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【インタビュー】人気急上昇中、注目のシンガー・ソングライター日食なつことは?

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

その存在感は、デビュー当時から際立ち、これからのシーンを引っ張っていくであろう、シンガー・ソングライターのひとりとして、“フジロック”などの大型フェスに出演するなど、音楽好きの間では注目を集めていた――そんな日食なつこに一気に注目が集まったのはテレビ番組『関ジャム』で、日本を代表するヒットメーカーの一人・蔦谷好位置が彼女の音楽性を絶賛した事がきっかけだ。そして彼女の音楽に初めて触れた人は、いきなり心をわしづかみにされた。その人間の心の芯の部分に突き刺さる詞、唯一無二の声で歌う強く激しい、そして柔らかで優しい歌とピアノの音色は、どこまでも美しい。その恐ろしい程の才能は、“節目の”1stアルバムをきっちり作り上げた約1年後に、「今の日食なつこの8つの表現欲を生きたまま閉じ込めたミニアルバム」『逆鱗マニア』を発表。この作品について、日食なつこというアーティスト、人間について迫った。

『関ジャム』で紹介され、大きな話題になる

――昨年10月に、人気番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で、音楽プロデューサーの蔦谷好位置さんが日食さんの「水流のロック」を絶賛して、その後HPのサーバーがダウンしたとお聞きしました。

日食 予想以上の大きい波が来ました。あの放送を実はリアルタイムで観られなくて、放送後、番組内で紹介して下さった「水流のロック」のミュージックビデオに出演している、ドラムのkomakiさんから電話があり「大変な事になっている」と教えてくれました(笑)。Twitterを開いてみたらフォロワーが一気に3000人以上増えていて、しかも皆さんいい反応をして下さっていたので嬉しかったです。

――その唯一無二の世界観は、一度は聴くとハマってしまいますが、最初プロのミュージシャンを目指した時に、こういうアーティストになりたいという、キーワード、強い決意のようなものはありましたか?

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日食 音楽マニアに受けすぎる曲を作るのはやめようと決めていました。あまりディープなところに入りすぎると、ディープなところを知らない人が全く入ってこれないので、そういう音楽は絶対作らないようにしようと。今でも曲の中に十分不協和音を入れていますし、入れられるものならもっと入れたいのですが、でもそれだとやっぱりみんなに聴かせる曲ではなくなってしまうので、そこは線を引いています。

――あまり他のアーティストの音楽を聴かずに育ったとお聞きしましたが、尊敬するアーティストも特にはいないと。

日食 そうですね。特に誰というわけではなく、テレビから流れてくる音楽を聴いていました。そんな中でEXILEの音楽が気になり、楽譜を買って家でピアノで弾いていました。彼らの音楽ってエレクトリックなダンスミュージックですが、ピアノで弾いてみると頭から思い切りセブンスコードのオンパレードで、オシャレなんです。

「驕りなのかもしれないが、デビューした時から自分の感性を信じ切り、自分の言いたい事をどう表現すれば相手に刺さるのか、感覚としてわかっていた」

――「ストファイHジェネ祭り09」の東北代表アーティストとしてファイナルに出場し、そこで認められ、デビューが決まりましたが、決まった時の事を覚えていますか?

日食 それがその時の記憶が全然なくて…なんでだろう…。きっと自分の音楽が形成途中で、そんなタイミングで新たな世界に飛び込むのはやばいかもと、直感として感じていたのだと思います。なのですごく張り切ってこの業界に飛び込んだかといえば、決してそんな事はなく、むしろ周りを警戒しながら入ってきたと思います。

――デビューして、自分の作品を発表するようになり、様々な反応を目にしたり耳にしたりしたと思いますが、そういう声は気になるほうですか?

日食 驕りなのかもしれませんが、自分の感性を信じ切っていましたし、自分が言いたい事をどういう形にすれば相手に刺さるのかも、全部感覚としてわかっていたので、そこはあまり悩む事はなかったです。

――バンドを組んだ経験はあるんですか?

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日食 バンドの音楽がすごく好きなので組んでみたかったのですが、そういう環境に巡り合うチャンスがありませんでした。人と音楽をやるとぶつかってしまう事が多くて、中学生の時、吹奏楽部に入っていましたが、同じパートのコに直接的に色々言い過ぎて傷つけたりしていました。自分のやりたい事をつきつめようと思ったら、わがままで、色々な人を傷つけてしまいそうなので一人でやっているのだと思います。

――日食さんが弾くピアノの音と他の音が音階的、音程的にぶつかる部分があるのが嫌なのかなと思っていました。

日食 それもあります。ピアノに関してもすごく欲張りなので「私がピアノでここ弾いてるんだからギター弾かないで」とか(笑)、そういうのもあったりします。

――「水流のロック」はピアノとドラムだけで構成されていますが、削りに削ってあの構成になったのですか?

日食 そうですね、あれは目的ではなく結果ですね。よく“今年注目の新人アーティスト”という括りで、ピアノで弾き語りをする人が出てきますが、その音源を聴くと、思い切り弦の音が重なっていたり、ギターもドラムもガンガン鳴っていて、これは果たしてピアノが必要な曲なのだろうかと思ったりして、そういう風にはなりたくないと思いました。「水流のロック」なような曲が作れたのはすごくよかったと思いました。

「鼻歌の延長線上、勢いでできた曲が破壊力のある、代表曲になっている印象がある」

――今回のミニアルバム『逆鱗マニア』では、アレンジもご自身で手掛けていますが、曲と一緒にアレンジも降りてくるタイプですか?

日食 曲によります。曲を書いた瞬間にこういうギターを入れてもらおうとか、こういうパーカッションにしようとか、考えながら作っていける曲もあれば、レコーディングの前日になっても何も思い浮かばない曲もあります。曲が先か詞が先かも曲によります。でも破壊力がすごい曲は共通していて、鼻歌の延長線上、勢いでできた曲が最終的に残っていって、自分の中での代表曲になっている事が多いです。

――今回のアレンジは、スタジオでミュージシャンとセッションしながら作り上げていった感じですか?

日食 そうですね。取り決めはほとんどなしで、ザックリしたニュアンスだけ伝えて、当日スタジオで、ミュージシャンの感性と音の中に自分がやりたい事があるのかを必死に探して、それを見つけたら「今〇〇さんが出してくれた音のこの部分がイメージに近かったので、こっちの方向でお願いします」という話し合いを重ね、作っていきました。

――そういうノリがアルバム全体に豊かなグルーヴを生み出す事につながっているのでしょうか?ライヴがすごく楽しみです。

日食 できればライヴでは、今回のアルバムに参加していただいたミュージシャンの方達に弾いてもらいたいのですが、それができたらライヴが音源の何百倍もいいものになると思います。今回のレコーディングで、私個人のプレイに関しては特に「ログマロープ」がむちゃくちゃ難しくて、経験のないリズムで、全然弾けなくて本当に練習しました。難しすぎてレコーディングの時点では、ピアノを弾きながら歌えなくて、これをライヴで日食なつこが音源と同じように弾けて歌えるのかを、お客さんは楽しみにしていると思います。そこでぶちかませたらカッコイイですね(笑)。お客さんがあっけにとられるのを見たいです(笑)。

――ライヴではCDの再現性を求めますか?

日食 求めます。仮にギターを入れられないとしても、音数の再現性ではなくて、クオリティの再現性は絶対必要です。いつ、どこででもアナログの高いクオリティの音でライヴができる事は、武器になると思っています。

「1stフルアルバム『逆光で見えない』は節目としてきちんと作り上げ、『逆鱗マニア』は全力で遊んだ」

――難しい質問かもしれませんが、『逆鱗マニア』の中で、特にお気に入り、気になっている曲を教えて下さい。

『逆鱗マニア』(1月11日発売)
『逆鱗マニア』(1月11日発売)

日食 う~ん、8曲全部キャラが違うので、どれだろう…。

――確かにこれだけキャラが違う、濃い作品が一枚に収まってしかも腑に落ちるというがすごい。

日食 そこは自分でもよくやったと褒めてあげたいです(笑)。曲順には本当に悩みました。中でも「あのデパート」の置き場所が難しかったです。この曲だけがちゃんとしたバラードで、それ以外の曲は遊んだ感じが強いので、この曲の置き場所によっては、すごくいいアルバムになるだろうし、イモ臭い感じになって終わるだろうなとも思っていました。

――「あのデパート」を最後に置いた事で、もっと聴きたいと思わせてくれる一枚になっていると思います。

日食 なるほど、それはすごくいいですね。腹八分目で終わらせている感じですね。

――今回『逆鱗マニア』に関して「今作を更に超えるものを生み出せるであろう伸びしろもハッキリ見えた、試金石的な作品」とコメントしていますが、これは2015年リリースした1stフルアルバム『逆光で見えない』を完成させた時とは、また違った感覚ですか?

日食 『逆光~』は初めてのフルアルバムだったので、自分の中で節目として作りたいという想いが強く、すごく気持ちを入れ真面目に取り組み、あれはあれで素晴らしいものができたと思います。それでその次はどうしようかと考えた時に、同じ事をやっても仕方がないと思い、思い切り遊ぼうと思いました。それこそアレンジも自分がやりたい事を、多少曲が崩壊しそうになっても挑戦したり、ミュージックビデオの撮影もきれいなスタジオではなく、そこにいる全員の感性が暴れまわって、ぶつかるような現場で撮影したり、型にはまらないアグレッシブな作品にしたかった。そこが前作と一番違うところです。

――曲は量産型ですか?それとも作ろうと思って集中してひねり出すタイプですか?

日食 時期によります。今回の曲は調子がすごくいい時に、1か月でまとめて書きました。書けない時は本当に書けなくて、半年間1曲も書けない時もありました。『逆鱗マニア』の曲を書き始める前までがそうでした。そこからは調子が良くて、今も曲がどんどん溜まっています。7年間活動してきて、なんとなくその波がわかってきたので、今は調子がいい時期ですが、全く書けない時期がまたやってくるので、その時のために書き溜めておきたいです。

――フルアルバムをリリース後、今回ミニアルバムにしたのもそれが理由ですか?

日食 そうです。全部出さないで敢えて溜めておきたくて、仮に今回またフルアルバムを作る事ができたとしたら、その勢いを今後も求められると思います。そうなった時に、今はまだその勢いで走り続ける自信がないので、とりあえず今回は全力の一歩手前のものを出し、皆さんに聴いていただいている間に、自分はもう少しスキルアップして、もっと求められた時にレベルが高いものをすぐに出せる準備をしておきたいです。

――アルバムを作る時は、新しくできた曲をすぐに聴いて欲しいと思うタイプですか?それとも出来上がって何年か寝かせたものでも出してもいいと思えるタイプ、どちらですか?

日食 寝かせても大丈夫なタイプです。その間にいじったりしますし、歌詞の結末の部分を思い切り真逆に変えてみたりする事もあります。例えばものすごく哀しい内容で、でも最後に救いがあるという構成だった曲を、数年後に聴いたらなんか微妙だなと思って、救いの部分をなくし最後まで絶望してしまう曲にしたら、曲がエネルギーを持った事もありました。

――日食さんの作品は例え絶望を感じても、希望へと向かう”人間くさい”曲が多いと思います。

日食 私自身が人間くささを全然出しているつもりはなかったのですが、取り繕っていなくて、全てを曝け出しているところが気持ちいいと言われる事も多くて…。私は全然そんなつもりはなくて、むしろ冷静に書いているつもりだったのですが、人から見ると感情を曝け出しているように見えるのだなと思いました。

「一回聴いて全てがわかってしまうような曲は書かない。何度も聴いてもらうためには工夫が必要」

――日食さんの曲を聴いていると、何か不思議な感覚に襲われて、言葉自体が持つリズムが強くて、それと楽器やメロディのリズムとが相まって、その渦に巻き込まれているような、うまく言葉では表現できないような感覚になります。

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日食 リード曲はわかりやすいサビと歌詞、メロディで、とよく言われますが、そういう曲って最初はすごく入ってきますが、それで終わりじゃないですか。すごくインスタントというか…。ひと口食べたら全部の正体がわかるような曲は、わかりやすさとしてはいいとは思いますが、5~6回繰り返し聴いてもらうためには、一発目で全てをわからせない工夫がすごく大切です。例えば子供が得体のしれない虫を捕まえて、この虫なんだなんだ?って追及するように、一発目では全く正体がわからない、でも使っている歌詞の口あたりもいいし、リズムも楽しいし、これはどうやって作っているんだろうと、聴き手が探りたくなる曲作りを心掛けています。

――ひと筋縄ではいかないという。

日食 私もそういう風に感じるアーティストさんがいますが、何よりエネルギーがすごいです。作り込まれたエネルギーではなく、その人がただそこにいるだけでものすごいエネルギーを放っていて、そこに崇拝しに行くというか、そういうエネルギーを持っているものは繰り返し聴きたくなりますよね。それを聴いて「これは凄い!」と打ちのめされたい願望というか、そう思える曲が、繰り返し聴きたくなるものだと思います。

――日食さんの作品は、色々な音楽性を感じさせてくれますが、独特の言葉、オンリーワンの世界観を持った言葉が鎮座しているので、どんな音楽であっても最終的には“美しい”という印象が残ります。

日食 それは嬉しいですね。例えば同じ内容の英語の歌詞を10人で和訳したとしたら、一番自分の個性を出せる自信があります。同じものをみんなで見ても、そこからアウトプットするものはアーティストとして確立した個性は持っていると自覚はあるので、自信を持ってやっています。

「私以外の人が私の歌を歌っていると思うと、どこか嫉妬してしまう」

――自分の作品が世に出て行き、たくさんの人に愛されたら、もう曲は聴き手のものになるという考え方ですか?

日食 いえ、自分のもの、自分の子供みたいな感じです。ライヴに来てくれる人が「大学の軽音楽部で日食さんの曲のカバーをやっています」って言って下さる方が多くて、すごく嬉しいのですが、なんか嫉妬してしまうんです(笑)。私以外にも私の歌を歌っている人がいるんだと思うと、もちろん嬉しいのですが、どこかで嫉妬しているという(笑)。

――1stアルバムの『逆光で見えない』も今回の『逆鱗マニア』も“逆”という言葉が入っていますが、これは偶然ですか?

日食 偶然です(笑)。付けてから気づいて、しまったと思いましたが、でも、ま、いいかと思って。

――“逆”という言葉って想像を掻き立てられますよね。

日食 私の歌詞、“逆”という言葉が多いです。「水流のロック」中でも使っていますし、一定の流れの中で、逆らっていくという強いエネルギーを持っている単語で、自分のスタンスにも合っているので使いたくなるのかもしれません。

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<Profile>

1991年生まれ、岩手県花巻市出身。9歳からピアノを始め、高校2年生の時から本格的にライヴ活動を開始する。「ストファイHジェネ祭り09」東北エリア代表アーティスト。2012年から大型フェスに次々と出演、2015年には「FUJI ROCK FESTIVAL'15」に出演し注目を集める。同年12月9日1stフルアルバム『逆光で見えない』をリリース。宮沢賢治と同郷で、今にも降り出しそうな星たちに囲まれ宇宙・天体に魅せられた幼少時代を過ごし、当初は「なつこ」として活動していたが、HPのハンドルネームで「日食」を使用した事をきっかけに、高校2年生の冬より「日食なつこ」と名乗る。

『逆鱗マニア』特設ページ

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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