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お笑い賞レース「決勝進出者の発表」もエンタメ化、敗退の悔しさをこらえて笑わせる芸人の格好良さ

田辺ユウキ芸能ライター
『キングオブコント2023』の「決勝進出者の発表」で司会を担当した山里亮太(写真:アフロスポーツ)

勝ち名乗りを受けて笑みを浮かべる姿、敗退して唇を噛む表情。

ビッグなお笑いの賞レースは今や、本戦だけではなく「決勝進出者の発表」の場やその記者会見の様子までネットなどで配信されるようになった。そして熱心なお笑いファンはこの「決勝進出者の発表」を観るのが賞レースの定番の楽しみ方に。

配信の充実で「決勝発表」が一つの番組として成立するように

特によく知られているのが『M-1グランプリ』の「決勝進出者の発表」だろう。

準決勝を戦い終えたばかりの芸人たちが集められ、所定の場所に立ちながら「決勝進出者の発表」を聞くのはおなじみの光景。1年間、『M-1』の決勝の舞台を目指してネタを磨き上げてきた芸人たちが見せる喜びや悔しさは、多くを語らずとも非常にドラマチックに映り、心に訴えかけてくるものがある。また、決勝進出者の名前が次々と呼ばれていくときの独特の緊張感は、当事者の芸人はもちろんのこと、視聴者であるお笑いファンにとってもたまらない瞬間と言える。

近年は配信コンテンツの充実もあり、お笑いの賞レースの「決勝進出者の発表」は一つの番組として成立するようになった。つまりショーとしてエンタメ化したのだ。

『キングオブコント2023』の「決勝進出者の発表」で山里亮太が敗退者に呼びかけたこと

9月27日におこなわれた『キングオブコント2023』の「決勝進出者の発表」の場では、さらに興味深い光景が繰り広げられた。

コントのナンバーワンを決める同大会の準決勝を戦ったのは34組(欠場したロングコートダディは除く)。そのなかから、蛙亭、カゲヤマ、サルゴリラ、ジグザグジギー、ゼンモンキー、ニッポンの社長、ファイヤーサンダー、や団、ラブレターズ、隣人の10組がファイナリストとなった。名前が呼ばれたとき、思わず大きな声をあげる者、ガッツポーズをする者、涙ぐむ者などさまざまな反応があった。一方、準決勝で散った24組の様子もやはり見逃せなかった。

いろんな感情が入り混じるなか、司会者の山里亮太(南海キャンディーズ)が敗退者に向けてこのように呼びかけた。

「負けてしまったけども、なにかこれだけは言い残したいことがある方。難しいパスを出します、挙手で!」

24組からは「ハハハ」と絞り出すような笑いが起こった。そしてすぐに、そいつどいつが名乗り出た。市川刺身が眉間にしわを寄せて手を組み、松本竹馬がその肩を叩いてなにかを耳打ち。そして「あー、『キングオブコント』」(市川刺身)、「負けましたけど、俺たちは」(松本竹馬)と口にしたところで、市川刺身が「余裕〜」とピース。しかし松本竹馬も同じくピースして前に出たことから、市川刺身が「かぶってるよ!」と頭を叩いた。

このやりとりは大爆笑とはいかなかったが、落ち込んだ気持ちを押し殺すようにして「余裕〜」とピースする二人の姿に、観る者も自然と笑みがこぼれた。山里亮太の「さすがです」「そいつどいつ、ハードルをやや下げてくれました」のフォローもとても温かかった。

ななまがり・森下直人はダウンタウン・浜田雅功の名前を間違えて大爆笑

続いて、ななまがりの森下直人は「わたくしですね、パラレルワールドから来ました、浜田こうすけです」と自己紹介。その場にいる全員の頭上に「誰のこと?」とハテナマークが浮かんだが、森下が、『キングオブコント』の司会者であるダウンタウンの「浜田雅功(まさとし)」のことを「浜田こうすけ」と勘違いしていたと分かると、芸人たちが手を叩きながら「えーっ」と総立ちでツッコミ。大御所の名前を間違えた森下に、相方・初瀬悠太が「お前、なにしてんだ」と大声を張り上げると会場がさらに沸いた。

敗退者による「言い残したいこと」の大トリは、レインボーのジャンボたかお。ステージへ上がって「みなさん素晴らしかったです。正直、感動しました。そしてめちゃくちゃ悔しいです。来年、ある方もあります。今年頑張って欲しい方もいます。みなさんを良かったら応援させてもらって良いでしょうか」と中島みゆきの「ファイト!」(1983年)を熱唱。全員が拍手でその歌を受け止め、一体感が生まれていた。

ちなみに山里亮太は6月22日にひらかれた『第44回ABCお笑いグランプリ』の「決勝進出者の発表」の場でも司会をつとめ、同じように「言い残したいこと」を敗退者たちから募った。このときも、ソマオ・ミートボール、フースーヤがギャグを披露するなどして爪あとを残した。

「なにかありますか」とふられたら、悔しさをこらえて笑いをとる芸人たち

『キングオブコント2023』『第44回ABCお笑いグランプリ』であらためて気付かされたのは、「なにかありますか」とふられたら、敗退した悔しさをこらえて立ち上がり、笑いをとろうとする芸人たちの格好良さである。

私たちも普段、仕事をしていたら悔しいこと、落ち込むことはたくさんある。気持ちをすぐに切り替えることなんてできない。芸人も、賞レースで敗れてすぐに切り替えるなんてなかなかできないはず。それでも「笑わせること」が仕事である以上、求められればすぐにそれをやる。格好良いが、過酷でもある。だからこそドラマチックなのだ。「決勝進出者の発表」のおもしろさはもしかすると、これらが詰まっている部分なのかもしれない。

賞レースごとに「決勝進出者の発表」の雰囲気は異なる。それぞれの芸人たちが結果をグッと噛み締める「発表」も、『キングオブコント2023』『第44回ABCお笑いグランプリ』のように笑いへと落とし込む「発表」も、どちらも見ごたえがある。

お笑いの賞レースは、以前と比べて予選の注目度も格段に上がった。『M-1 アナザーストーリー』など舞台裏のドキュメンタリーも人気に。そして「決勝進出者の発表」も番組として定着してきた。賞レースは今後ますます、すみずみにあるコンテンツのエンタテインメント化が進むのではないだろうか。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga. jp、リアルサウンド、SPICE、ぴあ、大阪芸大公式、集英社オンライン、gooランキング、KEPオンライン、みよか、マガジンサミット、TOKYO TREND NEWS、お笑いファンほか多数。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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