プラチナ鉱山スト、南アの経済成長にも急ブレーキ
南アフリカの1~3月期国内総生産(GDP)は前期比年率-0.6%となり、2009年3~6月期以来で初のマイナス成長を記録した。昨年10~12月期は+3.8%と8四半期ぶりの高い成長率を記録していたが、突然にリーマン・ショックに伴うリセッション(景気後退)からの回復傾向が途絶えた形になる。
その要因は項目別の生産状況をみれば明らかであり、「鉱業・採石業」部門の生産が24.7%もの急激な落ち込みを記録したことに尽きる。これは少なくとも2003年以降では最大の落ち込み幅であり、プラチナ鉱山業界のストライキが、いよいよプラチナ産業のみならず南アフリカのマクロ経済にも深刻な影響を及ぼし始めていることを示している。
■プラチナ鉱山業界のストの影響
1月23日に始まったプラチナ鉱山における賃上げ要求のストライキであるが、開始から既に4ヶ月が経過しているものの、未だ解決に向けての見通しが描けない状況が続いている。1~3月期の段階では、各鉱山会社が手元在庫の売却で減産分をカバーしたことでプラチナ需給に対する直接的な影響は限定された。しかし、4月には鉱山会社の新たな賃上げ提案が組合側に拒否され、5月には大手ロンミンが国外向け供給に関して不可抗力による契約不履行を宣言するなど、4~6月期は更に深刻な影響が警戒される状況にある。
月別のプラチナ族貴金属(PGM)の生産統計によると、1月は前年同月比+4.0%となったが、2月-35.8%、3月-44.3%と一気に大幅な落ち込みになっていることが確認できる。ニッケル、銅、鉄鉱石などの生産は総じて良好だったが、プラチナ生産の落ち込み幅を穴埋めできるようなレベルにはなく、鉱業部門の停滞は南アフリカ経済にとって大きな重石になっている。
貴金属調査会社ロイター・GFMSは5月初めの段階で60万オンスのプラチナ生産が喪失され、仮に直ちに労使合意が成立しても操業再開まで更に30万オンスの生産が喪失されるとの慎重な見方を示している。同社は、品薄状態が解消されるには、スト終結から数ヶ月が必要と試算しており、プラチナ業界の混乱が南アフリカ経済に及ぼす影響も短期的なものと見ない方が良いだろう。
鉱業部門以外では、「製造業」部門も4.4%の落ち込みになっており、鉱業部門の落ち込みをカバーすることに失敗している。南アフリカの政治的混乱状況や、米金融緩和の縮小局面入りを受けて、海外からの直接投資が大幅に落ち込む一方、自動車やテレビなどの生産も不調であり、全体的に低い成長に留まっている。
■政治的介入の必要性が高まるが
こうしてプラチナ鉱山ストライキが単純な一業界の労使問題に留まらない状況となる中、5月7日の総選挙で勝利を得て2期目に突入したズマ政権の対応が注目されることになる。プラチナ鉱山業界の自助努力による労使問題解決が難しいことは明らかであり、政治的な介入の有無が注目される時期に差し掛かっている。
実際に、新内閣で鉱物資源相に就任したNgoako Ramatlhodi氏は、スト終結に向けて早ければ本日中(5月28日)にも鉱山会社、労働組合との協議を行う考えを示している。ただ、この新大臣は強硬なナショナリストとの評価が一般的であり、早くも労働組合を一方的に支持するような発言を繰り返している。
政府が労組側に傾斜した強引な調停策でストに巻く引きを図ると、労使リスクに加えて政治リスクも高まった南アフリカから鉱山業界の「撤退」といった最悪のシナリオも浮上することになる。
ズマ政権の前には、インフレに伴う賃上げ要求圧力の高まり、高い失業率、所得格差、治安悪化、政治腐敗などの様々な問題が山積しているが、スト終結に向けて指導力を発揮することは必ずしも歓迎すべき動きではないのかもしれない。