<朝ドラ「エール」と史実>「自分の地位を脅かすのではないか」実在の山田耕筰も古関裕而を恐れていたのか
再放送中の朝ドラ「エール」では、故・志村けんが演じる小山田耕三が初登場。モデルはもちろん、日本洋楽界の大御所・山田耕筰です。
エールの公式サイトによれば、小山田は、主人公・裕一の才能を認めつつも、その「活躍が自分の地位を脅かすのではないかと恐れている」とあります。実際、のちのエピソードで、声楽家の双浦環よりそのことを指摘される場面がありました。これもまた、史実を踏まえたものなのでしょうか。
「自分より優れた作曲家が居るとの印象を世間に与えることは避けたかった」?
「恐れた」説をたどると、つぎの文章にたどりつきます。声楽家の藍川由美氏が、生誕100年記念のCD集『国民的作曲家 古関裕而全集』に寄せた解説文です。
山田は、古関の才能を恐れて、彼をクラシックの世界より遠ざけたというわけです。とはいえ、語尾に「はず」「そうだ」とあるように、この説はあくまで推測にとどまります。「恐れた」説に、確たる根拠が具体的にあるわけではないのです。
「先生と同じ血が流れているのではないかと……」
山田を必要以上に意識していたのは、むしろ古関のほうでしょう。若いころの傾倒ぶりを、自身でこう振り返っています。
「同じ血が」云々は、かなり大胆な空想ですね。そのいっぽうで、ドイツに留学し、日本人ではじめて交響曲を書き、ニューヨークのカーネギーホールで演奏会も成功させた山田が、いかに優秀とはいえ、親子ほど年齢が離れた、田舎の一青年を恐れていたとはやはり断定しにくいでしょう。
ドラマはフィクションなので構いませんが、史実ではかならずしも定説になっていないということは、ここで強調しておきたいと思います。山田は、いろんな意味で、もっと大物だったのです。