52歳。更年期がひどくなって酒に溺れた同い年の妻。半年後には離婚したい~スナック大宮問答集74~
「スナック大宮」と称する読者交流宴会を東京、愛知、大阪などの各地を移動しながら毎月開催している。味わいのある飲食店を選び、毎回20人前後を迎えて和やかに飲み食いするだけの会だ。2011年の初秋から始めて開催150回を超えた。のべ3000人ほどと飲み交わしてきたことになる。
筆者の読者というささやかな共通点がありつつ、日常生活でのしがらみがない一期一会の集まり。参加者は30代から50代の「責任世代」が多い。お互いに人見知りをしながらも美味しい料理とお酒の力を借りて少しずつ打ち解けて、しみじみと語り合えている。そこには現代の市井に生きる人の本音がにじみ出ることがある。
その会話のすべてを再現することはできない。参加者と日を改めてオンラインで対話をした内容をお届けする。一緒におしゃべりする気持ちで読んでもらえたら幸いだ。
***サトシさん(仮名。既婚、52歳)との対話***
スナック大宮の記事。ハートマークで隠されている顔はみんな笑っている気がしました
――サトシさんはスナック大宮に初参加でしたね。関西で土木建設関係の自営業をしているというサトシさんが参加しようと思ったきっかけから教えてください。
ネットでスナック大宮の記事を見て、皆さんの顔がハートマークで隠されているけれどその表情はみんな笑っている気がしたんです。大宮さんのウェブマガジンに登録して、関西での開催を待っていました。私は半年後には晴れて独身になっているはずなので、それに向けて人とのつながりのタネをまきたいと思っています。もちろん、男友だちも欲しいです。
――「半年後には晴れて独身になる」というあたりが気になりますが、スナック大宮の感想から聞かせてください。
初参加なので酒も飲まずにおとなしくしていましたが、みなさん楽しんではるなあと思いました。近くに座った方といろいろ話せるので、寂しい思いをする心配はまったくありませんね。「あの人としゃべってみたいな」と思った女性もいましたが、席替えをしてもうまく近くには座れず、話すことはできませんでした。
――そうだったんですね。主催者の僕に耳打ちしてくれたら、近くに座れるように配慮しますよ。
ありがとうございます。次回はそうします! その頃にはちゃんと離婚できればいいのですが……。
男尊女卑的な考えの自分。妻に対して感謝の言葉を口にしたことは一度もありません
――結婚生活は長いのですか? 奥さんはどんな人なのでしょうか。
私は高校を出てからずっとこの仕事をしています。通っていたスナックのホステスさんだったのが妻で、客として知り合って付き合うようになり、31歳のときに結婚しました。私たちは同い年です。20歳の娘と、来年3月で高校卒業予定の息子がいます。
妻は子どもが小さい頃から家で酒をたくさん飲むようになり、夜に私が仕事から帰ってくるとすでに目が座っています。そして、日常生活で溜まっている鬱憤をウワーッとぶつけてくるのです。私は「明日も早いから寝るわー」と相手にしていませんでした。
今は私だけ実家に戻って母と暮らしています。ローンが残っている自宅は子どもたちに譲るつもりで妻に渡して、ローンも私が完済するつもりです。そのことを伝えたら、息子の高校卒業を見届けたら離婚届にハンコを押してくれることになりました。
――最初は仲良かったんですよね? いつから気持ちが通わなくなってしまったのでしょうか。
結婚して10年過ぎた頃からですね。お互いに小さな不満が積もりに積もり、会話がなくなってしまいました。もちろん、私にも反省点があります。男尊女卑的な考えが強くて、「妻」ではなく「嫁」感覚だったことです。働いて養っているのだから文句はないだろう、と。妻が作った食事にケチをつけるようなことはしませんが、感謝の言葉を口にしたことは一度もありません。我ながら、愛想のない夫だと思います。
私が1を言うと10返って来るようなキツイ性格の妻。会話をする気になれません
――夫婦と言えども他人なので、「おはよう」や「ありがとう」の言葉を交わすことは大事ですよね。
妻は誰かに相手にしてほしいのでしょう。それはわかっているのですが、私が1を言うと10返って来るようなキツイ性格でもあるので会話をする気になれません。妻はコンビニでパートをしていたのですがコロナをきっかけに辞めることになってしまい、その後は更年期がひどくなってますます酒に溺れるようになりました。私はもともと仕事人間なので、平日は早朝から現場に行き、休みの日も事務所で書類仕事をしています。触らぬ神に祟りなし、だと思ってやってきましたが、子どもを育て終えたのですっきり別れたいです。
――サトシさんよりも奥さんのほうが苦しそうですが、夫婦関係の修復は難しそうですね。来年、無事に離婚できたら、また誰かと一緒になりたいと思いますか?
はい。でも、今度は我を通したらあかんと思っています。男尊女卑な考えは捨てて、相手の女性の立場や環境を一番に考えてあげたいです。私は仕事の現場があるので遠くに引っ越すことはできませんが、それ以外のことは多くを求めません。酒に溺れない女性とならばぜひお付き合いしたいです。
*****
親や配偶者などの「すごく近くて親しい相手」にも感謝の言葉を伝える。それが練習です
以上がサトシさんとの対話内容だ。サトシさんは「男尊女卑的な考えは捨てる」と明言しているが、生まれ育ちから現在に至るまで浸みついた考え方や立ち振る舞いを変えるのは実際にはかなり難しいと思う。おすすめなのは、親しい相手にも言葉を惜しまない習慣をつけることだ。
例えば、一緒に生活している母親に対して。家事などをしてもらったときに、「ありがとう」と言っているだろうか。自分が使った食器などはキレイに片付けているだろうか。水臭いと照れくさがっているうちは今後の改善も期待できない。また、今の妻との離婚手続きを進める際にも、20年間におよんだ結婚生活と子育てについての感謝を言葉にして伝えたほうが良いと思う。面と向かうのが怖いのであれば手紙を渡してもいいだろう。
一番大事にするべき相手をちゃんと大事にする。いま、このときに。その練習をしていればサトシさんも足元から少しずつ変わっていける気がする。