コロナで「ガクチカがない」というウソ~受かる・落ちるの違いとは
◆分かりやすいストーリー
コロナ禍によって、ガクチカが書けず就活が不利になった。
こうした記事(以降、「コロナ禍・ガクチカ不利論」とします)がコロナ禍以降、新聞メディアで時々出るようになりました。
なお、ガクチカとは就活スラングで「学生時代に力を入れたこと」の略。志望動機や自己PRと並び、面接や書類選考(エントリーシート)で間違いなく出てくる質問・設問です。
学生時代、すなわち、大学入学後の話ですから、内容としては、アルバイトやサークル、学業などが中心となります。
コロナ禍で学生生活に大幅に制限が加わったため、ガクチカが書けなくなってしまった。
これが「コロナ禍・ガクチカ不利論」の論旨です。
記事検索システム「GSEARCH」で「コロナ ガクチカ」で検索したところ、3年間で102件、ヒットしました。
2022年に入ってからも、主要紙は軒並み、記事としています。
「就活 自己PR悩む 大学生 インターン本格化」(読売新聞・2022年7月12日夕刊)
「コロナ直撃『ガクチカ』どうする 大学3年生、インターン募集本格化」(朝日新聞・2022年6月27日朝刊)
「就活探偵団 悩む就活の『ガクチカ』作り 長期インターンで実績」(日経産業新聞・2022年6月22日)
「学生時代に力を入れたことは? 就活生「エピソードがない」 コロナ第1波の春に入学」(朝日新聞・2022年6月9日朝刊)
「ガクチカ、悩む就活 コロナ禍、サークル・バイト制限」(産経新聞・2022年1月13日朝刊)
就活記事の多い読売・朝日だけでなく、産経新聞まで記事としているのは、それだけ悩む就活生が多いことを示しています。
しかし、就活取材20年の私はこの「コロナ禍・ガクチカ不利論」に強い違和感を持ってしまいます。
何しろ、多くの学生はガクチカをきちんとまとめて、内定を得ているのですから。
◆「ガクチカ書けない」はコロナ前も同じ
こう書くと、Twitterに批判コメントが殺到しそうです。
いわく、「大学ジャーナリストを名乗る分際で学生の苦しみを理解できないとはひどい」などなど。
「コロナで本当にガクチカが書けなくなった。そういう事実をあなたは知らないのか」とのコメントも来そうです。
本稿は、なぜ、コロナ禍・ガクチカ不利論が実態とかい離しているのか。そして、就活生はガクチカをどうまとめればいいのか、この2点をまとめていきます。
まず、記事タイトルだけで読んでいる、という就活生もいるでしょうから、前提条件として、私のことを少々。
私は大学ジャーナリストとして、大学や就活・キャリアなどの記事・本の執筆を20年、続けています。関係者への取材もずっと続けていますし、それは就活生も例外ではありません。
そして、取材の一環として、就活生のエントリーシート添削を無償で年300人ほど引き受けています。就活相談を含めると、年1000人以上は軽く超えるでしょうか。
この経験から断言できますが、ガクチカで悩むのはコロナ禍以降とは限りません。
コロナ禍以前も、ガクチカをうまく書けない、と悩む就活生は多数いました。
コロナ禍で学生生活に制限がかかったことは紛れもない事実です。
その事実と、コロナ禍以前からある「ガクチカを書けない」が合わさったものが「コロナ禍・ガクチカ不利論」です。
◆23卒は91.2%がガクチカあり
コロナ禍の前後では、学生生活が異なるからガクチカが書けない、とする反論がありそうなので、データを示しましょう。
ネオキャリアは「コロナ禍の就職・採用活動に関する実態調査『ガクチカ(学生時代に力を入れていたこと)』編」を2022年8月に公表(23卒の学部生・院生242人)。
同調査によると、「自信を持って企業にアピールできるガクチカはありますか」の問いに76%が「はい」と回答。
この傾向は他社調査でもほぼ同じでマイナビによる「マイナビ2023年卒 大学生インターンシップ調査(2022年11月)」(23卒の学部生・院生2608人)によると、ガクチカとして話せるエピソードを持っている学生は91.2%(「1個(29.5%)」+「2個(42.3%)」+「3個(15.2%)」+「4個(12.3%)」+「5個以上(2.0%)」)。
一方で、エピソードがない(0個)と回答したのは8.8%です。
仮に「コロナ禍・ガクチカ不利論」が正しければ、ガクチカを書けない、アピールできないとする学生はもっと多いはずです。
しかし、ネオキャリア調査では76%、マイナビ調査では91.2%がガクチカをアピールできる、と回答しています。これは「コロナ禍・ガクチカ不利論」が不正確であることを示しています。
◆ガクチカにコロナ禍が影響したのは確かだが
ネオキャリア・マイナビの両調査データをもって、就活生の多くはガクチカを簡単に作れた、とまとめるわけではありません。
ネオキャリア調査では、「コロナ禍はガクチカに悪影響を及ぼしましたか?」に44.6%が「はい」と回答。
マイナビ調査でも、「(ガクチカについて)選考でどれくらい評価されるか不安だ」とした学生は42.7%。これはアピールできるエピソードの個数に関係なく最多でした。
こうしたデータからも、コロナ禍がガクチカに影響のあったことは間違いありません。
それと、ネオキャリア・マイナビ、両調査とも、ガクチカをうまく書けない学生は実は回答していないのではないか、との可能性もあります。
ネオキャリア調査は23卒学生対象で調査時期は6月下旬~7月。同社は学生の内定の有無などを明らかにしていませんが、時期から言えば内定学生が大半を占めると見ていいでしょう。
マイナビ調査は時期が2021年11月。対象はマイナビ登録学生であり、3年11月にインターンシップサイトに登録している学生は、結果的には、就活へのモチベーションが高い学生が大半を占めます。
両調査とも、ガクチカをうまくまとめられる学生が回答者の多数であり、実態とは異なる可能性は排除できません。
まあ、それを言い出したら、実態を完全に解明しているデータなど存在しないのですが、それはさておき。
◆実績重視という誤解
さて、一定数の就活生がガクチカをうまく書けない、これはコロナ禍前も後も変わりません。
では、なぜガクチカがうまくまとまらないのでしょうか。
これは、「実績を書かなければならない」と誤解してしまうからです。
私がエントリーシート添削をする学生にも話を聞くと、「アピールできる実績がない」とのこと。
コロナ禍以降だと、サークル活動などが制限されて、書ける実績がない、だからガクチカもうまくまとまらない。
大体、こういう話を学生はします。
この実績重視、コロナ禍前も誤解する就活生が多数でした。
2019年にも、このYahoo!ニュース個人でそうした記事(2019年2月27日「公開就活生のエントリーシートがしょぼすぎる!~「即戦力」の誤解で選考落ち地獄も」)を書きました。
記事タイトルにもありますが、採用担当者は就活生のアピールする実績など、ほとんどを「しょぼい」と感じています。
しょぼい実績を、どう言い換えようと、どれだけ盛ろうと、コロナ禍前でも後でも、「しょぼい」という現実は変わりません。
ところが、です。採用担当者は「しょぼい」実績でも、就活生側が「しょぼい」と勝手に捨てている経過については強い興味を示します。
キャリタス調査(2022年卒内定者調査/回答242人)によると、ガクチカでアピールした内容は「アルバイト」(46.7%)が最多。
以下、「研究・ゼミ活動」(36.8%)、「サークル・部活(体育会系)」(30.6%)、「サークル・部活(文化系)」(23.1%)、「学業・成績」(19.4%)など。
ガクチカのアピール材料は、アルバイト、サークル・部活、研究・ゼミ活動・学業のいずれかを選ぶ就活生が多いことをこのキャリタス調査は示しています。
就活生のアピール材料は、キャリタス調査以外の調査でもコロナ禍前後とも、同様の結果となっています。
では、アルバイトやサークル・部活、ゼミ活動などは分かりやすい実績を簡単に示せるものでしょうか?
ほとんどの就活生は、どうまとめるか、苦しむでしょう。
中には「接客コンテストで1位になった」とか、サークル・部活で参加した大会で功績席を収めた、という就活生もいるでしょう。が、どう考えても、そうした実績ある就活生は少数派です。
それに、仮に実績があったとしても、採用担当者はその実績を評価することはほぼありません。
では、採用担当者は何を評価するのでしょうか。それは、実績ではなく、経過です。
◆経過を書けば受かりやすい
ガクチカはエントリーシートの場合、文字数制限があります。ま、大体は400字程度ですね。
面接でも、個人面接でない限りは長々と話せません。1分か2分程度がいいところ。文字数に換算すると、250字から500字程度です。
つまり、エントリーシート・面接、ともに制限がある以上、就活生は内容を削ろうとします。で、多くの就活生は、実績はしょぼくても書く割に、経過はばっさりと切り捨ててしまいます。
その結果、平板なガクチカが量産され、当然ながら落ちることに。
そもそも、日本の新卒採用、特に総合職採用は、見込み採用が大きな特徴です。
見込み採用とはポテンシャル採用とも言い、実績ではなく、見込み・ポテンシャルを重視するものです。
頑張ってくれそう、体力ありそう、一緒に働けそう、地道な作業をしてくれそう、会社を儲けさせてくれそう…
上に挙げたものでも、それ以外でも、何か一つ「~してくれそう」と見込みが出れば、次の選考に進める、あるいは内定を出す。これが見込み採用です。
そこで、次の例はどうでしょうか。
A「体育会系の部活××部に所属。県大会予選落ちの常連だったが3年次に県大会で優勝し、3部リーグに昇格した」
B「ドラッグストアで2年間アルバイトをしていた」
A君・Bさんとも、私の過去の添削事例です。一見するとA君の方が良さそうですが、私が添削した時には2人ともほぼ全滅状態でした。
A君の場合、××部のスポーツ選手採用であれば、こうした実績を書く必要があります。しかし、新卒採用であれば「予選落ちの常連→県大会で優勝→3部リーグに昇格」と言われても、部外者からすれば理解不能です。
それと、ヒアリングして判明したことですが、A君はレギュラーではありませんでした。そうなると、部活の話はA君の話ではなく部活紹介にすぎません。採用担当者からすれば「だから何?」で終わりです。
Bさんは「ドラッグストアでアルバイト」と言われても、情報が少なすぎます。これだけでは採用を判断できるわけがなく、「わからないから落とそうか」となってしまいます。
ところが、エントリーシート添削時にヒアリングしたところ、2人ともちゃんとアピールできる経過を持っていました。
A君の場合
レギュラーではなく補欠というか、マネージャーのようなもの。試合に出られないならやめてもいいかなと思ったのですけど、せっかく入った以上はチームに貢献できることをやろうと考えました。具体的に、ですか?グラウンドの清掃はいつも真っ先に入るようにしていました。少しでも、いい環境を整えれば、レギュラーも練習しやすいかな、と思いまして。
Bさんの場合
ドラッグストアでアルバイトをしていたのは、ちょうどコロナ禍のときで、2月にはマスク不足になっていました。それから、確か5月上旬までは、毎日どころか、1時間に10人以上、「マスクないの?」と聞かれていた気がします。質問だけでもしんどかったですけど、「奥に隠しているんだろう」とか「入荷予定すら分からないのか?」とか、問い詰められ、怒られることもよくありました。心が病んで辞めたアルバイトもいます。私ですか?少し落ち込むことはありましたが病むほどではなかったです。逆の立場なら怒ることはなくても「マスクない?」ぐらいは聞いているはずですし。
A君、Bさん、ともに「なんでその話、エントリーシートに書かないの?」と聞くと、逆に不思議がられました。
私がエントリーシート添削をするときは、メールでのやりとりだけでなく、zoomでヒアリング時間を設けるのですが、それはこうした経過を聞き出すためです。
A君、Bさんに限らず、就活生の言い分としては、「どう文章に落とし込めばいいか分からなかった」「誰でもやっていそうな話を書いても選考に通らないと思った」などです。
A君の場合、レギュラーでなくても、清掃を長く続けた、確かに誰でも当てはまりそうです。しかし、本当に続けたのであれば、「地道な作業をしてくれそう」という見込みが出てきます。
Bさんの場合、ドラッグストアでマスク不足の際は客にひたすら怒られていました。それでも辞めずに頑張ってきたのであれば、「ストレス耐性が強そう」という見込みが出てきます。
それぞれ、はっきりした実績か、と言えば全くそんなことはありません。
しかし、この経過を示していれば、興味を示さない採用担当者よりも興味を示す採用担当者の方が多数でしょう。
実際、A君、Bさんともに、この経過をまとめたエントリーシートを出すようにしたところ、「書類選考では無敵でした」との連絡がありました。
◆経過を見逃す「利用可能性ヒューリスティック」
では、なぜ、就活生はガクチカで経過をきちんと書けないのでしょうか。
その理由は利用可能性ヒューリスティックという心理的バイアスが影響しています。
これを分かりやすく説明しているのが『なんで?を解き明かす 行動経済学が導く納得就活 就活を成功させるための心理テクニック』(橋本之克、宣伝会議、2022年)です。
同書は広告会社戦略プランナーの著者が行動経済学の視点から、就活生の行動や心理を20点、解説しています。
同書の中で、その名も「コロナ禍でガクチカが書けない人は必見」との項目があります。この中で紹介しているのが利用可能性ヒューリスティックで、「思い出しやすい記憶に頼って判断してしまう」「記憶に残っているものほど高く見積もってしまう心理」とのこと。
橋本氏は同書の中で、ダニエル・カーネマンの実験について紹介。夫婦が被験者で、夫・妻、双方に「自分の、家事への貢献度」を質問。すると、双方とも自分の家事について強く記憶しており、「お互いに自分の仕事量を過大評価してしまった」。
同書には出ていませんが、前記の実績・経過だと、実績は記憶に残りやすく、経過は記憶に残りにくい、その利用可能性ヒューリスティックが就活生に影響した、と私は感じました。
◆コロナ禍でもしょぼいのは皆同じ
話をコロナ禍とガクチカに戻しましょう。
コロナ禍で学生生活は大きな制限が加えられました。これは事実です。
そして、偏差値の高低、大学の規模や立地に関係なく、どの学生も等しく学生生活に制限が加えられた、これも事実です。
そして、就活では91.2%(マイナビ調査)がガクチカでアピールできました。
これは、アピールできた就活生が優秀、かつ、目立つ実績があったからではありません。
ほとんどの学生は、ガクチカをうまくまとめられなかった学生と同じく、しょぼい実績しかありません。にもかかわらず、明暗を分けたのは実績アピールではなく、経過を丁寧にアピールしたからです。
実は「コロナ禍・ガクチカ不利論」の記事にもそうした内容はきちんと書かれています。
産経新聞は月1回ペースで「就活リサーチ」を掲載しています。これは就職情報会社のキャリタスリサーチがデータを元に就活について論じるコラムです。
2021年12月3日朝刊掲載の「コロナ禍で『ガクチカ』に不安」で、筆者は次のように指摘しています。私もまったくの同感です。
ガクチカに、「大会で優勝した」「リーダーとして活躍した」といった経験が求められていると考える学生は多いようです。しかし、企業側は必ずしも華々しいエピソードを求めているわけではありません。
企業が見極めたいのは、その学生が日頃どのような考え方をして、行動しているのか。どんな価値観を持った人なのか、などです。そうした観点で人物像を探ることで、入社後に活躍できる人材かどうかを確かめたいのです。
コロナ禍で学生は大変な思いをしました。その大変さを私は理解しています。
それと同時に、就活生がコロナ禍を理由にガクチカを書けない、としてしまうのは、その就活生にとって何のプラスにならないのではないか、とも感じる次第です。
エントリーシート添削希望の方へ
・当方、取材を兼ねており、エントリーシートを無償で添削します。
・ご希望の方はPCメール(namio@eurus.dti.ne.jp)まで、大学・学部・個人名を明記の上、ご連絡ください。なお、携帯メールだと受信のみで返信はエラー扱いとなる可能性があります。できるだけ、PCメールでご連絡ください。
・一度、原文をお送りいただいた後、zoomでヒアリングをしながら完成を目指す形式になります。時間はヒアリング・就活相談込みで90分~2時間程度です。
・希望者が多い場合、ご希望の日程等に沿わないことがあります。
・添削で得たエントリーシート原文や改造例などの情報は個人情報を特定されない範囲内で、石渡の記事・書籍・YouTube等で予告なく利用することがあります。
・基本的にエントリーシート添削は1回で完結し、以後は受け付けません(就活相談は別)。