ハマス「奇襲攻撃」でイスラエル軍報復 現場の今 ガザで子どもや女性への支援続けるNGO現地代表に聞く
パレスチナのガザを実効支配するイスラム組織で政党の一つハマスによるイスラエル側への攻撃とイスラエル軍による報復攻撃で、これまでに双方合わせて1100人以上の死者が出ている。
作戦は現在も遂行中で、今後、ガザでの地上戦に発展すると、1万3千人以上の死傷者を出した2014年のガザ侵攻以来の混乱となる。
今回、ハマスが、イスラエル政府によって建設されたガザ全体を囲う壁やフェンスを破壊しイスラエル側に侵入し、市街地で大規模攻撃を行ったことに驚きの声が広がった。
以前、筆者も訪れたガザ北部の「エレツ検問所」は堅牢な軍事的施設だが、現地SNSの発信ではハマスが瞬く間に占拠し、突破していく様子が収められていた。
市街地での戦闘では、軍人だけでなく、民間人も含め殺害や拉致が行われた。
イスラエル救助隊によると、野外音楽イベントの会場では少なくとも男女260人の遺体が見つかった。突然の攻撃で逃げ惑う人々の様子や、恋人同士が引き裂かれ、男性が拘束、女性がハマスと見られる男たちに連れ去られる様子を記録した映像もSNSで世界に伝えられた。
一方、ガザではイスラエル軍の空爆により団地やトンネル、モスク、ハマス幹部の住居などが破壊され、子ども20人を含む400人以上が死亡した。「ガザにはどこにも安全な場所はない」そう呟き、自らの子どもを守るのに懸命なガザの女性たちの声も届く。現地からの発信では空爆はいまも続く。
ハマスによる大規模な奇襲作戦の背景は何なのか。今、現場で何が起きているのか。そして、私たちに何ができるのか。現地でパレスチナ難民の女性や子どもたちの支援を続けるNGO、JVC・日本国際ボランティアセンターエルサレム事務所現地代表の木村万里子さんに緊急でインタビューをした。
堀)
まず現地で何が起きているのか、ガザ、そしてイスラエル国内さまざまな情報が飛び交っていますが、どのようにご覧になってますか。
木村)
こちらも現地の朝6時半ぐらいにいきなり突然ですね、ガザ地区からイスラエル側にロケット弾が200発、いやそれ以上を越えるロケット弾が発射されまして、空襲空襲の結果、警報もずっとサイレンも鳴るような状況でした。
ガザ方面からロケット弾が飛んでくると、大体イスラエル側はそれをキャッチして迎撃するんですね。それで結局、そのロケット弾が空中で爆発して破片が飛び散るんですけれども、そういう破片が飛んでくる可能性、危険性があるので、安全な建物の中に逃げるようにという警報が続いていました。
堀)
今回はガザを隔離するために建設されたフェンス、これが破壊されて、ハマスの戦闘員がイスラエル国内の各市街地で戦闘を開始するという事態になりました。これまでのロケット弾によるハマスの攻撃とは違うと思うのですが、この辺はいかがですか。
木村)
そうですね。そこの事実に関しては非常に皆さん、私も含めて驚いている状況です。今までやはりなかった状況の一つですので。これまでは、ハマスがロケット弾をイスラエルに向けて発射するというのが時々発生する状況だったんですけれども、何らかの手段でイスラエル側に侵入してイスラエル兵士を人質にとってということは、かつてなかった出来事ですので、かなり皆さん警戒を強めているという状況ではあります。
結構周りの人たち、私自身も突然の出来事だと驚いています。前兆もなく、いきなり攻撃されたという思いでいるんですけども、ただ、よくよく考えてみると、パレスチナ西岸地区の各都市に対する、それはジェニンだけではなくて、ヘブロンとかナブルスとか各地で、ユダヤ人入植者からのパレスチナ人に対する攻撃というのは続いていて、たくさん犠牲者が出ていた。パレスチナ側も、もう我慢の限界が来るんじゃないのかと予想はしていた方もいらっしゃいました。
結構、今のパレスチナの状況はだんだんだんだん悪くなっているというか、犠牲が多くなってきてるということはありましたので、今回の急襲は驚きではあったのですが、よくよく考えるとそういったことが背景にあり、説明がつくなという思いです。
堀)
一方で、そうしたハマスからのイスラエル国軍側への攻撃を受けて、直ちにイスラエル空軍やイスラエル国軍による攻撃、報復攻撃がガザでも行われ、これまでに民間人を含む多くの死者が出ています。ガザではJVCが支援も続けている地域ですけれども、現状どうでしょうか。
木村)
私たちもガザで20年近く一緒に活動しているパートナー団体やスタッフなどのことがとても気になって、随時、安否状況を確認している次第です。昨日の夕方「状況はどう?みんな大丈夫?」とチャットでやり取りをしたのですが、連絡の最後に「今日もちゃんと眠れるといいね」って私からメッセージを送ったんですね。現地のパートナーだったスタッフに。そしたら、この返信に「私もそう願っているけれど、もう無理だと思う」と返事が来て、どう返していいか分からなくなってしまって。「ステイセイフ、安全にね」という言葉しか返すことができませんでした。
ガザの人たちは今回、もちろんこのこういったことが初めてではないですし、毎回毎回起こるたびに結局犠牲になるのは一般市民。それはパレスチナ側もイスラエル側もそうですけれども、やっぱり尊い一般市民の命、特に女性や子供たち弱い立場の人々が犠牲になることが多いので、ハマスがロケット弾を撃った後の状況、何が起こるかっていうのは、皆さんも想像がつくんですね。
特に今、イスラエル側が電気の供給をストップしてしまっているので、電気も使えないですし、インターネットもできないっていう状況で連絡を取るのも大変な状況なので、そこが気がかりです。
特に私たちの知り合いでも、ガザとイスラエル側の国境近くに暮らしている人もいます。彼女も避難すると言っていました。
堀)
2014年以来の地上戦が開始されるのかというのが今後の焦点ですけれども、イスラエルのネタニヤフ首相は「ハマースを全面的に壊滅させる」、「すでに戦争状態にある」という強い声明を発表しています。今後のさらなる被害拡大が懸念されます。
木村)
ハマス側もこういった攻撃をするときには、攻撃名をつけるんですけれども、それに呼応するようにイスラエルは反撃の名称をすでに昨日の時点で発表しました。堀さんがおっしゃるようにネタニヤフ首相が正式に「これはもう戦闘状態である」ということで、予備役兵も含めて沢山の兵士を投入してさらなる攻撃の準備を進めています。私たちも見守りながら情報収集を進めているところです。
この状況が続きますと、やはり経済的にも困窮な地域で、さらにまた困窮が進んでいく。私たちがサポートしている子どもたちの栄養状態もさらに悪化していくという悪循環です。幸い戦闘がすぐに終わったとしても、やはり復旧するのにまたいつものとおり時間がかかることですし、そこの辺がまたさらに懸念されるところではあります。
堀)
イスラエル側にハマスが侵入して人質を取って民間人も殺害され、その様子が映像に記録され世界に伝えられました。「イスラエルを支援、パレスチナ憎し」という言説も目にします。一方で、そもそもが非常に非対称的な関係でもあり、圧倒的な軍事力で一方的な占領を続けてきたイスラエル側の問題からも目をそらしてはいけないと思うのですが、実際、今回の衝突に至る背景というところを木村さんから少し解説いただけませんか?
木村)
はい、わかりました。そうですね大体日本では何かが起こった時に、起こった事実がメインで報道されることが多いと思うんですけれども、そういう意味では今回もガザに拠点を持つイスラエル組織ハマスから攻撃が仕掛けられたということは事実ではありますけれども、攻撃をしかける背景というのがありますので、その点をちょっと簡単にお話ししたいと思います。
大きく分けて2つあるかなと思っていまして、一つはですね。ヨルダン川西岸地区、パレスチナの一部ではありますけれども、そのヨルダン川西岸地区で去年あたりからイスラエルからの攻撃というのが非常に増えてきて、犠牲者も現時点で200人近くの方が亡くなっているという状況が発生しています。
ヨルダン川西岸地区のジェニンというところにある難民キャンプをイスラエル軍が急襲して大勢の方が犠牲になるいうことも起こりました。そういったイスラエルによる相次ぐ攻撃に対する報復ということが一つ背景として挙げられます。
もう一つがですね、これが大きなきっかけにはなったのではないかと思うのですが、エルサレムの旧市街に「神殿の丘」というエリアがあります。そこはもともとユダヤ教、キリスト教、イスラム教、それぞれの宗教の聖地となっています。
その「神殿の丘」に訪問することは誰でもできるんですが、敷地内に「アルアクサモスク」や「岩のドーム」など、イスラム教の聖地と呼ばれる場所がありまして、その中に訪問してお祈りする礼拝するということは、イスラム教徒の特権として認められていて、ユダヤ教、キリスト教などその他の宗教の人たちがその敷地内で礼拝を行うことは禁止されているんですね。
ただ、実は10月初めに、5000人を超えると言われているユダヤ教徒がその敷地内に入って礼拝とおぼしき行為をしたということで、それに対してイスラム教の聖地を荒らしたとハマス側が捉えて攻撃を仕掛けたということが一部報道されていました。
「アルアクサ」というのは、イスラム教徒にとってとても大事な聖地なので、そこを荒らされたとなると、それがトリガー、引き金になってこういったことが起こります。私がエルサレムに駐在して2年半、3年近くになりますけれども、何度かこうした緊張を見てきました。
堀)
一方で、私もJVCの皆さんの活動を追って2017年、ガザに入域し市民の皆さんと話をする中で、武装組織、政治組織としてのハマスとガザの市民の皆さんは、決して一体ではないっていうことも感じました。やはり、いろいろな形で大きな力によって自分たちの暮らしを抑えなくてはならない現状に対しての苦しみというものも、ガザの市民の方々の言葉の端々に感じ取ることがありました。
ですので、やはりそういった意味でハマスによる今回の攻撃と、パレスチナの市民、ガザの市民の皆さんが置かれていることというのは同一視してはいけないのではないかなという思いもあるんですね。
その辺は木村さんは、現地で市民の皆さんと交流する中ではどんなふうに見ていらっしゃいますか?
木村)
そうですね。必ずしも皆さん、ハマスのやり方というか、ロケット弾での攻撃を仕掛けるというやり方に関しては、賛否両論がもちろんあります。「自分たちのことをハマスが代弁してくれている」と感じている市民もいますけれども、大体私たちが接しているガザの人たちは、「もう本当に早くこの状況を無くしてほしい」、「早く平穏無事に市民生活行われるようにしてほしい」というのが一番の願いだと伝わってきます。
結局、こういうことが起こると、今回もイスラエル側からのガザ空爆によって多くの建物が破壊されて、200人を超えるガザ市民がすでに犠牲になっています。こういったことの繰り返しになるので、ハマスのやり方に関してはやはり疑問視している市民も多いのではないかなと感じています。
堀)
もう少し、市民の皆さんの暮らし、ガザの皆さんの現状についてつながるようなお話を伺ってよろしいですか?
木村)
私もここに来てからもう3年近くたちますが、何度も空爆を経験しました。2021年5月の空爆、今年6月にもありました。そうした攻撃の度にですね、戦闘が終わった後、ガザの市民の人たちが生活を立て直すっていうのは非常に大変な状況であるということは承知しています。
堀)
壁やフェンスで封鎖されて、中に入ってくる食料なども非常に限られているという状況で、子供たちの多くが栄養失調に悩んでいますよね。JVCの皆さんは、そこで栄養学に関する知識をパートナー団体の皆さんと一緒にお母様方に伝えて回って栄養改善につなげるという活動もされてきたと思いますけれども、現状でのガザの市民の皆さんの課題はどんな点でしょうか?
木村)
私たちは栄養改善の活動をずっと続けてましたが、年々、やはり経済的に苦しくなっているというのが現状です。これまでは栄養価の高い野菜と少し鶏肉を使ってスープを作りましょう、など、調理実習をやったりしてきたのですが、だんだんと厳しくなってきて、鶏肉、お肉は高くて買えないから野菜だけでという状況になり、半年ぐらい前からは、野菜も買えないくらい困っている家庭もありました。
ですので、私たちもそういった状況に応じて、栄養価の高い調理をどう工夫すればいいのか、野菜などは私たちの方でも提供した方がいいのか、いや、その野菜を育てるための家庭菜園みたいなプロジェクトをやったらいいじゃないか、など、検討を重ねてきました。
だんだんと状況が変わっていって、さらに困窮度が増していく中で、私たちは限られたリソースでどうやって工夫して現地のお母さんたち、子供たちのより良いサポートにつなげていくのかというのを、パートナー団体の人たちと随時、募金などを集めながら進めているという状況です。
堀)
そうやってさまざま模索を続けてきた中で、例えば今後、大規模な地上戦などが行われたりすると、本当に生活の根底が壊されてしまう。そうしたことに対しての懸念というのは、本当に今、差し迫った問題として感じています。
木村)
そのほかにも、今後の支援ニーズとしては、やはり医療。私たち自身はレスキューをするという専門性はないんですけれども、やはりそういった活動をしている人たちにとっては、医薬品ですね。そういった物資も足りてない。特にガザが封鎖されてしまうと、外からの物資も届きにくいという状況にはなりますので、そうした医薬品の支援を過去にしたことがあります。
またトラウマですね。毎回の空爆で、特に子供たちですね、小さな子供たちが夜も眠れず、空爆が終わってからもずっと攻撃が続いているイメージがついてしまって、夜も眠れないなど、小学校3年生ぐらいになっても、おねしょをしてしまったり、そういったことが今回も懸念されます。そうしたお子さんを抱える親へのサポートなども今後の支援として考えられると個人的には思っています。
そういった特に親にサポートですとか、そういったことも支援の内容としては考えられるのかなというふうに個人的には思っております。
堀)
バイデン政権もイスラエルへの哀悼の意と、そして支援というのを直ちに表明しました。自由主義諸国もイスラエルへの哀悼の気持ちをさまざまな形で示し、一方、イスラム社会ではイランやそのほかの国々でハマスへの支援の声が上がり、まさに世界が分断、対立の真っただ中にさらにアクセルを踏み込むんだということも感じられて言葉がありません。
こういう状況に関しては、木村さんは現場の市民を支援する目線としてどんなことを感じられますか?
木村)
そうですね。少し話がずれてしまうかもしれないですけれども、皆さん御存じのように今年は「オスロ合意から30年」という節目の年であったんですね。
それで私も現地の人たちがオスロ合意のこの30年間を振り返り、今の状況をどう思ってるのか関心がありまして、パレスチナで平和活動をしているNGOの方にインタビューさせてもらったことがあるんですね。
非常にその方の言葉が印象に残ってるので、引用させていただきます。ベツレヘムの「Wi'am」というNGOで活動を続け、地区の子どもたちに平和を教えたりとか、そういった活動を続けていらっしゃる事務局長のゾウグビさんとお話をした時に言われた言葉です。
こういった分断が進むとパレスチナが悪いんじゃないか、イスラエルが悪いみたいな形でこう二分化されてしまうということが非常に懸念をしていると。それで、どちらが良い悪いということはさておき、何が正義かではなく、何が反平和なのか、そういったところをぜひ耳を傾けて、自分でも考えてその反パレスチナなのか、反イスラエルとかそういうことではなくて、反正義に対してみんなで立ち上がってほしいと思います。
堀)
私たちは今後何をするべきか。一人一人の日本人は今この状況で何ができるのか、木村さんいかがでしょうか?
木村)
そうですね。一つは、ずっと関心を持って追い続けていただきたいです。やはり日本ですと、何か出来事が起こった時に、直後はたくさんの報道があるのですが、大体、何か災害などでも2、3日報道されてそのまま下火になっていく状況が続くと思っています。
しかし、その報道がなくなったからといって、現地の状況が安定したり、改善されているかというと、決してそうではないです。
私たちNGOは常にその現場で行動して、現地の人たちの声をさらに届けていくべく、私たち自身も発信を続けていきたいと思いますので、ぜひ、パレスチナで活動を続けている団体は私たちを含めて6団体ぐらいありますので、JVCも含めて他の団体の活動の様子、現状の発信など、是非そういったところに注目していただければと思います。
そして、戦争で被害を受ける市民の暮らしはこれからさらに大変だと思いますので、ぜひそういった方たちの復興や生活の改善、状況の改善を目指して、息の長いご支援をお願いできたらと思っています。