Google Glassに模造刀なみの法規制を
声やまぶたの動きで操作できる、メガネ型のウェアラブルコンピュータGoogle Glassは、目の前の仮想ディスプレイに地図やメールなどの情報を映し出すことができるとともに、見ている風景を静止画や動画として記録する機能をもっています。ネットでは今年中に売り出しかと噂されていますが、日本での販売や使用の可能性は今のところ未知数です。
近い将来、このようなメガネ型ウェアラブルコンピュータが日本でも使用されるかもしれません。その潜在的有用性には計り知れないものがありますが、予想がつかないような危険性もはらんでいます。現実がかなり先行している感がありますが、この種の道具は一度解放してしまうと後戻りができませんので、今しばし立ち止まって、その危険性について議論しなければならないと思います。
■監視カメラとしてのGoogle Glass
Google Glass最大の特徴は、スマートフォンで行っているようなことを、手を使わずに声やまぶたの動きで行うことができることです。しかも、通信機能を備えているので、見ている風景を他人と同時に共有することもできます。まさかGoogle Glassを着けてスカートの中を覗く者はいないと思いますが、アメリカではGoogle Glassを着けている人が、運転していて罰金を取られたり、映画館で(映画の無断撮影の容疑で)逮捕されたりしたケースが報告されています。日本でも同じようなことが起こるのではないかと思いますが、社会的により深刻な問題になるのは、Google Glassを装着して通行中の人たちを網羅的に撮影したり、会話を録音したりすることです。
私たちは外を歩くときは顔を隠さずに歩いていますが、撮影されることに同意しているわけではありません。喫茶店で友人たちとおしゃべりしますが、録音に同意しているわけではありません。顔写真は、内閣府が2006年に行った世論調査では、銀行口座、年収についで、他人に知られたくない個人情報の3番目にあげられていますし、無断録音についても同じようなことではないかと思います。また、Google Glassに顔認証技術を組み合わせ、ネットにアップされている顔写真などと自動照合することによって、向こうから歩いてくる見ず知らずの人が、どこの、だれだか、時には犯罪歴(!)までもが瞬時に分かる仕組みもすでに実用化されています。
公共の場で個人的に使用されるGoogle Glassは、まさにプライバシーを侵害する「動く監視カメラ」となるのです。
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■監視カメラとプライバシーをめぐる法的問題
現在、日本国内には(何と!)数百万台の監視カメラ(防犯カメラ)があるだろうと言われています。そのほとんどは個人や商店、娯楽施設など、民間が設置したものなのですが、これらの監視カメラの設置に関する統一的なガイドラインや法律などの明文化されたルールは、実は今のところ存在しないのです。防犯効果があるとの理由で、どんどん無秩序に監視カメラが増えているのが原状です。
しかし、裁判の場では、このようなプライバシーの侵食とも言える現象に、ある程度のルール設定がなされてきています。
公道でのカメラ撮影が問題となった最初のケースは、「京都府学連事件(きょうとふがくれんじけん)」判決です(最高裁昭和44年12月24日判決)。これは警察によるデモ隊のビデオ撮影が問題になった事件ですが、判決では、国民には勝手に撮影されない権利(「肖像権」)があるが、現行犯における証拠保全の必要性や緊急性、撮影方法の妥当性などが認められる場合には、肖像権は制約されるとしました。そして、警察が設置した監視カメラをめぐるその後のいくつかの裁判では、(1)撮影目的の正当性、(2)具体的な必要性、(3)カメラの設置状況の妥当性、(4)防犯・検挙などの効果があること、(5)使用方法が常識的な範囲内にあることなどの、使用に関する要件が確認されてきました。
これらの要件は、国対私人という関係の中で確認されてきたものですが、私人対私人の関係でも上のような要件は確認されていますし(名古屋高裁平成17年3月30日判決)、設置基準を具体化する条例も増えてきています。たとえば、2004年に制定された「杉並区防犯カメラの設置及び利用に関する条例」では、大規模なショッピングセンターや劇場などの一定の公共性を帯びたカメラを対象に、設置の届出制、管理者の報告義務、画像の取扱いなどが規定されています(ただし、罰則はなし)。
このような流れからすれば、だれでも自由に通行することができる公道などの公共空間では、私人による監視カメラの設置・使用は、原則禁止されるべきだと思います。ただし、自分が何度も犯罪の被害にあい、その証拠を保全する必要性があり、かつ緊急性も認められ、他の人びとのプライバシーを制約せずにこのような目的を達成することが困難であるような場合は、例外的な事情として使用を認めてもよいと思います。
Google Glassの問題性も、この延長線上で考えるべきだと思います。
■Google Glassに模造刀なみの法規制を
Google Glassを、私的な空間、たとえば自宅やそれに準じるような場所で使用することには、ほとんど問題はありません。また、警察官や消防士など、一定の職業の人にとっても、Google Glassはたいへん有益な道具となるでしょう。しかし、公的な空間でのGoogle Glassの個人的使用に、一般の人びとのプライバシーを犠牲にしてまでも守るべき利益があるとは普通は認められませんし、記録された画像の管理などの問題においても、固定された監視カメラとは違ってGoogle Glassはコントロールが難しく、より深刻な問題を引き起こすことでしょう。撮影中は赤いランプが点灯するということですが、そのような仕組みが問題をクリアできるものではありません。したがって、何らかの法的規制を設ける必要性は高いと思います。たとえば、所持に許可や登録が不要な模造刀であっても、それを「携帯」することが処罰されるように(銃刀法第22条の4、35条)、公共の場所において、業務上その他正当な理由なくGoogle Glassを装着する行為について、罰金程度の罰則を設けることには十分に合理的な理由はあると思います。
以前、グーグル・ストリートビューが問題になったときに、米Google副社長で法務責任者(当時)のケント・ウォーカー氏は、次のように述べました。
Google Glassについても、日本で販売するときには、上のような法的議論の流れに十分に配慮してほしいと思います。