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ストライキ中のハリウッド俳優らがメッセージを発信。「私たちの多くは金持ちではないとわかって」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ツイッターを通じて俳優と脚本家のストへの理解を求めるレスリー・ジョーンズ(写真:REX/アフロ)

 現地時間14日に始まった全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキは、業界を大きな不安に陥れている。5月2日から脚本家がストをしているところへ俳優も加わったことで、映画やテレビの製作、製作準備、交渉、宣伝活動はすべてストップした。

 このことによる経済的ダメージは、業界に限らず、周辺ビジネスにも及ぶ。ハリウッドから遠く離れたところに住んでいる一般のファンも、好きなドラマの続きや、楽しみにしている映画を見られる日が遠のくという形で影響を受ける。そのことをよく思わないかもしれない人たちに対し、一部の俳優は、ソーシャルメディアを通じてメッセージを発信し始めた。

 そのひとりは、「Saturday Night Live」のレギュラーとしてブレイクし、ポール・フェイグ監督の「ゴーストバスターズ」にも出演したコメディエンヌのレスリー・ジョーンズ。ツイッターに投稿した動画の冒頭で、ジョーンズは、「できるだけ礼儀正しい形で言おうと思って、何回か(録画を)始めてはストップしたのだけれど、まだわからないので言いたいことを言うことにするわ」と宣言。俳優のストライキについて理解をしていない人が多く、「金持ちがもっと金を取ろうとしている」というようなコメントを見ることにげんなりしていると、はっきり述べた。

「この業界のみんなが金持ちだというわけではないのよ。俳優が全員幸運だというわけじゃないの。私はいくらかお金を稼げるようになった幸運なひとりだけど、みんながそうじゃない。脚本家も、クルーも、エキストラも、みんなが幸運ではない。私だって47歳でやっとブレイクしたのよ。この業界ではお金を稼げるようになるまでに時間がかかるの。ほかの職業と同じように」と、ジョーンズ。脚本家やクルーやエキストラの仕事をこなす俳優などは、家賃を払うのにも苦労しているという現状について触れ、「私たちは正しい対価を支払って欲しいと言っているだけなの」と主張した。その一方で、「ビリオネア、企業は、私たちの仕事のおかげで大金を稼いでいる」と非難。さらに、「1回だけギャラをもらって顔をスキャンされ、それを一生使われるなんて、誰だって嫌よ」と、スタジオや配信会社がAIを使ってエキストラにかかる費用を削減しようとしていることに抗議をした。

 脚本家で女優のアシュレイ・ニコル・ブラックは、「SAG-AFTRAの組合員数は16万人。16万人も有名な人を思いつく?無理よね。私たち全員が有名で金持ちではないからよ」とツイート。それは考えてみればわかるはずだと、彼女は説明する。

「(映画の中で)トム・ハンクスがバーに入っていくとする。するとバーテンダーが(ハンクスに)お飲み物は何になされますかと聞く。その人は、俳優。バーにいるほかの人たちも、俳優。バーで喧嘩が起こったら、スタントマンが彼(ハンクス)の代わりをする」。「この人たちは誰も裕福にはならない。それでも、かつては家を買ったり、健康保険に入ったりすることができた。今、企業は以前より安いお金しか払わないから、それができなくなった」と、ブラック(SAG-AFTRAには健康保険があるのだが、年間の稼ぎが2万6,000ドル以上あることが条件で、現在87%の組合員がこの資格を満たせず、保険に加入できていない)。そんな彼女は、「聞き覚えのある話でしょう?今、どの業界でも同じことが起きているの。俳優はみんなリッチなのにもっと多くを求めていると言って労働者同士を衝突させようとする罠にはまらないで」と、人々に理解を求めた。

 ほかにも多くの有名俳優がソーシャルメディアでストライキへの支持を表明している。オスカー女優ジェシカ・チャステインは、「AMPTP(全米映画テレビ製作者協会。俳優と脚本家が契約交渉している相手)は、テレビ、映画、配信の仕事に対してフェアな契約をするのを拒否した。私たちは戦うことを恐れない。私たちは引かない」、「セックス・アンド・ザ・シティ」のミランダ役で知られるシンシア・ニクソンは、「SAG-AFTRAのストライキが始まった。WGA West、WGA East (脚本家組合)と一緒に立ち上がることを誇りに思う。スタジオはずっと長いこと私たちの仕事のおかげで記録的な収益を得てきた。私たちはフェアな配分を求める。私たちは勝つ!」とツイート。

 今回のストライキの争点のひとつに、配信作品もヒットに応じたレジデュアル(再使用料)が払われるべきだということがある。そのことを踏まえ、「トップガン マーヴェリック」でハングマンを演じたグレン・パウエルは、「俳優として生計を立てようと努力する間、何年も僕はレジデュアルで生き延びてきました。この業界が変わり続ける中で、俳優の生活は守られていくべきです」とツイートした。

 ほかに、キム・キャトラル、ジョン・キューザック、オクタヴィア・スペンサー、マーク・ラファロ、マーク・ハミルなどが、ストライキを支持するコメントを投稿している。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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