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新型コロナの記者会見は布マスクにしませんか?

鶴野充茂コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授
記者会見で手作りの布マスクをする小池都知事(写真:ロイター/アフロ)

 連日、新型コロナウイルスに関する記者会見が開かれ、国・地方自治体・医療関係者などが最新の状況を伝えている。そんな会見で、政府の緊急事態宣言(4/7)前後から、「マスク姿」がにわかに増えた。

 記者会見という象徴性のあるメッセージ発信の場、そして繰り返し行われる刷り込み効果を考慮して、このタイミングで、会見者には「布マスクで」臨んでもらうことを提案したい。

 理由は2つある。

 1つは、マスクのイメージを変えること。

 もう1つは、マスクをめぐるトラブルの抑制だ。

マスクのイメージを変える

 米ロサンゼルス市では最近、スーパー・薬局・銀行などに入店の際、客・従業員ともにマスクやスカーフなどで口や鼻を覆うことを義務化した

 飛沫感染を少しでも抑えようという取り組みで、「マスクに限らず何かで口や鼻を覆う」ということがポイントだ。日本でもこの先、程度の差こそあれ、こうした方向に進んでいくことも考えられるが、日本でマスクと言うと、白い不織布の使い捨てマスクのイメージが強い。

 記者会見を見ていても、ほとんどの人は「不織布の白いアレ」で出ている。これが影響してニュースを見るたびに視聴者は無意識のうちに「不織布の白いアレでなければならない」と刷り込まれている危険性がある。その固定化されたイメージを変えていくタイミングではないかと考える。

 記者会見を見てみると、東京都の小池知事が7日から布マスクをするようになった。会見で問われた知事は、近所の人が届けてくれた手作りマスクだと語っていた

 布マスクで現在のところ注目は、沖縄県の玉城デニー知事で、様々な色柄の布マスクを利用して記者会見に出ている。報道によると、マスクは妻の手作りで10種類ほどをかりゆしウエアの柄に合わせて着用しているという

 こうした布マスク姿を見ていると、オシャレなマスクや気分が変わりそうなマスクなど、マスクを自分で工夫することができるという具体的なイメージが得られる。画一的なイメージのマスク自体を付ける抵抗感を下げる効果もありそうだ。

 こうした例を積極的に全国の記者会見で取り入れられないかと思う。

記者会見の印象は強い

 記者会見は、単なる最新情報を伝える場ではない。視覚的に与える情報や印象の力も大きいのだ。

 たとえば北海道の鈴木知事の記者会見で背後に置かれたボードには「ウポポイ」という文字が書かれている。2月末の外出自粛要請、北海道独自の緊急事態宣言の頃には、全国ニュースでも鈴木知事の記者会見が繰り返し流れたこともあり、「ウポポイって何だ?」と話題になった。中には「ウポポイが気になって話が頭に入ってこない」という声もあった。

 ウポポイとは、北海道白老町で開業が予定されているアイヌ文化施設「民族共生象徴空間(ウポポイ)」のことで、昨年8月以降、道内や東京・大阪・名古屋でイベントを開催するなどPR活動を続けていたが、認知度アップが大きな課題だった。それが知事の会見でニュース映像にウポポイという文字が繰り返し映されるようになり、2月に入って認知度が少しずつ上がってきた後に、全国ニュースでも繰り返し北海道知事の会見が取り上げられることでネットでも話題が広がった

 

 会見者が意識的に布マスクで出れば、色柄も含めて「さまざまなマスク姿」を目にするようになる。視聴者はそれを見て身近な布マスクや手作りでもOKであると認識する。

 近く各世帯に「布マスクが2つ」送られてくる。送られてきても、使ってもらえなければ、全く意味がない。

 配布される布マスクの施策については議論があるが、送られてきたものは無駄にせずに活用してもらいたいところだろう。

店頭に置かれたマスク完売のサイン
店頭に置かれたマスク完売のサイン

マスクをめぐるトラブルの抑制

 会見者に布マスクで臨んでもらいたいもう1つの理由は、マスクをめぐるトラブルの抑制効果を狙ってのことだ。

 高性能な不織布マスクの方が感染防止の防御力は高い。ところが全国的に今も入手困難な状態が続いている。「買おうにもなかなか買えない」のだ。

 そのため、購入をめぐるトラブルや、クレーム対応販売方法の試行錯誤など、マスクを取り扱う店舗の負担が少なくない。

 これは多くの人がイメージするマスク「不織布のマスク」をなんとか手に入れたい、でも手に入らないということで起きているトラブルだ。

 また「マスクは白という常識」が根強く残っているところもあるようで、札幌市の教育委員会では「黒色のマスクをしていたら『校則で決まっている』と注意された」ことなどが報告され、同教育委としては色や柄に関係なく着用を優先すべきだとの考えを示したことが報じられている

 社会全体の意識の高まりで、街なかのマスク比率は飛躍的に上がっている一方で、マスクをしていないことで通りすがりの人に暴言をはかれたり、イヤな顔をされたり、トラブルに発展するケースも身近に見聞きするようになってきた。強い意思を持ってマスクをしない人もいるかもしれないが、手持ちがなくてマスクができない人もいる。

 長期戦と言われる中、使い捨てで繰り返し入手する必要がある不織布マスクは、その必要性の高い医療従事者や、不特定多数の客を相手にして感染の危険性が相対的に高い店舗スタッフなどに優先的に使ってもらう方が良いのではないか?

不織布マスクではなく「口や鼻を覆うこと」自体の啓発へ

 ただマスクの効果自体は実際のところなかなか白黒はっきりしないような中で、とりわけ布マスクの防御力は弱いなどという記事も出ており、こうした情報が余計に不織布のマスクへと意識を向けさせている。 

 しかし布マスクも、マスクをしていることで少なくとも手で口と鼻を触らなくなり、その効果は大きいということ、また心理的な安心材料、そして自分は気を付けているサインとしての存在もあり、その役割は決して小さくない。

 それでいて、自作マスク自体や型紙、作り方をシェアしている人も増えてきていたり、ハンカチに付けるだけでマスクになるバンドなども販売されていてすでに身近である。

 何もないよりあった方がよく、「手に入らないから、つけられない」を減らすことで避けられるトラブルも少なくない。

 トラブルは意識のギャップで起きるものだ。感染自体よりも、感染防止に対する意識の違いで起きることが多く、マスクを付ける付けないは、今やその象徴的な存在の1つになってきている。

 感染の全国的な広がりと警戒感の高まりがあまりに急速で、政府の緊急事態宣言で7都府県が対象に選ばれた後、わずか数日で自ら緊急事態宣言へと向かう県がいくつも出てきている

 こうした流れを受けて、昨日まで「よそ事」だった地域でも、強い警戒感を持つ人とそうでない人の差が大きく表れるようになり、同じようなトラブルが遅かれ早かれ全国で見られるようになる可能性が高い。

 そんな状況の中で、多くの人が思い描くマスクのイメージを「不織布の白いアレ」でなくてもいいと見せることが重要ではないかと考える。

 記者会見では、マスクをするのならば、その時だけでも、会見者は布マスクにしてはどうだろうか?

コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授

シリーズ60万部超のベストセラー「頭のいい説明すぐできるコツ」(三笠書房)などの著者。ビーンスター株式会社 代表取締役。社会構想大学院大学 客員教授。日本広報学会 常任理事。中小企業から国会まで幅広い組織を顧客に持ち、トップや経営者のコミュニケーションアドバイザー/トレーナーとして活動する他、全国規模のPRキャンペーンなどを手掛ける。月刊「広報会議」で「ウェブリスク24時」などを連載。筑波大学(心理学)、米コロンビア大学院(国際広報)卒業。公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会元理事。防災士。

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