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米国がホロコーストとどう向かい合ってきたかドキュメンタリー「米国とホロコースト」国連で視聴し議論

佐藤仁学術研究員・著述家
バイデン大統領がエルサレムのヤド・ヴァシェムを訪問(写真:ロイター/アフロ)

2022年9月に米国のメディア、PBSでドキュメンタリー「The U.S. and the Holocaust(米国とホロコースト)」が放送された。移民大国アメリカがホロコーストとどう向き合っていたのか、当時の貴重な映像や写真、生存者の証言などが放送されていた。

そして2023年2月には国連でこのドキュメンタリー「The U.S. and the Holocaust(米国とホロコースト)」のショートバージョンを視聴してケン・バーンズ監督、米国国務省のホロコースト担当のエレン・ゲルマイン氏などが参加してホロコーストの問題、反ユダヤ主義、民主主義、現代社会の問題などについて議論を行っていた。その様子は国連のUN Web TVでも公開しており、ショートバージョン「The U.S. and the Holocaust(米国とホロコースト)」の視聴もできる。

第2次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人やロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。アメリカにはその前からソビエト連邦や東欧からユダヤ人迫害(ポグロム)を逃れて移民としてきていたユダヤ人も多かった。だが第2次世界大戦時のアメリカは避難してくるユダヤ人には冷たかった。1939年5月には欧州からのユダヤ人で満員のセントルイス号を追い返したように、アメリカにはナチス支配地域からのユダヤ人難民を歓迎する空気はなかった。セントルイス号はヨーロッパに戻り、ユダヤ人たちはフランス、オランダ、ベルギー、英国に引き取られた。そして1940年以降に大量虐殺を免れることができたのは英国に引き取られたユダヤ人だけだった。

ナチスによって1941年で20万人以上のユダヤ人が欧州で殺された。だがアメリカがユダヤ人救済へ重い腰を上げたのは1944年以降だった。それまでルーズベルト大統領はユダヤ人殺害を黙認していた。アメリカは移民の国だったが、第二次大戦勃発の1939年以降、ドイツ国籍のユダヤ人はスパイ予備軍とみなしてアメリカへの入国を禁じていた。ユダヤ難民も拒否していた。またアメリカ国内での反ユダヤ主義も強かった。さらに失業問題も深刻で移民が来ることによって仕事を奪われる脅威を感じるアメリカ人も多かった。

▼「The U.S. and the Holocaust」オフィシャルトレーラー

ホロコーストの記憶のデジタル化

ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもされている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではない。

ホロコースト映画は史実を元にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を元に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を元にして制作され2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。史実を元にした映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の授業で視聴されることも多い。このドキュメンタリー「The U.S. and the Holocaust」もノンフィクションである。ノンフィクション映画やドキュメンタリーはホロコースト教育の教材にも活用されやすい。

今回は国連でドキュメンタリーが視聴されて参加していた各国の大使らが議論していたが、このようなことを学生らがホロコースト教育の授業の一環で行っている。

一方で、フィクションで明らかに「作り話」といったホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様のパジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。

本格的な米国制作のホロコーストドキュメンタリー

ホロコースト映画が米国で制作されることは多い。戦時中はユダヤ人入国を拒否していたが、戦後になって欧州で居場所がなくなったユダヤ人の多くがアメリカに移民としてやってきた。そしてアメリカにはホロコースト博物館もほとんどの大都市にあり、そのような博物館が生存者の証言を集めてデジタル化したショート動画を制作することは多い。「The U.S. and the Holocaust」は当時のアメリカがどのようにホロコーストと向き合い、戦後にアメリカに移民してきたユダヤ人らがどのように生活していたかなどが詳細にわかるデジタル化された貴重なドキュメンタリーである。

戦後75年以上が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画の視聴には慣れている人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。またホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画をよく見るという大人も多い。

世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界の出来事であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのは映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。

▼「The U.S. and the Holocaust」のケン・バーンズ監督らが出演していた番組でホロコーストと米国について語っている。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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