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どうしてアストロズは両リーグでワールドシリーズに出場することになったのか?

豊浦彰太郎Baseball Writer
ア・リーグ優勝トロフィーを掲げるジム・クレーン・オーナー(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

現地時間の27日には、ワールドシリーズ第3戦が開催される。ヒューストンでは12年ぶりで、前回はナ・リーグ優勝チームのホームとしての開催だった。それは、2013年にアスロズはナ・リーグ中地区からア・リーグ西地区に異動したからなのだが、どうしてそんな事態になったのか?

今年のワールドシリーズは間違いなく面白い。LAでの第1戦はクレイトン・カーショウとダラス・カイケルの両サイヤング賞投手の投げ合いだったこともあり、ポストシーズンとしては異例の2時間28分という短さで、第2戦はご存知の通り延長11回のこの上ないスリリングな展開だった。

そして、第3戦をヒューストンで迎える。2005年のシリーズでは、アストロズはア・リーグ制覇のホワイトソックスに4連敗を喫している。ヒューストンでは第3戦、第4戦が行われたがいずれも敗戦だった訳だ。

アストロズが異動する前年の2012年時点では、ア・リーグが14球団でナ・リーグが16球団だった。1998年に球団拡張(エクスパンションという)でアにデビルレイズ(現レイズ)、ナにダイヤモンドバックスが誕生した際に、そのままだと両リーグ15球団と奇数になり、日程編成の効率が悪くなるため、ブルワーズをアからナに引っ越しさせたのだ。なぜブルワーズになったかというのには多くの理由が挙げられるが、決定的だったのが当時のコミッショナーのバド・シーリグが元ブルワーズのオーナーだったことだ。一番影響力を及ぼしやすいのが同球団だった、と考えるべきだろう。

そして、2013年である。MLBは、当初は自ら選んだ両リーグで異なる球団数という運営形式を変更せざるを得なくなった。当たり前だが、ワールドシリーズに至るまでの競争率がリーグ間で異なるし、ナ・リーグ中地区は6球団でア・リーグ西地区が4球団では公平とは言えない。また、リーグや地区で異なる球団数は遠征距離の負荷にも格差が生じることになり、選手組合からの「均等にせよ」のプレッシャーを無視できなくなったのだ。

そこで、機構としても各リーグが奇数になる事態は毎日インターリーグを開催することで乗り切るとして、両リーグ15球団に移行することにしたのだ。それには、「出っ張っている」ナの中地区から、「凹んでいる」アの西に1球団移すのが手っ取り早い。しかし、ここで大きな問題に直面する。当たり前だが、どこも自らが全体の犠牲にはなりたくないのだ。そもそも両リーグ間にはDH制の有無という大きな違いがある。アへ移転するとなると編成も変更する必要が生じ、既存のア・リーグ球団に対し大きな不利となる。

しかし、在位期間中にMLBのビジネス規模を大きく拡大させたシーリグはクレバーだった。球団身売り問題の渦中にあったアストロズにターゲットを絞ったのだ。球団買収を名乗り出ていたジム・クレーン氏(現オーナー)はある意味ではいわくつきの人物で、彼へのアストロズ売却を快く思わない他球団のオーナーが多かったのだ(球団売却にはオーナー会議での75%以上の賛成が必要だ)。「いわくつき」というのは、クレーンは物流ビジネスで財を築いたのだが、イラク戦争で相当儲ており一般へのイメージが必ずしも良くないこと、また、かつても球団買収を表明しながらドタキャンした「前科」があることなどだ。

そこにシーリグはつけこんだ(言い過ぎか?)。他のオーナー達には「クレーンにババを引かせる」と触れこみ、クレーンには「異動を呑むなら、他のオーナーに買収を賛成するよう根回する」としたのだ。かくして、選手会も、クレーンも、他のオーナーもWin-Win-Winの両リーグ均等化とアストロズ身売り問題解決が成立したのだ。

おそらく、27日の第3戦にはクレイグ・ビジオやジェフ・バグウェルらのアストロズのナ・リーグ時代のスターたちが勢ぞろいし、この一大イベントを一層盛り上げてくれるだろう。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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