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広島はこのオフにマエケンをポスティングに掛けるのがもっとも得

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:ロイター/アフロ)

プレミア12の終了がひとつの区切りになったようだ。かねてからメジャー移籍の希望を持っているといわれる広島の前田健太がポスティング移籍に関して「球団としっかり話をしたい」と語ったという。

今季自己2度目の沢村賞を獲得した前田には、ダイヤモンドバックスをはじめメジャー数球団が興味を示しているらしい。果たして広島は前田のポスティングに踏み切るのだろうか。

プロ野球もビジネスである以上、「損得」の計算抜きにはスター選手のポスティング実施有無という重要な判断は下せない。前田は17年オフに海外FA権を得る。したがって、広島には、1)このオフにポスティング、2)16年オフにポスティング、3)17年オフにFAとなってメジャーに流出、この3通りのシナリオがある。果たして、カープにとってはどれが一番「得」なのだろうか。

単純に前田の移籍で得られる金銭の観点では、3)はもっとも損である。FAで移籍の場合は、メジャー球団からのポスティングフィーという収入得られないからだ。ならば、1)と2)は同じかというと必ずしもそうではない。1)、すなわちこのオフの移籍を認めた場合のポスティング収入は、まずまちがいなく規定最高額の2000万ドル(約24億円)が期待できる。前田は、レギュラーシーズンで15勝8敗、防御率2.09の好成績を残し、先のプレミア12でも好投しているからだ。

しかし、2)の場合はどうだろう。前田の投球術自体はもちろんかわりはないが、彼の場合は故障のリスクは残念ながら皆無ではない。来季、肩やひじの故障に見舞われる可能性は排除できない。その場合、前田の商品価値(いやな言葉だが)は大きく減じるだろう。実際、2010年のオフに当時楽天の岩隈久志(現在はマリナーズからFAの状態)がポスティングに掛けられたケースでは、交渉権を得たアスレチックスは1910万ドルを指したと言われる(当時は現在とは異なりポスティングフィーに上限は設定されていなかったが)。岩隈はそのあとのアスレチックスとの入団交渉がまとまらず楽天残留を選んだが、翌年オフに晴れてFAとなりマリナーズと結んだ契約は1年150万ドル(別途出来高あり)という寂しいものだった。そのシーズン中に肩の負傷で2ケ月も欠場したからだ。このことは、過去の実績に関わらず直近に故障歴があるかどうかで投手の価値は大きく変動することを示している。要するに、来年のオフまで引っ張った場合、広島は前田のポスティングフィーとして確実に上限の2000万ドルを獲得できる保障はないのだ。

広島はこのことに加え、前田がいなくても現在の全国的なカープブームを維持できるかを検討し、経済的な損得をはじきだすだろう。

もっとも、カープの場合は「損得」を越えた「信条」で方針を決める可能性もある。というのも、07年オフの黒田博樹にせよ翌年の高橋建にせよFAでのアメリカへの移籍だったからだ(彼らの場合はポスティングを強く要望していなかったという事情はあるが)。そもそも広島は国内FAに対しても、「去るものは追わず」という経営スタイルを貫いている。また、他球団からFAとなったスター級を獲得することもない。今後も続く球団経営において、方針の一貫性維持も大事な要素だろう。

果たして、今回のカープの判断はいかに。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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