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ドイツからくも4強進出。苦戦の原因は指揮官レーヴの守備的な選択

杉山茂樹スポーツライター

6対5。9人目までもつれ込んだPK戦は、両チーム合計7人が外すという派手な乱戦となった。しかし120分の戦いはその逆。地味で、静かだった。

原因はハッキリしている。守備的な布陣でこの一戦に臨んだヨアヒム・レーヴ監督の采配にある。ドイツの基本線は4−2−3−1。4−4−2もあれば、4−3−3もあるが、ドイツの3−5−2を見たのはいつ以来だろうか。こちらの記憶が正しければ、ビッグ大会では2002年日韓W杯まで遡ることになる。

イタリアも3−5−2だ。こちらは後ろを固め、カウンターを狙う守備的なサッカーを志向するので、布陣との相性はいい。関係に齟齬(そご)はない。だがドイツのサッカーはそうではない。攻撃的な国だ。かつてはイタリアとともに、守備的サッカーに傾倒していたが、前監督、ユルゲン・クリンスマン時代から一変。イタリアと袂(たもと)を分かち、攻撃的サッカーに転じた。クリンスマンの腹心だったレーヴが代表監督の座を受け継ぐと、攻撃的な流れは加速。その最先端を行く存在になった。

レーヴは自らが作った流れを、何年前かに意図的に戻そうとした。

イタリアには、前回2012年大会準決勝で、まさかの敗戦を許していた。当時もイタリアは3−5−2で、後ろを固めてカウンターを狙う守備的サッカーでドイツに向かっていった。ドイツはその術中にはまってしまったわけだが、レーヴにはその時の苦い思い出が強烈に蘇ったのか。負けたくないという思いが、これまで積み重ねてきた信念や哲学を上回ってしまったのか。

ピッチには予想だにしなかった光景が描き出されることになった。

前戦(対スロバキア戦)で、キレッキレのウイングプレーを見せ、ドイツによい流れをもたらしたユリアン・ドラクスラーは、この布陣には適さない。収まりどころがないというわけでベンチスタートとなったことも、試合が長くなった大きな原因だ。最も期待の持てる選手をベンチに置いてまで、レーヴは3−5−2を採用した。

3バックは、イタリアの2トップ(グラツィアーノ・ペッレ、エデル)に対して、常時+1人の関係を築ける布陣だ。カウンターへの備えは、この方がいいのかもしれない。だが、キチンとした攻撃はできない。サイドアタッカーは各1人(右ヨシュア・キミッヒ、左ヨナス・へクトル)。攻撃は単独になるので、各2人だったこれまでとは異なり、複雑な絡みはできない。高い位置に深々と侵入することもできない。ドイツのお家芸とも言えるマイナスの折り返しも期待しにくい。

攻撃はこれまでに比べて威力半減。とても中途半端だった。3バックは、5バックと紙一重の布陣だ。5バックになっている時に、相手からボールを奪い、攻撃に転じようとしても、サイドでボールを受ける人がいない。よって、ピッチの中央でボールを繋ぐことになるが、難易度は上がる。安定感にも乏しい。攻撃のスピードも上がらない。スピード感を上げようとすれば、失敗覚悟のカウンターになる。

しかし、ドイツはそうしたサッカーを、本来は好まない。3−5−2を敷きながらも、相手を正攻法で崩そうとした。イタリアとの最大の相違点は、まさにそこになる。偶然性を狙おうとするイタリアと、確実に狙おうとするドイツ。ドイツは布陣との適性でイタリアに劣った。その結果、本来の長所を、ほとんど発揮することができなかった。惜しいチャンスは何度か作ったが、決定機というほどではなかった。

もっとも、左サイドの深い位置をえぐることに成功した65分の先制ゴールのシーンだけは別だった。GKキックからの流れで、サイドに開いたCFマリオ・ゴメスが左サイドでボールをキープ。粘っているその内側をヘクトルが突き、マイナスに折り返すと、走り込んできたメスト・エジルがドンピシャでそのボールを枠内に叩き込んだ。

地力で勝るのはドイツ。それが明らかになったのは、この直後の攻防だ。関係が互角ならば、点を失った方は、すかさず反撃を開始するものだ。だが、かさにかかったように攻めたのはドイツ。イタリアの弱さが露呈した瞬間だが、ドイツの攻めは相変わらず中途半端だった。押し切れずにいると、78分、ジェローム・ボアテングがハンドの反則を犯し、イタリアにPKを献上してしまう。

1−1。ここから延長の30分間を含む40数分間、試合が動くことはなかった。PK戦の結果は、判定勝ちに等しかった。

イタリアは可能な限りの健闘をした。だが、スコアこそ1−1ながら、地力には大きな差があった。勢いはあるが技量不足。抜け目はないが不正確。若手選手の数も多くない。前回2012年のユーロでは準優勝に輝いたが、その前後のW杯(2010年と2014年)は、いずれもグループリーグ落ち。そして今回はベスト8という微妙な成績だ。24チーム中、唯一コンセプトの異なる守備的サッカーで、異端性を強めながら敗退した。

一方、ドイツは、次戦でフランスとアイスランドの勝者に、どんな布陣で臨むのか。最大の注目はレーヴの選択になる。

スロバキア戦で活躍したドラクスラーは、後半27分に交代で出場した。起用されたのは3−5−2の2トップ。だが彼は、ディフェンスを背にしたプレーが得意ではない。

延長に入ると、その3−5−2は3−4−3「3」に変化。ドラクスラーは「3」の左右で構えることになったが、スロバキア戦の再現はならなかった。2014年W杯以降、現れた選手の中で一番の目玉。彼の活躍なしにドイツの優勝はないと思う。

(初出 Web Spoeriva 7月3日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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