夏のセーヌ川に舞う帆:フランス・ルーアン「アルマダ」紀行
10日間で、実に6百万人の動員があるというフランスの夏のイベント「アルマダ」をご紹介します。
パリから北西におよそ139キロ、ノルマンディー地方の中心都市ルーアンでは、4年から6年おきに「アルマダ」が開催されます。ルーアンのセーヌ河岸に世界各国の大型帆船が集結するというもので、今年は6月8日から18日にかけて行われました。
そもそも、「アルマダ」はフランス革命から200年を記念した1989年に始まったもので、今年は8回目の開催。11カ国から44隻の船、2000人の船員が集まり、それを一目見ようと、とにかく大勢の人がセーヌ岸を訪れました。冒頭の6百万人という数字は前回の開催、2019年の時のものですが、今年は連日晴天に恵まれたので、前回の数字を上回っている可能性大です。
それほどの大イベントなのですが、予約をしたり、入場料を払ったりする必要は一切ありません。帆船が停泊する岸辺はほぼ開放されているので、船を岸から、また橋の上から自由に眺められるだけでなく、根気よく待てば、船に実際に乗ってみる体験もできます。
さらにこの会期中には、連日のコンサートや花火の打ち上げを始め、さまざまなイベントがあり、街は祭りムード一色に染まります。
ところで、(セーヌって、あのパリを流れるセーヌ? その川に大型帆船が上って来られるの?)と、疑問に思われる方もいらっしゃることでしょう。その問いはもっともなことです。パリを潤したセーヌは、そこから北西139キロメートルのルーアンを通り、さらに同じくらいの距離を西に流れて大西洋に注ぎます。つまり、ルーアンはまだまだ内陸の街なのです。
けれども、ルーアンのある県、セーヌ・マリティム(海側のセーヌ)という県名が物語っている通り、このあたりのセーヌ川は海の領域でもあります。遠い昔、北方のヴァイキングは、海からセーヌを遡ってルーアンを、そしてパリをも征服しようとしたほどですし、ルーアンのセーヌ沿いの港は今でも物流の要であり、海洋大型船もこのルーアンまでは川を上って来られるのです。
さて、筆者は、17日土曜日に「アルマダ」を訪ねました。パリのサンラザール駅から普通列車に乗り、1時間半ほどでルーアン駅に到着します。そこから河岸までは歩いてでも行かれる距離ですが、市バスが便利です。
その日は公共交通機関が全て無料だったと言うこともあって、切符を買ったりする手間もなく、駅の構内にある大きな案内板に従って行けば、バス停もすぐにわかりました。何より、たくさんの人が川のように移動しているので、それについていけば苦もなく「アルマダ」の会場に到着できるというわけです。
バスを降りて少し歩くと、ギヨーム・ル・コンケラン橋が見えてきます。その橋のたもとには、見上げるほどの高さのマストを持った帆船があり、その背後にもずらりと見事な船が並んでいるのが見えます。
岸をそぞろ歩きながら、停泊した帆船を眺めるコースは数キロメートルにもおよびます。世界中から集まった船の中には100年以上前に建造されて今も現役というもの、数々の歴史を持った伝説的な船あり。いわば会場全体が、屋外の船の博物館という趣なのです。
筆者はちょうど20年前、2003年にもこの「アルマダ」を訪れています。当時と比べると、イベントはますます大きくなり、何よりセーヌ川の岸辺が美しく整備されたと感じます。
かつて倉庫として使われていた建物が、ブラッスリーに変身していたりして、「アルマダ」のようなイベントがない時期でも、セーヌ川散策がより楽しめるようになったと感じます。
週末と言うこともあって、とにかく岸辺は人の川のよう。しかも気の早い真夏の暑さも手伝って、私はかなり疲労してしまい、長蛇の列に並んで船に乗る気分になれなかったのは残念。
次回は4年後の2027年の開催予定だそうですが、このイベントをもっと快適に豊かに楽しむためには、岸辺から船を眺めるだけでなく、ガイド付きの遊覧船を利用するのが良いのではないかと思いました。
また、「アルマダ」に集った船が出航して行く最終日には、帆を張った船が川から海を目指す様子が見られるはず。それをルーアンから河口までのセーヌ流域のいずれかのポイントから眺めるのも良さそうです。
今年の例で言うと、ルーアンを朝8時に出発した船は、河口の直前、セーヌ川にかかる最後の橋を通過するのが午後4時15分頃。最後の船のルーアン出航が12時30分で、その船は夜の9時に最後の橋を通過。つまり、ほぼ丸1日、四十数隻の船が続々と、川を静かに下ってゆくはずです。
ちなみに、そもそもルーアンの街そのものがさまざまな歴史を秘めた魅力的な土地です。
ジャンヌ・ダルクが火刑に処せられたのがルーアンのマルシェのある広場。遺灰は橋の上からセーヌに流されました。
街のシンボルである大聖堂は、クロード・モネが連作のテーマにしたことでも有名です。彼は大聖堂の前の建物に陣取り、さまざまな季節、朝な夕なの光のあらゆる表情を、威風堂々たる大聖堂を媒介として30もの作品として描き出しました。
ということで、「アルマダ」旅の計画にはぜひ、町巡りの1日も漏らさずに組み込まれることをお勧めしたいと思います。