日銀のピーターパン物語
日本銀行金融研究所は、2015年6月4、5日に日銀本店において、「金融政策:効果と実践」と題する 2015年国際コンファランスを開催した。その開会挨拶において、黒田総裁が中央銀行が現在直面している様々な課題を提示した上で、引用したのがピーターパンの物語の一節であった。
「飛べるかどうかを疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう(The moment you doubt whether you can fly, you ceaseforever to be able to do it)」
現在、「PAN ~ネバーランド、夢のはじまり~」という映画がまもなく公開されるが、これはネバーランドに連れて来られた孤児が「ピーターパン」になるまでを描く作品である。この作品ではフック船長は単なる悪役では無く、かつてはピーターパンと盟友であったとの設定になっている。
黒田総裁は、盟友であったかどうかは知らないがアベノミクスという夢の王国を打ち出した安倍首相に請われて日銀総裁となった。そこで取った政策が量的・質的緩和政策であり、異次元緩和政策とも呼ばれた。ただし、この政策は2年という時を設定した。フック船長は、時計を飲み込んだワニに追われることになるが、アベノミクスの場合は時に追われているのは黒田総裁となっていた。
しかし、2年が経過しても魔法の効果は出なかった。途中まで出たような気がしていたが、何か別の力が働いていたのが要因であったようで、油の値段が下がったとたんに、期待はどこかに失せてしまったのか、目標から遠ざかってきてしまった。
魔法の効果を信じていなければ、魔法は使えなくなってしまうのか。本当にその魔法は効くのであろうかと市場参加者が疑問を抱いたことで、魔法が消えてしまったということなのか。
それならば再び市場参加者達にも魔法を掛ければ良いのか。フック船長ならぬ安倍首相は、旧三本の矢を再び取り出して磨きを掛けるという。その一本目がピーターパンならぬ日銀の大胆な金融緩和という矢である。飛べるかどうか(物価目標を達成できるかどうか)を疑う人たちに対して、新たな矢を射ることで本当に願いは叶うのか。これは今回、ECBのドラギ総裁も試そうとしている。
市場参加者は、飛べるかどうかを疑う以前に、飛べるわけがないことを知っていたのではなかろうか。ただし、飛べるかどうかはさておいて、魔法が掛けられると、なぜか株が上がったり、通貨価値が下がることがあるので、魔法そのものは掛けてほしいと願っている。しかし、それは何か起きると魔法にばかり頼ることにもなりかねない。そもそもその魔法のためには必要なものが存在するのだが、その道具にも限界がある。これはECBも同様か。
はたして日銀のピーターパン物語の続きはどうなるのか。ネバーランドでは結局、ピーターパンとフック船長は敵同士となってしまう。そんな結末も待っているのか。10月30日の魔法を決める会合への期待も出ているが、魔法を信じさせながらも限られた道具しかないなか、金融政策はネバーではないが、当分の間はそのまま据え置かれるのではなかろうかと予想される。それともドラギさんのマジックが成功しそうなので大胆なというより、やることに意義があるとして、自ら禁じ手としていた小出しの魔法を掛けるのであろうか。