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女子大生の日本代表が最高の笑顔で手にした銅メダル。自立と自発の好チームが示した「なでしこ」への可能性

川端暁彦サッカーライター/編集者
勝って笑って終わろう。その誓いのままに銅メダルを手に入れた(写真:六川則夫)

準決勝ショックから心機一転

「日本代表の意地とプライドを持って戦えて良かった」(MF横山亜依=筑波大学)

ユニバーシアード競技大会女子サッカー競技。10日の準決勝でフランスに敗れてから、わずかに中1日。気持ちを切り替える時間もないまま迎えた12日の3位決定戦における一つの焦点が心理面での立て直しにあることは明らかだった。だが、望月聡監督は言う。

「指導者として一番心配していた部分はもちろん、そこ(心理面)でした。でも僕が声を掛けた言葉なんて大したものではなく、彼女ら自身が『やるべきことをやろう。銅メダルを獲ろう』と自分たちから言い合ってくれて、気持ちをこの試合に切り替えてくれたんです」

準決勝に出場機会がなく、この3位決定戦では先発に指名された横山も言う。

「負けた直後のロッカールームはさすがに暗かったです。でも翌日の練習ではもう違ったと思います。銅を獲って帰りたい。絶対に何かを手にしたいと私も思っていたし、準決勝は試合に出られなかったこともあって『やってやるぞっ!』みたいな気持ちになっていた。目指していた金メダルを獲れなくなったのは悔しかったけれど、だからといってモチベ(―ション)が落ちるなんてことはありませんでした」

対戦相手がカナダだったというのも大きかったかもしれない。「カナダは大会前に御殿場で合同合宿を張ったチームなんです。お互いによく知っていますし、選手たちも一緒にご飯を食べたり、一緒に練習することですっかり仲も良くなっているチームなんです」と望月監督が言えば、横山も「本当にカナダは仲の良いチームなので、この場でやれて良かったですし、いい雰囲気の試合になるということは分かっていました」と笑顔で語る。また加賀孝子主将(仙台大学)も「カナダは私たちの仲間ですし、ライバルでもある。そういう相手とやるのだから、絶対に負けたくないという気持ちでした」と言い切った。

大量5点のゴールラッシュ

3位決定戦の天候はあいにくの雨と風が降り注ぐバッドコンディションだったが、ピッチ上の温度感は立ち上がりから高かった。つばぜり合いのような展開が続く中、先制点を挙げたのは、日本の横山である。22分、「カナダは高い選手が多いので、(まともに競るのではなく)サイドに流れてくるのを待った」とFW高橋美夕紀(新潟医療福祉大学)のクロスボールをファーで待ち受けて、頭で押し込んだ。

ここからは日本のゴールラッシュだった。カナダが意気消沈したスキを逃さずに30分にMF川原奈央(早稲田大学)、34分にFW濱本まりん(吉備国際大学)が連続得点。ハーフタイムを挟んでカナダが精神的に立て直してきて相手ペースの時間帯となっても、そこは全員で守るのがこのチームのスタイル。ここまで正GKとして活躍してきた井上ねね(日本体育大学)に代わってゴールを預かったGK新井翠(国士舘大学)も堂々たるプレーぶりを見せた。「(新井は)ウチの宴会部長。年下の井上ねね(日本体育大学)にポジションを取られて悔しいだろうに、チームのためにいつも明るく声を出してくれていた」と望月監督が褒め称える守護神がゴールにカギをかける。

すると69分、相手にPKを与えてしまうなど悪い流れになりかけていたところで、守備陣の奮闘に攻撃陣が応える。ペナルティーエリアから10m程度手前だっただろうか。FW高橋が観衆だけでなく監督の度肝まで抜くロングシュートをその位置から叩き込んで、この嫌な空気を完全に吹き飛ばしてみせた。そして、最後はFW植村祥子(日本体育大学)。「エースと言われながら、1点も取れていなかった。彼女に取らせてやろう、そんな空気が自然と出ていた」という流れが結実し、85分に植村の見事なシュートが決まり、5-0。最高の終わり方で、日本が銅メダル獲得を決めた。

自発、自立、そして……

望月監督がチーム結成から強調してきたのは「主体性を持とう。自立しよう」ということ。「ミーティングでもこちらが一方的にしゃべることはしませんでした。たとえば準決勝前にも『お前が監督だったら、どうする?』と選手に問い掛けたり、常に自分の意見を持つように、そういう気にさせてきたつもりです。このチームを通じて自分で考える選手を育てたいと思っていたし、それぞれが自立してくれたからこそ、銅メダルに届いたのかなと思います」。かつて佐々木則夫監督の参謀役として女子ワールドカップ制覇に貢献した指揮官は、肩の荷を下ろしたような表情を浮かべつつ「いい形で終われて良かった」と笑った。

もちろん、この銅メダル獲得は終着点ではない。自立した選手であってほしいと願ったのは、その先のステージで何が必要なのかを知っているからこそ。「この大会でつかんだ自信を糧にして、一人でも多く『なでしこジャパン』に行ってくれればと願っている」と言った望月監督は、「佐々木さんに電話して推薦しておかないと」と破顔一笑。にこやかに去って行った。

2015年7月12日に手にした銅メダル。彼女たちの未来に多くの可能性が生まれたことを感じさせつつ、日本女子サッカーのユニバーシアード光州大会は幕を閉じた。

ユニバーシアード日本女子代表

監督:望月聡

コーチ:黒澤尚

コーチ:八鍬晶子

コーチ/総務:中瀬晴彦

GKコーチ:田中龍哉

トレーナー:三宅明子

ドクター:貞升彩

[GK]

新井翠/国士舘大

井上ねね/日本体育大

[DF]

高木ひかり/早稲田大

浦田佳穂/順天堂大

長嶋洸/日本体育大

林香奈絵/尚美学園大

須永愛海/仙台大

小泉玲奈/東京国際大

奥川千沙/早稲田大

[MF]

加賀孝子/仙台大

横山亜依/筑波大

吉武愛美/吉備国際大

山守杏奈/筑波大

三橋眞奈/大阪体育大

高塚綾音/吉備国際大

川原奈央/早稲田大

[FW]

本多由佳/大阪体育大

植村祥子/日本体育大

高橋美夕紀/新潟医療福祉大

濱本まりん/吉備国際大

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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