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Go Toキャンペーン、見切り発車と言われる理由は?開始1週間前で情報が少なくすぎて利用者も困惑

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
7月6日夜の函館山からの函館夜景。北海道内から観光客が多く見られた(筆者撮影)

 7月22日(水)から開始される「Go to トラベルキャンペーン」。4連休前日から開始されることが明らかになったのが7月10日(金)だった。当初は8月スタートが想定されていた中で、急遽7月22日旅行開始分からスタートすることになり、既に予約済みの旅行・宿泊予約も対象となることも明らかにした。 最終的には半額が補助され、補助の上限は1泊あたり最大2万円(割引1万4000円+地域限定クーポン6000円)、日帰り旅行の場合は最大1万円(割引7000円+地域限定クーポン3000円)の補助が受けらるが、地域限定クーポンの配布は9月以降になることから、当面(少なくても8月中まで)は35%分の割引となる。

 事務局が、日本旅行業協会(JATA)を代表にJTBをはじめて大手旅行会社も名を連ねた「ツーリズム産業共同提案体」が運営することが決定したと共に、キャンペーンが22日にスタートが明らかになったが、見切り発車と言わざるを得ない点が次々と明らかになっている。

東京の感染者が増えている中で4連休前に前倒し

 東京都を中心に首都圏での新型コロナウイルス感染者が100人台・200人台が連日発表される中で、全国規模で4連休前日の22日(水)にスタートすることに疑問の声が多く上がっていることに加えて、昨日(7月14日)の段階で赤羽一嘉国土交通大臣が「Go Toトラベルキャンペーン」の対象となる宿泊施設に対して感染予防策を実施しなければ対象としないと言う方針が示された。具体策については17日(金)に発表されることとなっているが、一週間前の段階で概要が明らかになっていない状況下でスタートすることに対して無理があるのは、誰の目から見ても間違いないだろう。

6月19日の県をまたいだ移動自粛が解除されて以降、羽田空港にも人が戻りつつある(7月6日、筆者撮影)
6月19日の県をまたいだ移動自粛が解除されて以降、羽田空港にも人が戻りつつある(7月6日、筆者撮影)

旅行に行きたい旅行者からも不安の声が

 今回、割引を上手に活用したい旅行者からも手続きも含めて不安な声が上がっている。観光庁が発表した資料を読むと、7月26日までの予約で8月31日までの旅行については、一旦通常の旅行代金を全額支払った後、旅行後に事務局へ申請することで35%割引分(上限は1泊あたり1万4000円、日帰りは7000円)が銀行振込もしくはクレジットカード振込で戻されることになると発表している。申請の際には事務局に対して、申請書・領収書(原本)・宿泊証明書・個人情報同意書の提出が必要となる。ホテル側に取材しても、まだ詳細についての連絡はなく、22日以降、どう対応するべきなのか決められないとのことだ。

 開始1週間前の7月15日の時点で旅行者に対しても漠然とした情報しか出されておらず、このような状況でスタートすることになれば開始後すぐに混乱する可能性も否定できない。基本的には7月22日以降に出発する旅行であれば全て対象になるが。観光庁発表の資料で気になる表記がある。

参加事業者が確定していないのに登録要件を満たすことが条件

 今回の「Go Toトラベル事業でよくあるご質問」という内容が観光庁のホームページにも掲載されているが、「Go To トラベル事業の開始前に、7月22日(水)以降に開始する旅行を予約していたが、支援の対象となるのか」という質問に対し、「支援の対象となる。 ただし、その旅行商品がGo Toトラベル事業の支援対象であること、及びその旅行商品を販売する旅行業者(宿泊商品であれば宿泊事業者)が今後本事業の参加事業者登録を受けること、の要件を充たすことが必要。この場合には、旅行後に、旅行者が割引分の還付を事務局に申請することが必要。」と回答している。

 これは無責任な発言であり、開始1週間前の時点で「その旅行商品を販売する旅行業者(宿泊商品であれば宿泊事業者)が今後本事業の参加事業者登録を受けること、の要件を充たすことが必要」という回答は、参加事業者登録の要件を満たしていなければ、適用されると思って予約したものが適用されない可能性もあるということになる。参加事業者が確定していない中で開始するのであれば、少なくても現時点では旅行商品や宿泊は全て対象にしないとおかしいだろう。

 加えて7月14日の赤羽国土交通大臣の宿泊施設側に対して、準備期間1週間で新型コロナウイルス対策をすることを条件にすることを突如発表するなど、見切り発車は様々な場面で起こっている。受け入れ側でも不安が起きている。

早くキャンペーンをスタートさせたい気持ちはわかるが・・

 しかしながら、3月前半から既に4ヶ月半にわたって国内各地の宿泊施設や観光施設、国内線の飛行機や新幹線などの交通機関の利用者が激減している状況が続き、 経営も逼迫しているなかで少しでも観光客に来て欲しいという状況の中で、当初は東京オリンピックの開会式が予定されていたことで「海の日」をずらした4連休になったことで、この4連休に旅行してもらうことで消費に繋げ、観光地の経済を少しでも回したいという思惑がある。また旅行を手配する旅行会社や宿泊予約サイトも同様に売上を少しでも回復させたいという状況も後押ししている。

 「Go Toトラベルキャンペーン」の事務局に旅行会社も名前を連ねていることも、4連休に間に合わせることに対して後押しした可能性が考えられる。

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函館・五稜郭も外国人観光客が皆無で大型バスの駐車場には1台も駐車がなかった(7月6日、筆者撮影)
函館・五稜郭も外国人観光客が皆無で大型バスの駐車場には1台も駐車がなかった(7月6日、筆者撮影)

7月中は、同一県内。エリア内など近隣住民を対象とすべきだった

 ネット上も含めて「Go Toトラベルキャンペーン」のスタート時期を遅らせるべきだという声も多いが、観光業界が逼迫している中で早くスタートして欲しいという業界内の声も多い。今の状況であれば、7月22日にキャンペーンはスタートさせるが少なくても最初の2週間は同一県内もしくは隣接県を中心とした近隣エリアを対象にするのが適切だっただろう。

 「北海道」「東北」「北陸」「信越」「北関東」「南関東」「東海」「近畿」「中国」「四国」「九州」「沖縄」などのブロックに分けて、自分の住んでいるエリア内の旅行において「Go Toトラベルキャンペーン」をスタートさせる方法もあったはずだ。既に自治体レベルでは地元向けのトラベルキャンペーンを実施しており、予約開始と共に予算額に到達して募集終了というケースも多い。

北海道の「どうみん割」で道内のホテル稼働率が上昇

 例えば7月1日からスタートした北海道民が北海道内の宿泊施設に宿泊することで最大半額分(最大1万円分:2万円の宿泊で1万円が割引される)を道が補助する「どうみん割」。発売開始直後から予約が殺到した。筆者は7月6日に函館の「センチュリーマリーナ函館」に宿泊していたが、ホテルの方に話を聞くと「どうみん割」の効果は大きく、札幌をはじめ、道内各地から自家用車で遊びに来る人が増え、宿泊者全体の道民比率が8割近くになっている日もあるとのことだ。

 道内からの観光客であれば、地元住民からもコロナウイルス感染拡大の不安は上がらず、道内の人でも旅行で初めて函館に泊まるという人も多く、自分の住んでいる地域に宿泊する「マイクロツーリズム」の概念とも一致し、自分の住んでいる地域の魅力を再発見することができているようだ。「どうみん割」利用者のほとんどが、割引があったから北海道内を旅することにしたそうだ。ホテル側も7月に入ってから「どうみん割」のお陰で稼働率が上昇し、日によっては満室に近い予約が入り、まさに旅行者と宿泊施設がWIN-WINの関係となっている。

7月10日からは函館市のサポートにより、函館市内の宿泊施設を対象に宿泊客に2000円のグルメクーポン「函館市グルメクーポン」の配布を開始しており(居住場所を問わず全ての宿泊者が対象)、宿泊者からは好評である。

函館山を一望できる露天風呂が人気の「センチュリーマリーナ函館」(ホテル提供写真)
函館山を一望できる露天風呂が人気の「センチュリーマリーナ函館」(ホテル提供写真)
道内からの利用者が急増しているが「どうみん割」の効果が大きいとホテル側は話す。筆者は東京在住で「どうみん割」は適用できなかったが、通常は1万2000円以上が今回は直前予約で朝食付きで9000円程度で泊まることができた。(「センチュリーマリーナ函館」の客室。筆者撮影)
道内からの利用者が急増しているが「どうみん割」の効果が大きいとホテル側は話す。筆者は東京在住で「どうみん割」は適用できなかったが、通常は1万2000円以上が今回は直前予約で朝食付きで9000円程度で泊まることができた。(「センチュリーマリーナ函館」の客室。筆者撮影)
7月10日より函館市内のほとんどのホテルで宿泊時に市内で使える2000円のグルメクーポンの配布が始まった。函館市がサポートしており旅行者には嬉しい(筆者撮影)
7月10日より函館市内のほとんどのホテルで宿泊時に市内で使える2000円のグルメクーポンの配布が始まった。函館市がサポートしており旅行者には嬉しい(筆者撮影)

 また、沖縄県でも沖縄県民が県内での旅行で同様に県がサポートする「おきなわ彩発見キャンペーン」も、最大半額サポートすることで次々と予約が入り、すぐに予算枠を使い切ることができた。このように全国の各自治体で地元住民向けの補助キャンペーンが実施されている。

旅行者・受け入れ側の双方に不安がない形に

 このように自治体レベルでは、キャンペーンの成果が明らかに出ていることから、今回の「Go TOトラベルキャンペーン」も少なくとも7月中は地元限定で実施し、国が予算を出す形で実施することで、新型コロナウイルスの感染拡大防止に繋がり、かつ観光地にお金が落ちる流れを作ることができるだろう。東京に住んでいる人が、普段なかなか泊まることがない、都心や横浜などのホテルに泊まって気分転換するのもありだ。

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日本一の人気朝食ビュッフェ戦争と言われる函館。安全を考慮して料理を取る際にはマスクだけでなくビニール手袋を着用する方式が取られている(7月6日、センチュリーマリーナ函館にて筆者撮影)
日本一の人気朝食ビュッフェ戦争と言われる函館。安全を考慮して料理を取る際にはマスクだけでなくビニール手袋を着用する方式が取られている(7月6日、センチュリーマリーナ函館にて筆者撮影)

 ただ7月22日スタートを決定し、割引を目当てに沖縄や北海道、京都などへの旅行を予約している旅行者も増えていることから、再度「緊急事態宣言」が発令されない限りは、ルール変更も難しい状況であることも事実であり、今さら後戻りも出来ない。やはり最初の判断が大事だったと考える。

 旅行者が全額支払いをする旅行であれば、県をまたいだ自粛要請が出ていない限り、旅行者自身が判断して国内旅行に出かけるかどうか判断すればいいが、国が支援する「Go Toトラベルキャンペーン」は、「国がサポートするので、国内旅行に出かけて観光地の復興支援をしてくださいという」支援策であり、税金も投入されることから、安全が確保されない現段階での全国展開は時期尚早であり、感染者数の推移を見ながら、特に受け入れ先の観光地側の不安がない形で実施して欲しい。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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