沢尻エリカ、本気で「薬物と決別」なら女優はやめなくていい
麻薬取締法違反で逮捕された沢尻エリカの初公判が、1月31日に行われた。報道によると、公判で、沢尻は「違法薬物とは決別して生きていきたいと思っています」、「女優復帰については考えていません。影響力のある立場の人間として、あまりに身勝手な行為により多くの方を裏切り、傷つけてしまいました。代償ははかりしれず、復帰を語れる資格はないと思っています」と語ったという。
その5日前、海を挟んだL.A.では、グラミー賞授賞式で、デミ・ロヴァートが涙で熱唱し、観客から大拍手を受けている。ロヴァートは、2018年7月にドラッグの過剰摂取でL.A.の病院に運ばれて以来、公で歌っていなかった。この見事なカムバックに続き、現地時間2日(日)には、国民的イベントであるスーパーボウルで国歌斉唱を行う予定だ。
ロヴァートはこの前にも何度となく依存症からの更生を決めては負けることを繰り返しており、今回も、本当に彼女がこの戦いに勝ったのかどうかは、わからない。だが、同じ問題を抱える人が本当に多くいる中、彼女が立ち直ろうとするのを、アメリカ人は応援してあげたいと思うのである。
そんな経験をしたセレブリティは、もちろん彼女が初めてではない。最も有名な例に、ロバート・ダウニー・Jr.がいる。小学校にも上がらないうちに父からマリファナを覚えさせられ、物心つく頃にはコカイン、ヘロイン、アルコールの依存症になって刑務所入りもした彼は、保険代がバカ高くなって、事実上、雇うのが不可能な俳優になってしまった。しかし、2003年、本気で依存症からの立ち直りを決め、ハリウッドで最も稼ぐ大スターにまでなったのである。依存症と決別し、「ゴシカ」で久々のメジャースタジオ映画に復帰した時、彼は、筆者とのインタビューで、「今、僕の頭は、ドラッグにハイジャックされていない。もうあの戦いには戻りたくない」、「依存症の人は時々、ほかの誰かを苦しめているわけじゃない、死ぬのは自分だと言うが、それは間違い。影響を受ける人はほかにもいるんだ。そういうのを聞くと、腹が立つ」と語っていた。それは、彼の「新しい人生」宣言だったのだ。
「フレンズ」で国民的スターになったマシュー・ペリーも、ドラッグ依存症を克服し、2013年にホワイトハウスの麻薬取締局からチャンピオン・オブ・リカバリー賞を授与されている。また、今ではヨガ愛好家でヘルシーなライフスタイルを実践しているイギリスのコメディアン、ラッセル・ブランドも、ことあるごとにドラッグ依存症の過去を隠さずに語り、本を出版したりして、本気になれば人生を変えることは可能なのだということを示し続けている。
もちろん、日本において、違法ドラッグの使用はアメリカのようには広まっていない。だからどうしても身近な問題とはとらえがたく、病気というより悪質な犯罪というイメージが先行するのも、しかたがない。それに、今の状況で、沢尻が、女優という誰もがあこがれる華やかな仕事をまだするつもりでいると言えば批判はさらに強まるだろう。芸能界という場所にいれば、彼女の言う「薬物がつないでくれた偽りの友情」から距離を置くことも、難しいのかもしれない。
一方で、彼女は、自分も認識しているとおり、「影響力のある立場」にいる。ならば、あえてその立場を利用して、這い上がることは可能なのだということを、世の人々に見せてあげてはどうだろうか。薬物依存の経験がある人は少なくても、人生のどん底に落ちたと感じている人は、たくさんいる。また、新しい自分として人前に出ることで、同じ失敗をもう繰り返せないというプレッシャーも得られるのではないか。
今後について、彼女は公判で「病院に通い続け、治療を受ける」「現時点では決められていませんが、家族とともに考えていけたらいいと思っています」と答えている。彼女の考えているとおり、今はとりあえずゆっくりと治療に専念してほしい。今はまだ、女優を続けるか辞めるかについて語らなくてもいいし、決める必要もない。だが、本当に「薬物と決別」するなら、ぜひ、人々にポジティブな影響を与えるべく、また出てきてほしい。
誰だって、人生のセカンドチャンスを与えられる権利はある。それを立派にやりとげられれば、それはきっと、どんな映画やドラマよりもすばらしいストーリーとして、人の心に響くことだろう。もちろん、そのためには周囲の理解と応援が必要だ。彼女がそのストーリーを語れるよう、みんなで温かく見守ってあげられればと思う。