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『朝ドラ名場面』に選ばれた作品と落ちた作品 『カムカムエヴリバディ』は選ばれ『らんまん』は落選

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:アフロ)

『朝ドラ名場面スペシャル』で紹介されたのは31作品だけ

朝ドラが新しくなるタイミングで、NHKが『朝ドラ名場面スペシャル』を放送した。(地上波で3月29日金曜夜放送)

番組タイトルは『夜だけど朝ドラ名場面スペシャル〜ウル!キュン!ロス!一気に見せます!!!』。

朝ドラ全作を一挙に見られるのかとおもったが、そうでもなかった。

考えてみれば、次作『虎に翼』が110作目なのだから、全部見られるわけがない。

けっきょく、70分番組で紹介された過去の朝ドラは31本であった。まあ、ちょうど良いくらいだろう。

全朝ドラ110本中の31本である。『虎に翼』の番組宣伝でもあったから、当然、この新作も紹介されている。

何が取り上げられて、何が無視されていたのか。

平成の朝ドラの代表作は『あまちゃん』

冒頭は、この特番放送日に最終話を迎えた『ブギウギ』のシーンから始まった。

でも『ブギウギ』の内容は紹介されていない。福来スズ子のステージシーンが流れただけだ。

そのあと放送されたのは『あまちゃん』であった。

どうやらNHKにとって『あまちゃん』が推しの第一番らしい。

私の個人的な感想と、この世評とはかなり差異があるのだが、平成の朝ドラといえば『あまちゃん』ということになるらしい。

昭和の怪物番組『おしん」

つぎに紹介されたのが『おしん』だった。

まあ、1年通して放送された全話の平均視聴率が62%だったという怪物番組である。

日本人がみんなで同じ作品を見ていた最後の番組だとも言える。

平均62%というと、この時間にテレビを点けられるすべての所帯が「おしん」を見ていたということだろう。

この2作が昭和と平成の朝ドラの代表作のようだ。

朝ドラの本格的始まりは1966年『おはなはん』から

では、何が飛ばされたのか。

まず最初の5作は紹介されていない。

『娘と私』『あしたの風』『あかつき』『うず潮』『たまゆら』は紹介されていない。

そもそもこの時期の朝ドラは日本人の記憶にもあまり残ってないとおもわれる。朝ドラが広く認知されたのは6作目、樫山文枝の『おはなはん』(1966)からだからだ。

だから最初の5作が紹介されないのはしかたない。(そもそも映像がほとんど残っていないらしい)

紹介された『おはなはん』では、いま見ても樫山文枝は魅力的である。

そのあと1960年代の『旅路』『あしたこそ』『信子とおばあちゃん』は紹介されていない。

『旅路』や『信子とおばあちゃん』はとても印象的なドラマだったんだけどね。

1970年代で選ばれたのは3作品だけ

1970年代で紹介されているのは『北の家族』、『水色の時』、『雲のじゅうたん』の3作。

のこりは飛ばされている。

『虹』『繭子ひとり』『藍より青く』『鳩子の海』『おはようさん』『火の国に』『いちばん星』『風見鶏』『おていちゃん』『わたしは海』『マー姉ちゃん』『鮎のうた』である。

『チョッちゃん』は選ばれ『澪つくし』や『純ちゃんの応援歌』は落ちた

1980年代は最後の年に平成に突入するわけだけれど、このあいだで紹介されたのは『おしん』『はね駒』『チョッちゃん』の3作。

落ちてるのは『なっちゃんの写真館』『虹を織る』『まんさくの花』『本日も晴天なり』『ハイカラさん』『よーいドン』『ロマンス』『心はいつもラムネ色』『澪つくし』『いちばん太鼓』『都の風』『はっさい先生』『ノンちゃんの夢』『純ちゃんの応援歌』『青春家族』『和っこの金メダル』である。

情報が多すぎておいつかない。金メダルって、どこが、とおもったのは覚えている。

1986年の『都の風』からうちでは録画したテープが残っている。『都の風』だけベータで、その後はずっとVHSである。1986年当時はまだベータ、VHSどっちだろうという時代でもあったのだ。

1990年代の1年もの『君の名は』と『春よ、来い』は選ばれていない

1990年は経済成長の最後の時代、後半から4作。

『ふたりっ子』『あぐり』『天うらら』『すずらん』。

選ばれているほうにはだいたい文句はないのだが、落とされているほうに何故入れられなかったとおもわれる作品が並ぶ。

落とされたのは『凜凜と』『京、ふたり』『君の名は』『おんなは度胸』『ひらり』『ええにょぼ』『かりん』『ぴあの』『春よ、来い』『走らんか!』『ひまわり』『甘辛しゃん』『やんちゃくれ』『あすか』。

このうち『君の名は』と『春よ、来い』は1年の長尺もので、NHKはおしんの夢再び、と熱を込めて制作したのだろうが、とてもおしん並とはいかなかった。

『おしん』は1983年というタイミングだからこそ起こせた奇跡だったのだろう。

もっとも人気なかった2000年代は『オードリー』や『ちゅらさん』など

2000年代で紹介されたのは7作。

『オードリー』『ちゅらさん』『さくら』『まんてん』『ちりとてちん』『瞳』である。

朝ドラ史上、このあたりがもっとも視聴率が低かった時期でもあった。20%を切ったのが5作もあり、苦しかった時代だ。

落とされたのは『私の青空』『ほんまもん』『こころ』『てるてる家族』『天花』『わかば』『ファイト』『風のハルカ』『純情きらり』『芋たこなんきん』『どんど晴れ』『だんだん』『つばさ』。

2010年代になって放送時間が早まった

2010年代に入り、オーディションで無名の新人女優を抜擢して主演に据えるということがほぼなくなった。朝ドラは人気を盛り返してくる。

放送時間が15分早まり、8時開始になった。

最近のドラマということもあって、紹介されたのは11作。

『ゲゲゲの女房』『カーネーション』『梅ちゃん先生』『純と愛』『あまちゃん』『あさが来た』『とと姉ちゃん』『べっぴんさん』『ひよっこ』『半分、青い』『なつぞら』。

気の毒にも落とされたのは『てっぱん』『おひさま』『ごちそうさん』『花子とアン』『マッサン』『まれ』『わろてんか』『まんぷく』。

『ごちそうさん』や『花子とアン』などはなかなか名作だったとおもうのだが、まあ、杏と東出昌大が並んで笑っているのを、今見るのはなかなか厳しいものがあるから、だろう

2020年代で選ばれたのは1作だけ

2020年代に入って、これはこれで近すぎるからか、2021年の『カムカムエヴリバディ』しか紹介されなかった。

『エール』『おちょやん』『おかえりモネ』『ちむどんどん』『舞いあがれ!』『らんまん』『ブギウギ』は紹介されていない。

『エール』や『らんまん』はいいドラマでしたけどね、男性主演が増えている時期でもある。

現代が舞台だと朝ドラは弱い

やはり現代が舞台だとどうしても弱くなるな、というのは並べてみればつくづくわかる。

現代劇は、印象に残らない作品が増える。

連続テレビ小説は、近代の歴史ものが多くなっている。

半年で120話ほどの長丁場ドラマは、何かしら掴める支柱があったほうが、見ているほうも耐えられる、というところだろう。

近代の日本には、わかりやすい苦難の時期(昭和のまるまる前半)があって、そこがあると、見ているのはつらいのだが、だから見続けようという気持ちにさせられるのもたしかである。

歴史モノの側面を持ち始めて、朝ドラも少し大河ドラマと近くなっているようである。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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