史上初の10代の名人誕生なるか。第44期囲碁名人戦七番勝負の見どころ
19歳の芝野虎丸八段が張栩名人(39歳)に挑戦する第44期囲碁名人戦が8月27日に開幕する。混戦の挑戦者決定リーグ戦を勝ち抜き、勢いのある挑戦者と、百戦錬磨の名人の戦いはどんな展開を見せるのだろうか。
19歳の挑戦を受ける張栩名人
張栩名人の獲得タイトルは40。2001年からタイトル戦に登場し、2009年には史上初のタイトル5つ同時保持を達成し、碁界第一人者となった。その後、20歳の井山裕太棋聖に名人を獲られたのを端緒に、次々タイトルを明け渡し、井山棋聖が七冠制覇を果たすなど井山一強時代に移っていく。
しかし昨年、その井山棋聖から名人を奪還し、無冠を返上した。
井山棋聖の番碁初登場は19歳のとき。相手は29歳の張栩名人だった。このときは張栩名人が勝って、防衛を果たしている。
またもや19歳の挑戦を受ける立場となった張栩名人。
この名人戦一本に絞り、芝野八段を迎え撃つ。
「熱」と「静」
対局前日。前夜祭の前に、「対局室検分」が行われた。実際に碁盤の前に座り、盤や石、座布団や座椅子、さらに空調や明かりなどを対局者が確認し、要望する時間となる。
定刻10分以上前に対局室にやってきた芝野挑戦者は、にこやかに盤の前に座った。
そして、手持ちぶさたになったのかもしれない。盤上を日本手ぬぐいで拭き清め始めたのだ。この儀式は本来、対局前にするもので、検分でやったのを、記者は初めて見た。
初めての番碁の対局室は見るものすべてが新鮮なのだろう。芝野挑戦者は用意されていたお菓子の山から、チョコや飴をひとつずつ手に取って見ていた。
いつも通り、ひょうひょうとした芝野挑戦者がそこにいた。
芝野本人も「普段からあまり動揺しないところが自分の強み」というほど、マイペースを保っているのが、見て取れる。
対局中はポーカーフェースで、動きもあまりない。静かで冷静な挑戦者だ。
5分ほどして、張栩名人が入室。ぴりっとした空気になった。「すでに気合が入っている顔をしている。わかるよ」と、昨年も張栩名人を撮影し続けたカメラマンが断言する。
張栩名人は熱い男だ。闘志を前面に出して戦うタイプ。ありとあらゆる準備をして、対局に全力を尽くす。
初めての番碁、初めての二日制への対応
趙治勲名誉名人は「虎丸くんの実力はすでに世界レベル。若いほうが勝利の女神がほほ笑むので、実力が互角なので正直、張栩くんは勝つのが大変だと思う」と予想する。
張栩名人の利点は、百戦錬磨であること。番碁の戦い方を知り尽くしていることだ。
七番勝負は1局で終わらない。流れがある。どちらが流れをつかむのかが大きなポイントとなるだろう。
ふだんの対局は持ち時間3時間や5時間がふつう。1日で打ち終わる対局ばかりだ。
持ち時間8時間、2日制というルールのもとで打つのは、挑戦者は初めてとなる。
1日目、朝9時に開始され、昼休憩を挟み、夕方5時半を過ぎると、「封じ手」がある。
手番のほうが一晩考えられないよう、最後の一手は盤上に打たず、対局者自身が碁罫紙に記入し、誰にもみられないよう封筒に収める。ホテルの金庫にしまわれた「封じ手」は、翌朝9時に開封され、対局が再開される。終局は夕方から夜になることが多い。
2日にかけて打つこと、封じ手があること、途中で寝ること。初めてのことばかりで、「どうしたらいいのか全然わかりません。昔から早打ちなので、8時間もある持ち時間をどう使えばいいのか」などと芝野挑戦者はいうものの、結局は「1局打ってみてから考えます」。
井山四冠も「二日制に芝野さんが対応できるかどうかが、鍵になると思います」と、ポイントに挙げていた。
長い8時間の碁で、芝野挑戦者がどんな碁を見せるかを、まずは注目したい。