「子無し猫好き女」発言で、バンス副大統領候補はテイラー・スウィフトを敵に回したか
1週間でここまで変わるとは。
先週の今頃、トランプのキャンペーンは勢いに乗っていた。暗殺されそうになりつつ生き延びたトランプを、一部の支持者は「選ばれし者」と神格化。副大統領候補に39歳のJ・D・バンスが選ばれると、彼の回顧録を映画化した2020年の「ヒルビリー・エレジー 〜郷愁の哀歌〜」が、北米でNetflixのアクセスランキングの上位に躍り出た。そんな敵を見ながら、民主党は、バイデンが出馬の意志を曲げないのをどうしたものかと悶々とするだけ。
だが、アメリカ時間先週日曜日にバイデンが突然大統領選から撤退を発表し、カマラ・ハリス副大統領を次の候補者に挙げると、ムードは一転。民主党は団結、ハリウッドセレブの多くが支持を表明し、多額の寄付が押し寄せて、一気に活気づいた。
これまでトランプ陣営は、バイデンの年齢や弱々しさを突いてきたが、地方検事を務めた59歳のタフなハリスにその手は使えない。キャンペーンのアプローチを完全に変える必要がある。
そんなところへ、今度は、バンスの過去のインタビュー映像がネットに浮上し、大炎上した。
オハイオ州から上院議員に立候補していた2021年7月、バンスは、保守派のジャーナリスト、タッカー・カーソンの番組に出演。その中で彼は、「この国は、民主党の、子無しの猫好き女性たちによって仕切られています。彼女らは自らの選択のせいで惨めに感じているので、この国のほかの人たちも惨めにしたいのです。それは事実。カマラ・ハリス、ピート・ブティジェッジ、AOC(アレクサンドリア・オカシオ=コルテス)を見てください。民主党の未来は完全に子供のいない人たちによって仕切られています。直接影響を受けない人たちに国を任せるなんて、意味をなしませんよね?」と言ったのである。
これに対して即反応したのは、ジェニファー・アニストン。4,500万人のフォロワーを持つ彼女は、インスタグラムのストーリーに「アメリカの副大統領になるかもしれない人がこんなことを言ったなんて、信じられない」と投稿。続いて、「バンスさん、あなたの娘さんが、将来いつか自分の子供を生める、幸運な人であることを願います。体外授精という手段に頼らなくていいことを。あなたはそれすら彼女から取り上げようとしているのですからね」とも書いた(バンスは、今年6月、不妊治療へのアクセスを守ろうとする法に反対する票を入れた共和党上院議員のひとり)。
30年前に「フレンズ」で大ブレイクして以来、アメリカのスウィートハートとして愛されてきた彼女は、ブラッド・ピット、ジャスティン・セローと離婚歴があるものの、子供はいない。世間は長いこと、彼女は子供よりキャリアを優先しているのだろうととらえてきたが、最近になって、実は子供を望んでおり、不妊治療もしたのだが成功しなかったのだと告白している。
アニストンによるこの投稿は多くのメディアに取り上げられ、注目された。しかし、これは単なる始まりにすぎないかもしれない。バンスは、世界で最大の「子無し猫好き女」を怒らせたかもしれないのだ。テイラー・スウィフトである。
トランプも恐れる影響力を持つテイラー・スウィフト
シンガーソングライター、女優、これから映画監督にも挑戦する予定のスウィフトは、今、最もパワフルな人物。映画スタジオを通さず自前で製作、直接劇場チェーンと交渉して公開したコンサート映画「テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR」は、北米だけで1億8,000万ドルを売り上げ、Disney+が7,500万ドルで全世界配信権を買った。インスタグラムの投稿ひとつで3万5,000人に投票者登録をさせたほどの影響力を持つ彼女のことは、トランプも恐れており、今年はじめ、彼はソーシャルメディアを通じて「バイデンを支持しないで」と訴えかけている。
現在NFL選手トラヴィス・ケルシーとの交際で世の中を騒がせている34歳のスウィフトには、結婚歴がなく、子供もいない。猫好きでも有名で、インスタグラムにたびたび愛猫の写真を投稿している。「Time」誌から「今年の人」に選ばれた時も、写真撮影に「猫を連れていきたい」と自らリクエストしたそうだ。
スウィフト自身はまだバンスの発言について何もコメントしていないが、ソーシャルメディアには「テイラー・スウィフトも子供がいなくて猫好きだと気づきました?J・D・バンス、やらかしましたね。彼にアルマゲドンがやってくるでしょう」いう書き込みが見られる。それに対して、別の人は「私たちスウィフティは多勢なんだからね」と返信している。
2020年の大統領選でバイデンを支持したスウィフトは、今回の選挙において、まだどちらへの支持も表明していない。しかし、それも時間の問題かもしれない。トランプの悪夢が現実になる時は、そこまで来たのではないか。
一方、アニストンは、2018年、当時上院議員だったハリスが最高裁陪席判事の候補に上がっていたブレット・カヴァノーに中絶の権利について厳しい質問を投げかけ、おろおろさせた時の動画をリポストし、ハリスを支持していることを示唆した(その動画はハリウッド女優仲間アリソン・ジャネイによってシェアされた)。アニストンは55歳ながら、リアルタイムの時には生まれていなかった、あるいは小さすぎた世代が、最近配信で「フレンズ」を見るようになったおかげで、若い世代にも人気を広げている。
ちなみにアニストンは犬派。もちろんそこは関係ない。子無し猫好き(あるいは犬好き)女を見くびったことの代償は、どれほどのものになるだろうか。