本調査から、夫婦と子世帯だけを抽出して、「一人っ子世帯」と「2人以上の子を持つ世帯」の構成比を比較したのが以下のグラフである。
余裕がないと子は産めない時代
明らかに、低年収世帯に一人っ子は集中している。世帯年収300万未満では7割が一人っ子である。
一人っ子世帯を2人以上の子がいる世帯が上回るのは、世帯年収500万円以上で、子どもを2人以上産み育てるためには少なくとも500万円以上の世帯年収がないと無理ということでもある。
貧乏子沢山どころか裕福じゃないと子は産めないのだ。
かといって、世帯年収が上がればあがるほど子の数が比例して増えるかというと、そうでもなく、世帯年収1000万円当たりで頭打ちになり、世帯年収2000万円を超える富裕層になると、逆にまた「一人っ子」比率が増えてしまう。
いうなれば、同じ「一人っ子」でも、貧困層と富裕層に二極化している。
二番目の子を「経済的に産めない」前者と「選択的に産まない」後者とでは、子どもの置かれた環境は大きく変わるだろう。
親の経済環境は、子の進学や就職に大きな影響を及ぼし、ひいてはそのまま子の生涯年収に直結する。親から受け継ぐのは、生物学的な遺伝子だけではなく、親の経済力もまた遺伝していくという不都合な「親ガチャ」の真実はこちらの記事(努力だけでは越えられない「親が貧乏だと進学も就職も結婚すらできない」子どもたちの未来)にも書いた通りである。
同じ一人っ子でも、「貧しい一人っ子」と「豊かな一人っ子」とでは、その子の未来を大きく分けてしまうことになる。
少子化とはいえ、一人の母親が産む子どもの数は全体平均的には変わっていない。しかし、一方で、低年収世帯と高年収世帯で一人っ子が増えているという現実がある。
奇しくもこれは平均年収が30年間もほぼあがっていない中で、一部の高年収世帯が増えつつあるのと裏腹に、かつての中間層から脱落した貧困層が増えているという親の経済状況と同じではないだろうか。
親の年収の格差拡大は結果的にさらなる少子化を招くだろう。
貧しい子も豊かな子も何らかの作為をもって生まれて来たわけではない。豊かな子が貧しき子を足蹴にしたわけではないし、貧しき子が豊かな子より怠惰であったわけでもない。子に限らず親もそうである。貧しかろうと豊かであろうと、子を思う親の気持ちには変わりはない。
しかし、誰の作為も企図もないのに、現実として次々と生まれ、成長していってしまうのは「格差という名の子ども」であり、その「格差の子」が親となれば、やがては「分断という名の子ども」を多産化していくのだ。
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