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コロナで中止になった甲子園「あの夏を取り戻せ」の学生奮闘劇、きっかけとなった廊下での立ち話

秋元祥治やろまい代表取締役/武蔵野大学EMC教授/オカビズ
あの夏を取り戻せ、開会式に集まった元高校球児たち(撮影:納田薫・EMC3年)

コロナ禍で中止となった2020年夏の甲子園。当時高校3年生だった球児による全国元高校球児野球大会2020-2023「あの夏を取り戻せ」が29日、阪神甲子園球場で行われています。

20年夏は新型コロナウィルスの感染拡大で甲子園大会が中止。各地方大会も中止となり、各都道府県で独自大会を開催。当時の独自大会優勝校などを中心に全国から45校42チーム(約800人)が参加しました。

甲子園の電光掲示板にも「あの夏を取り戻せ」(撮影:納田薫・EMC3年)
甲子園の電光掲示板にも「あの夏を取り戻せ」(撮影:納田薫・EMC3年)

この企画の発起人が、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(EMC)3年生の大武優斗さん。EMCは、21年に開設された日本で初めての「起業家精神育成」に特化した学部です。1期生の大武さんは私の授業も履修したことのある教え子で、この企画は大武さんとともにEMCの学生たちがその中心を担っています。

2020年当時に東京・城西大城西高の野球部員だったが昨年、発起人としてゼロから大学生のボランティアなどによる「あの夏を取り戻せ実行委員会」を立ち上げ。総額7000万円にものぼる大会開催費用を、クラウドファンディングや企業の協賛を募り、とうとう実現にこぎつけたのです。会場費などをまかなうためのクラウドファンディングでは2700万円超が集まり、また、オープンハウスグループやANA、スカパーなどが予算面や広報・運営面などで支えてます。古田敦也さんや矢野燿大さん、荒木大輔さんもアンバサダーとして大会の盛り上げに一役買っています。

※実行委員会代表の大武優斗さん(撮影:筆者)
※実行委員会代表の大武優斗さん(撮影:筆者)

大武くんの原体験は遡ること小学1年生。やはり高校球児だった父の影響から野球をはじめて、そこからは野球漬けの日々。城西高校ではセンターをポジションを守るも、現役球児当時は膝の怪我に悩まされていたんだとか。それでも痛み止めの注射を打ちながら、3年生の夏の甲子園をめざしていたなかでの、コロナ禍での中止だったのです。

最初に、この「あの夏」が心に浮かんだのは2022年夏のこと。7月上旬に、伊藤羊一学部長に、大学の廊下での立ち話でこんなことをしたいと言葉にしたのが最初だったと言います。無理だとか、やめたほうが良い…じゃなく、学部長からは「いいじゃん!」の言葉に後押しされたとのこと。そしてその後、8月には友人たちと実行委員会を立ち上げ取り組みをスタート。

「失われた夏によって、心にぽっかり空いてしまった穴を埋め、あの夏を取り戻したい。そして、あの夏への思いにけじめを付けて、未来に歩み出したいんだ。そして、同じような思いをもつ球児のためにも実現したい」という気持ちから取り組みを始めた、と語ってくれました。

「失われた甲子園を、やりたい」というその一言を発し、一歩を踏み出す後押しになったのが、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部が最も大事にする「他人の夢を笑うな」という言葉だったと、大武さんは言います。

大きな目標であったとしても、一見難しく感じることも、夢をまずはえがくこと。そして、その夢を語らなければ実現することはできません。だからこそ、EMCでは、他人の夢を笑わないことを入学したときから、ことあるごとに繰り返し伝えられます。

※運営統括の小泉真俊さん(撮影:筆者)
※運営統括の小泉真俊さん(撮影:筆者)

大武さんの思いに、学部の友人や後輩が続々と共鳴します。30名を超える運営メンバーを大武さんとともに、全般統括をするのは宇佐美和貴さんや小泉真俊さん。小泉さんは、当時を振り返ってこう語ります「自分自身も、高校球児として目指してたものがなくなって、当時呆然としたことを覚えていました。だからこそ大武さんの思いに共感し、一緒に実現したいと思いました」と。

※運営統括の宇佐美和貴さん(撮影:筆者)
※運営統括の宇佐美和貴さん(撮影:筆者)

当時その話を聞いた、伊藤学部長はこう語ります。「僕は、いいじゃん!としか言わなかったですよ。ただその時、僕は彼の言葉からこの日、こうなるとイメージができたから、これは彼の天命だよなぁ、とその時、感じました。今日は、元球児一人一人、そしてそれを応援する方ひとりひとりの甲子園になったと思うのです。教え子の大武さんは仲間たちと一緒に、その笑顔を生み出したんだなぁ!と誇らしい気分です。」と。

学部長補佐の津吹達也教授も当時を振り返ってこう語ります。「彼が授業の中で、あの甲子園の復活をとにかくやりたいんだと言ったとき、周りの学生がは途方もなさすぎてみんな最初キョトンとしてたんです。あっけにとたれたというか。でも学部で、他人の夢を笑わないって言ってきたのは本当にそうで、なんかそれできないよとかって言うやつは誰もいなかったんですよ。そしてそこから大武さんの本気の挑戦が始まりました」

こうした中で、友人たちへの協力の輪が広がるだけでなく、EMCの教員たちも周囲に協力者を求めたり、情報拡散への協力などできることを行っていきます。教員の縁から大武さんと会い、今回スペシャルナビゲーターとして協賛を決めたオープンハウスグループ広報担当は「うちの社訓には、やる気のある若い人を応援するというものがある。今回の取り組みを大武さんから伺い、やる気のある若い人、そしてあの夏の球児を応援したいと考え、会社として、荒井正昭社長個人としても協賛しました」とのことでした。

当日の運営を担うスタッフ約100名のおおよそ半数は大武さんらとおなじEMCの学生たち。もちろんボランティアで、自分たちで費用を出し合い夜行バスを1台チャーターし、昨晩大学を出発してやってきた。そして、また今晩夜行バスで戻っていくといいます。

※28日夜にボランティア学生を乗せて大学を出発するバス(撮影:EMCスタッフ)
※28日夜にボランティア学生を乗せて大学を出発するバス(撮影:EMCスタッフ)

また、会場を盛り上げるブラスバンドも学期経験のある大学生たちが口コミで集まり、ボランティアでチームを結成して取り組んでいるといいます。

甲子園の現場では、球児たちが思い思いに甲子園を楽しむ笑顔がそこかしこに見られました。また、ご両親が涙ぐみながらお子さんの写真を一緒に取る姿も、何度も目にしました。

多くの人々の協力を経て、全国の「あの夏の高校球児」が集まり、そして多くの笑顔や感動、そして涙が生まれた今日の甲子園。この「あの夏」の裏側には、思いを言葉にした1人の大学生と、そしてそれを支える多くの仲間たち。

その根底には「他人の夢を笑うな」という、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部・EMCのメッセージが流れているように感じました。

やろまい代表取締役/武蔵野大学EMC教授/オカビズ

01年より、人材をテーマにした地域活性に取り組むG-netを創業し03年法人化。現在理事。13年オカビズセンター長に就任。開設9年で約3300社・2万2千件超の来訪相談が押し寄せ、相談は1ヶ月待ちに。お金をかけずに売上がアップすると評判で「行列のできる中小企業相談所」と呼ばれている。2022年より武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授に就任。内閣府・女性のチャレンジ支援賞、ものづくり日本大賞優秀賞、ニッポン新事業創出大賞・支援部門特別賞ほか。内閣府「地域活性化伝道師」等、公職も。著作「20代に伝えたい50のこと」、KBS京都「KyobizX」・ZIP-FM「ハイモニ」コーナーレギュラーも。

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