不正調査問題で昨年の実質賃金が下方修正されたが、それによる影響は
厚生労働省は23日に毎月勤労統計の不正調査を受け、再集計した修正値を公表した。それによると、2018年の実質賃金は前年同月の伸び率が9月を除き、10か月間で下方修正された。
厚労省の発表データによると、再集計後のデータで実質賃金がプラスだったのは、3月の0.5%、5月の0.6%、6月の2.0%、7月の0.3%、11月の0.8%となっていた。修正前でもこの5か月の数値はプラスとなっていたが、伸び率そのものは10か月分で低下した。
特に5月と6月は従来の公表値では1.3%、2.5%と高い伸びを示していた。このうち6月分については速報値の段階で、2.8%増となり、1997年1月の6.2%以来21年5か月ぶりの高い伸び率を記録したと報じられていた。しかし、それが確報値で2.5%に修正され、さらに今回の修正では2.0%に修正された格好となった。
実はこの2018年6月の実質賃金の数字があまりに高かったことが疑問視されて、今回の不正発覚に繋がるきっかけになったともいえる。
昨年、9月29日付けの西日本新聞によると「1月に統計の作成手法を変更した影響で数値が高めに出ていることや、公式統計値より実勢に近い「参考値」を十分に周知できていない現状を踏まえ、公表資料の拡充や発表手法の改善を検討する。公式統計値の補整はしない方向。有識者らが公的統計の在り方を検討する政府の統計委員会(委員長・西村清彦政策研究大学院大学特別教授)に同日報告、了承された」とある。
ところが、その後も同統計の正確性を疑問視する声が根強かったため、総務省は独自の分析作業を継続。調査対象としている事業所の従業員規模ごとの数値を精査したところ、500人以上の大規模な事業所群で不自然な数値の上振れが見つかり、同12月10日に厚労省側に照会した。厚労省側は同13日、統計委の西村清彦委員長(政策研究大学院大学特別教授)も交えた非公式会合で、東京都の500人以上の事業所で抽出調査をしていたと「告白」した(1月15日付西日本新聞)。
毎月勤労統計調査では、500人未満の事業所については対象事業所を厚生労働省がサンプリング(抽出)して実施しているが、500人以上の事業所は「全数」調査することになっていた。しかし「実は、全数調査じゃない」ことが判明したのである。
全数調査をしていなかったことが大きな問題となっていたが、もうひとつ大きな問題が発生していた。2004年以降は本来全数調査するはずの東京都の500人以上の事業所について、およそ3分の1の事業所だけを抽出調査していた。そうであれば、それを本来の実数値に近づけるためには復元処理が行われるべきであったが、それが行われていなかったのである。2004年から2017年までの東京都の500人以上の事業所の実質賃金が低めに算出されたままとなっていたのである。
2018年に統計の作成手法を変更した際に、東京都の500人以上の事業所について抽出調査を続けた上でその結果を復元して、実態に近づける処理が行われていた。同時に2017年以前の分も修正していれば前年比には問題はなかったはずであったが、2017年は復元処理が行われない数字、2018年は処理が行われた数字を使った結果、高い伸びの数字となってしまっていたのである。
今回の毎月勤労統計の不正調査問題については、東京都の500人以上の事業所が実数調査ではなかったこと、そして復元処理が行われなかったこと、さらに2018年は復元処理したものの、2017年は処理していない数字と比較してしまったことが問題となる。
この統計は雇用保険や労災保険の給付額計算の根拠となっていたことから、雇用保険などの差額をさかのぼって支給することによる追加の支給額に加え、その事務にかかる費用なども含め全体の費用は合わせて795億円に上るとされている。これはこれで大きな問題ではあるが、それでは今回の不正調査問題で昨年の実質賃金が下方修正され、それにより金融市場などにどのような影響が出ると予想されるのか。
すでに23日に再集計した修正値が公表されていたが、これにより株式市場などに大きな影響を与えたわけではない。むしろ市場では昨年6月の伸びが異常ではとの認識もあったとみられる。それぞれの実感として、それほど賃金は上昇していないと認識されていたのではなかろうか。
これによって金融市場参加者の景気や物価に対する認識が大きく変わることもないとみられる。日銀の2%の物価目標の達成は無理、景気はすでに後退期にさしかかっているとの認識が現状、強まりつつあり、今回の修正値は結果としてそれを追認させるものと捉えられているのではなかろうか。