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サプリ健康被害と対応に大きな違い「命の差別しないで」 ワクチン後遺症患者が厚労省に徹底調査を要請

楊井人文弁護士
新型コロナワクチン後遺症患者の会の要望書を受け取る濵地雅一厚労副大臣(筆者撮影)

「私たち新型コロナワクチン接種後に健康被害にあっている患者の命や健康は重さが違うのでしょうか」

 紅麹の原料を使ったサプリメントの問題で発覚直後から被害拡大防止策が取られている一方で、ワクチン接種後の健康被害については適切な対応がとられてこなかったとして、「新型コロナワクチン後遺症患者の会」の代表者らが4月9日、厚生労働省を訪れ、徹底した原因究明と被害拡大防止策などを求める要望書を提出した。

 患者たちの「法の下の平等が守られるべきで、命の差別はあってはならない」との訴えに耳を傾けていた浜地雅一厚生労働副大臣は、「国として接種勧奨を行ったワクチンであり、因果関係が認められているものもある。皆さんが訴える問題点に真摯に対応していきたい」と話し、善処する考えを示した。

 厚労省はこれまでに、新型コロナワクチン接種による健康被害として6795件を認定。死亡した523人について接種によるものと認定し、死亡一時金等の支給を決定している。

厚生労働省に提出された「患者の会」要望書の要旨
①新型コロナワクチンの安全性評価を最優先に一旦立ち止まり、原因の究明・被害拡大防止への対策を行うこと
②裾野を広げた新型コロナワクチンの健康被害実態調査を実施すること
③社会的指標と接種歴を突合した実態調査を行うこと

コロナワクチンで被害拡大防止策とられず

 サプリメント問題では、製造元の小林製薬が初めて記者会見を行い、自主回収を発表したのが今年3月22日。厚労省の指示により大阪市が回収命令を発したのが3月27日で、政府の関係閣僚会合を経て、30日には工場の立ち入り調査が行われた。

 患者の会・代表の木村さん(会社員、奈良県在住)は、サプリメント問題では厚労省が「実態調査や被害の最小化に向けて迅速に対応されている」と評価した上で、コロナワクチンの健康被害に関しては、早い段階から26歳女性の接種後死亡例の報告(2021年3月24日)などが次々に上がっていたにもかかわらず、被害拡大防止策がなされてこなかったことを問題視。

 サプリメントと同様、ワクチンも「病気治療のための投与ではなく健康な人への投与(摂取・接種)」であり「高い水準の安全性が求められ、人の健康を損なうものであってはならない」として、徹底的な原因究明と被害拡大防止策を行うよう求めた。

健康被害認定者が訴え 「国は実態調査に舵を切って」

 要望書提出後に行われた記者会見では、会のメンバーである田村さん(30代の会社員女性、宮城県仙台市在住)からのメッセージが代読された。

 田村さんは、2021年10月にコロナワクチン接種後、指定難病の「IgA腎症」を発症。23年11月、厚労大臣からワクチンによる健康被害と正式に認定された。

 田村さんは、早い段階で日本腎臓学会がワクチン接種後の腎障害について多くの症例を報告していたのに、広く公表されていなかったと指摘。情報不足でたらい回しにされ、症状が進行してしまったという。「これ以上、私達のような健康被害者を増やさぬよう今こそ国として舵を切ってください」と実態調査を行うよう訴えている(メッセージ全文を後掲)。

予防接種健康被害制度の審査で「IgA腎症」が新型コロナワクチン接種によるものと認定されたと知らせる仙台市の通知書(左)と武見厚労相の証明書(右)。お見舞いや慰謝の言葉はなかった。(患者の会提供)
予防接種健康被害制度の審査で「IgA腎症」が新型コロナワクチン接種によるものと認定されたと知らせる仙台市の通知書(左)と武見厚労相の証明書(右)。お見舞いや慰謝の言葉はなかった。(患者の会提供)

厚労省の調査「実態反映していない」 やり直し求める

 実は、厚労省は、新型コロナワクチン後遺症に関する実態調査を形の上で行ってはいる。

 厚労省が2023年から国立国際医療研究センターの大曲貴夫氏を中心とした研究班に委嘱している「新型コロナワクチン接種後の遷延する症状に関する実態調査」だ。これまでに3回報告書が提出されている(第1回第2回第3回)。だが、調査対象とした約470の専門的な医療機関のうち、回答に協力したのは100未満にとどまっている。

 患者の会・副代表の神谷さん(看護師、愛知県在住)は、同会に参加する患者509人のうち約8割が専門的な医療機関の紹介を受けられず、たどりつけていなかったとの調査結果を公表。厚労省研究班の調査は実態を反映しているとは到底いえないとし、裾野を広げた大規模調査を改めて行うよう求めた。

 前出の田村さんも、厚労省研究班の調査対象に入っていない可能性が極めて高いという。

厚労大臣が先週コメントした内容

 患者の会は、コロナワクチン接種による死亡者以外の健康被害者やその家族で構成される任意団体で、約1000人が登録している(同会サイト)。患者への情報発信や助言、自治体等への要望、アンケートや情報公開請求などによる実態調査を行っている。

 同会は先月下旬、サプリメント問題を受けて「対応の違いに深く傷つき、悲しい思いをしています」とコメントを発表していた。

 先週、武見敬三厚労相はこのコメントについて所感を求められた際、「新型コロナワクチンでは、紅麹関連商品と異なり、接種後の副反応が疑われる症状の報告について、法律に基づく報告義務を課し、報告された情報を審議会で継続的に評価した上で、接種を継続すべきと判断されている」などと従来の立場を説明するにとどまっていた(4月2日記者会見)。

厚労省の健康被害認定を受けた田村さんのメッセージ全文

「患者からの願い」

 新型コロナワクチン後遺症患者の会の田村と申します。
 本日は残念ながら会場に参加することが叶わなかったのですが、コロナワクチン接種後に腎臓病を患うこととなった一患者、当事者としての想いをお伝えさせてください。

 まず知っていただきたいのは、紅麹を原料としたサプリメントだけではなく、新型コロナワクチン接種後の健康被害でも多くの腎障害が報告されている事実です。それにも関わらず新型コロナワクチンの健康被害については注目されていません。
 「一人でも健康被害者が出たら投与を中止し、実態の調査を行う」。新型コロナワクチンでは、何故かそのような原則が守られず、未だ報道もされていないことを不思議に思っていました。そして今、少しずつ怒りと悲しい思いがこみ上げてきています。

 私は2021年秋にコロナワクチン2回目を接種した後から肉眼的血尿をはじめとする症状が現れました。明らかにワクチン接種後に出現した症状でしたので、県のワクチン副反応相談コールセンターや受診した病院にもその事実を伝えました。長期に及ぶ入院や手術の末、国の指定難病である「IgA腎症」と診断されました。国の勧めるワクチンで健康を失ってしまった事実は受け入れがたく、裏切られたような気持ちは今も消えません。

 当初は、入院で出会った他の患者さんの中にも、私と同じようにワクチン接種によって健康被害を生じた方がいましたし、日本腎臓学会でも新型コロナワクチン接種後の腎障害について多くの症例報告がされていましたので、コロナワクチン接種は一旦中止になり、調査がなされるだろうと考えていました。しかし、あれから3年経つ今も、コロナワクチンは「安全性に重大な懸念はない」とされ接種が続いており、コロナワクチン接種後の腎障害についての報道もありません。

 今回、紅麹サプリを接種した方に健康被害が相次いでいるというニュースは3月22日に全国的に大々的に取り上げられ、厚労省や消費者庁をはじめ、「国」として迅速な対応がなされていると感じます。

 一方、コロナワクチン接種後の健康被害の対応についてはどうでしょうか。
 私は、2022年4月に国に予防接種健康被害救済制度の申請をしました。そして厚労省に認定されたのは、実に申請から1年7カ月後が過ぎてからでした。患者の会の会員のアンケートでは私以上に日数がかかった患者も多くいます。
 厚生労働省大臣は、私達コロナワクチン接種後の健康被害者についても「迅速」に救済すると繰り返し言っています。しかし、健康被害に遭ってから認定されるまでのこの2年近くもかかった期間は、果たして「迅速」と言えるのでしょうか。
 私は、今回の紅麹の健康被害の件で迅速に動いている国の対応を見て、平等とは言い難い対応に、患者として強い憤りを覚えます。私たち新型コロナワクチン接種後に健康被害に遭っている患者の命や健康は重さが違うのでしょうか。世間に情報を出すスピードの早さ、実態調査に向けての迅速な対応を見ても不平等感がぬぐえません。

 また、ワクチン接種後の腎障害について言えば、2021年7月の早い時点で日本腎臓学会からコロナワクチン接種後の健康被害の調査結果が報告されています。
 もしこの事実が、接種の推進と同じ熱量で国から世間に広く公表されていたなら、私はコロナワクチン接種自体について考え直す機会を得ていたはずです。そして、ワクチン接種後に肉眼的血尿という症状があらわれたらただちに「腎臓内科」を受診するという行動が取れていたことでしょう。
 国がこのような健康被害に関する情報を平等に周知してくれなかったことで、医師もワクチンのせいだと認めてくれずに病院をたらい回しにされました。そのために適切な治療にたどり着くまでに時間がかかり、症状が進行してしまったという事実があります。これは決して許せることではないと考えています。

 私は患者として、自分のような健康被害者をもう一人も出したくありません。

 最後になりますが、今回の紅麹の健康被害の件も、コロナワクチン接種後の健康被害の件もわからないことが多い中、健康被害に遭われ、今も日々治療・療養にあたられている皆様に心よりお見舞い申し上げます。どうか皆様が健康だったころに近い日々を取り戻されますよう、同じ患者として強く願わずにはいられません。

 そして、新型コロナワクチンの安全性の評価に携わっている皆さま。
 現時点で報告されているコロナワクチン接種後の健康被害救済制度の申請数の多さ、副反応疑い報告の症例の多さにどうか真摯に向き合ってください。これは異常事態なのだと一度立ち止まり、実態調査が必要だと認めてください。これ以上、私達のような健康被害者を増やさぬよう今こそ国として舵を切ってください。

 どうか、お願いいたします。

(2024年4月9日、「新型コロナワクチン後遺症患者の会」記者会見=厚労省会見室=でメンバーが代読)

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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