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全米オープン真っ只中で、迫りくるリブ・ゴルフ移籍の「次なる波」。米メディアの論調も変化しつつある!?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

 今季3つ目のゴルフのメジャー大会、全米オープンは2日目を終え、これから週末の決勝ラウンドへと進んでいく。

 本来なら、戦いの舞台であるザ・カントリークラブ(米マサチューセッツ州)は、どんな優勝争いになるか、誰が勝つかという期待で溢れ返っているはず。テレビ中継やストリーミング放送で試合展開を眺めるゴルフファンも、優勝争いの興奮に胸をドキドキさせているはずである。

 しかし、ザ・カントリークラブにも、米ゴルフ界、いや世界のゴルフ界にも、噂やゴシップが蔓延し、暗い影が忍び寄っている。

「次なる波は必ず起こる」

 「波」とは、PGAツアーに背を向け、グレッグ・ノーマン率いる新ツアー「リブ・ゴルフ・インビテーショナル・シリーズ」へ移っていく選手たちの波のことだ。

 6月9日から11日にロンドンで開催されたリブ・ゴルフ初戦に出場した17名の選手は、すでにPGAツアーからサスペンデッド(資格停止)処分を下されている。

 だが、全米オープンを主催するUSGA(全米ゴルフ協会)は、リブ・ゴルフに出場した選手を「受け入れる」ことを決め、そのうちの15名が全米オープンに出場。ただし、その「受け入れる」は、あくまでも「今年は受け入れる」という暫定的な決定事項だ。

 そんなドタバタ劇を経て、今週の全米オープンは開幕した。だが、これで一段落したというわけではなく、選手たちのリブ・ゴルフへの流出の動きは止まらない様子である。

 リブ・ゴルフの第2戦は米オレゴン州のパンプキンリッジで6月30日から7月2日の3日間、開催される予定だ。

 そして、今週の全米オープンが終了したら、そこから先は、PGAツアーから離れ、リブ・ゴルフ第2戦に出場する選手たちの「次なる移籍の波」が必ず起こると見られている。

【米メディアの論調の変化】

 なんとかして、選手たちの流出を止めることはできないのか?移籍の「波」を止めることはできないのか?

 これまで米メディアは「なぜ、リブ・ゴルフを受けいれるべきではないか」を強調してきた。それが、PGAツアーの正当性を人々に訴える役割を果たしてきた。

 そう、米メディアは、リブ・ゴルフの経済的バックボーンとなっているサウジアラビア政府と9・11同時多発テロ事件や米ワシントンポストのジャーナリスト殺害事件との関与を疑い、テロ事件の遺族の感情をも綴り、リブ・ゴルフを選ぶことを強烈に批判し続けてきた。

 「スポーツウォッシングだ」と強調し、人々の感情に訴えてきた。

 しかし、激しい論調のそうした記事をいくら発しても、リブ・ゴルフへの移籍の最初の波は起こり、結局、PGAツアーからは、まず17名がリブ・ゴルフへ移った。

 そして、「次なる波」が起ころうとしている今、米メディアの論調は徐々に変わりつつある。

 リブ・ゴルフ批判から、「一体、PGAツアーは何をやっているんだ?」というPGAツアーへの批判の声が上がり始めている。

【PGAツアーは何をやっている?】

「移籍した選手たちをサスペンデッド(資格停止)にするだけでは、PGAツアーの対応は不十分なのではないか?」

「リブ・ゴルフの構想が現実化していったプロセスにおいて、PGAツアーの対抗処置や対応が不十分だったのではないか?」

 そんなふうにPGAツアーを責めることは、結果論のようにも聞こえるが、PGAツアーが新たなボーナス制度を次々に創設した「金には金」の対抗策以外に、最悪の事態を想定した具体策を講じていたという話は、これまで聞こえては来なかった。

 そして今、米メディアからは、こんな指摘がされている。

「今、PGAツアーの拠り所は、世界ランキングとメジャー4大会の2つしかない」

 現状では、リブ・ゴルフは世界ランキングのポイントが付与されず、対象外となっている。だから、リブ・ゴルフだけに出場し続けると、世界ランキングが下降し、今後、メジャー大会への出場が許可されるとしても、出場資格を満たせなくなる。

 そして、メジャー4大会が今後、リブ・ゴルフの選手たちを受け入れないことを決めるとすれば、それはPGAツアーにとっては、大きな拠り所となる。

 だが、あまりにも多くのトッププレーヤーたちが米欧両ツアーから去ってリブ・ゴルフへ移籍したら、メジャー4大会は、そうした選手たちをすべて締め出すことは難しいと判断するかもしれない。世界ランキングもリブ・ゴルフを対象ツアーにする可能性は否定できない。

 そうなったときに、PGAツアーはどう対処するつもりなのかを、米メディアは苛立ち混じりに問い始めている。

【次なる波】

 なぜ、それほど米メディアが苛立っているのか。その理由は、選手たちがリブ・ゴルフへ移籍する「次なる波」が、すぐそこまで来ていることを肌で感じているからだ。

 すでに、リブ・ゴルフ第2戦には、ブライソン・デシャンボーとパトリック・リードが参加する意思を明らかにしている。

 それ以外にも、まだ正式発表はされていないものの、噂やゴシップはどんどん広がっている。以前から、リッキー・ファウラーとハロルド・バーナーの名前は米メディアによって挙げられている。

 そして、英国系の複数のゴルフサイトは、さらなる選手名を明記している。そこには、メジャー4勝の大ベテラン選手ブルックス・ケプカをはじめ、コリン・モリカワ、ザンダー・シャウフェレ、ビクトル・ホブランといった20歳代の若い選手たちの名前もある

 そうした報道を受けて、ある米メディアは、さらにこう書いている。

「次なる波となる選手たちは、いの一番に自らイエスと言う勇気がなくて、最初の波で移籍した選手たちが世間から批判を受け終わるのを待ってから移籍しようとしている」

 あたかも悪者探し――全米オープンが、そんな喧騒に包まれていることが悲しく感じられる。だが、それが現実である。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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